2.6 魔王と呼ばれた 大統領
少し時を戻る。
ショイル国の中央政府,第22代大統領。
魔王ウィリアムこと エディス・ウィリアムソン,
実際の政治を担うのは,首相が率いる内閣。中央政府の儀礼的な大統領は,兼西方県共同女王,兼エスターライヒ公,…,として,ショイル国の諸民族を束ねる。
しかし,雉くんとウーヅ,そしてアルフレッド3世や,ドクダミ庁員として双瑞皇帝に仕える者達は,柔和な言動に対する
(
闇魔法などの能力は持っていないけれど,カリスマ性だけで君臨している。
自身を含めた全ての人間に対する憎悪の原因は不明だが,“紙の地球”を,イウルフ
大陸だけでなく全てを滅ぼすべく,暗躍していた。
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雉軸んとウーヅや,ティケと精霊イヅーの前に現れる時は必ず,その色に
“ヴェルデ”と呼ばれている服装。
文民なのだが軍服を,
その上に 中
共和国騎士団 “表” 部隊からの報告は,
幻影魔法の術者,
声を荒らげる事も無く,魔王ウィリアムは口にした。
「先月も言っただろう? 何十回失敗しても構わない,実験なのだから」
「ありがとうございます。呪いで操った者の中で,王太子だけ勝手に解除され,
しかも消息が不明になっていますから。その捜索を急ぎましょう」
8月24日の会談と違って,クインが不織布マスクをしていない。
「双瑞帝国の
「存在していないし,夫の先祖が
「うむ。 …表部隊から県王城を監視している時,王太子自ら,牢にいる婚約者を脱出させた。追跡した騎士がいったんは接触したが,逃げられたとの報告があった。私はその場にいた者が気にかかる」
「えぇ,双瑞帝国の貴族ピット子爵,チャーリー・トリスタン・キーガンですね」
「クレア王子は,ドクダミ庁の電車による哨戒と合流するべく,何らかの方法で彼と
打ち合わせていたのだろう」
(※実際は,トリスタン先輩が仕事中に偶然,通りかかっただけ)
「ピット子爵の独断か,ドクダミ庁上層部が派遣したのか。どっちにしろ,ストリング公爵家の姫君もクレア王子も,表部隊の騎士に追われたのを彼に話しますね」
「ショイルの住人,特に共和国騎士団,“裏”の騎士達へ,気付かれなければいい。
これまで通り,双瑞帝国にはこちらから情報を流す,私自身がな。クイン,いいな」
「重々承知しております」
魔王ウィリアムが自らの幻影を活動させる事が可能なのは,首都から北へ200km離れたリスバーン領のあたりが限界。より離れている上,ザクロス山脈やポース&
「しかし魔王閣下,2日かけても発見できていないという現状を,どうするのですか?」
妻による質問へクインも頷く。
「いいや,心当たりならある。東壁の大精霊だ」
クインと妻は顔を見合わせたが,すぐに察した。
「大精霊の加護の一つ,という形で捜査を,許可の書状を無効にする法律を発動させるつもり,なのでしょうか」
「可能性がある,というだけだがな。この場合は,ドクダミ庁とディオルート公爵が,
協力か黙認すると思う」
「白い手のグリンフェンは,既に双瑞帝国へ亡命していますね。
クレア王子と婚約者ティケにも逃げられたとなると,厄介な事になりますね」
「西方県王には中央内務省から,引き続きストリング公爵家を領地で軟禁しろと命じてある。裏の騎士達を展開させた内務大臣の名であって,私じゃないが」
「閣下が儀礼的な存在のはずなのに,実際は権力を握っているのが自国民に知られたら,不逮捕権などを失いかねない。このクインとしても,警戒します」
続けて詳細な指示を出すと,書斎から退出する二人が右手のひらで挙手の敬礼を
したのに対し,右手のひらで挙手の答礼をした。
見送ってから机に戻ると,魔王ウィリアムは独りごちる。
「さぁ,白い手のグリンフェンと,呪い子だけの為の勇者よ。
全ての人間,この私も例外無く愚かで,傷つけ合う。そこから殺し合う,あらゆる争いへ発展しうるのだ…。家族の愛だの好きだの,それが
リスバーン子爵に対し,本名の堅朋を言わずにショイル語名の方で呼びかけてから,こう続けた。誰も聞いていないのを承知の上で。
「不幸になるがいい。魔王ウィリアム自身も含めた,全ての人間よ―」
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