11.5C (第1章の前編の5話のC) 

  八皓車庫事務棟の応接室。

 パイプ椅子に奥からウーヅ,雉くん,ロジャーの順に並んで腰掛けている。


 やがて,8061列車の到着を待って八皓口へ向かった営業列車が折り返してきた。

 クモハユ1号(※10m級1扉半鋼製車体の直流抵抗制御車,主電動機を装架した台車とそれ以外の床下機器との重量バランスを考慮し固定軸受が採用され,片ボギー車に。

 双瑞帝国で最初の国産電車)の八皓方に連結された,5001.クモハ601(※601系通勤型電車のうち,クモハニ1号との2両編成を組成する,新たな片運転台の電動車として1両だけ製造された5000番台。20m級4扉車でIGBT素子VVVFインバータ制御のオールステンレス車体は,他の601系電車と共通。央歴1016年に落成)から,先ほど助役が言っていた―じゅうがわ参謀総長とドクダミ庁大臣,そして皇帝アルフレッド3世の使いとして送り込まれた秘書官が,副官や護衛の騎士を従えて降車してきた。

 急きょ訪問して会議を行う事になった為か,一行はやむなく現金で乗車券を購入して営業列車を乗り継いできたようで,国鉄の運転士の前で立ち止まっては,紙のきっぷを乗務員室備え付けの運賃箱に入れていた。一行が助役の案内で事務棟に足を踏み入れる音が聞こえると同時に,ロジャーと雉くんは起立し敬礼する。 

 応接室へ入ってきた,参謀総長と大臣は挙手の礼,秘書官は挙手の敬礼をロジャーと雉くんに向けながら歩いていく。ソファに腰掛けると彼らは手を下ろしたので,

ロジャーと雉くんも手を下ろす。

 「二人とも座ってくれ。時間が惜しいから,もう臨時の会議を始めよう」


 ドクダミ庁のつら 隆倉たかくら大臣が長男とその先輩へかけた声を合図に,始められる。




 まず13時56分から1時間ほどは,子爵家令嬢へ何が起きたかの確認についやされた。 

 耐火フードをかぶったままケープの中,膝の上で両手をぎゅっと握りしめ,

「本当に,突然だったんです……」と,ウーヅは語り始める。


 ―この日は朝から気分が悪く,起きた後に立ち上がれず,枕元に置いた眼鏡をかける事もできないまま,ベッドへ腰掛けていた。寝室から出てこないので中に入ってきた母親は,顔を両手で覆って,膝に肘をついているのを見て心配になり,その頭を撫でると,医者へ診せるからもう一回寝なさい,と言い付けた。黙ったまま顔を縦に振ると,ベッドへ再び横たわる―。この直後で記憶は途切れている。 思い出せるのは寝転がったまま,あお向けで眼鏡をかけたところまでだった。

 そして女の子は黙り込み,秘書官や副官の万年筆の音だけが室内に響く。出席者は皆,順番に紙片へ目を通す。事前に雉くんが聞き出して書き記した内容と,改めて話した内容とを突き合わせ,ほぼ同じである事に驚いていた。 


 相手が違うものの,苦しい記憶を2回も言葉に出した事で,かえって心が落ち着くと,

「ここからは先は,よく覚えていません。気が付いた時はもうアイロンフォレストにいて,魔王に,捕まったから……ごめんなさい,迷惑はかけません,少し休んだら,帰国させてく―」

と,ウーヅが頭を下げた時に,

「大臣閣下,グリンフェンさまへ,質問してもよろしいでしょうか」

 参謀総長が,令嬢をショイル語名で呼び,言葉を遮った。

 「あぁ,しかしご令嬢に無理をさせてはならないぞ」

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