頼らない子をなんとか頼らせたい!〜方法が強引すぎる〜

八月一日茜香

頼らない子をなんとか頼らせたい!

我がその子を見つけたのは、日課の鬼ごっこの時だったのじゃ。水鏡で豊葦原中国(とよあしはらのなかつくに)を覗くと、そりゃあ、もう可愛い子がおっての、だけど、その子はあまり人を頼らないみたいだったから、我は心配で心配で、つい、えいってやっちゃったのだ。


それは私が、修学旅行で、友達と大浴場に向かう時だった。私は友達と、他愛もない話をして、歩いていた

「ねぇ、今日の体験めっちゃ疲れなかった?」

「それな?ていうか、あの時、声掛けてくれてよかったのに」

「いやぁ、申し訳ないなって」

「もう〜」

あの時とは、農業体験の時、二人から四人でやってやっと運べるぐらいの重い荷物を、私が一人で運んだことだ

「そこがいいところなんだけどね!もうちょっと人を頼りなよ?」

ふふっと笑って、受け流した。頼ってない訳じゃないが、どうしても自分一人でやった方が、早かったのだ。まぁ、そのおかげで、腰が痛いが。そんなふうにしゃべっていると大浴場の更衣室についた。履いていた靴を靴箱に入れ、持ってきた荷物をカゴに入れている途中で

「あっ!!!」

「どうしたの?」

友達が私の顔をのぞき込む。私は

「ごめん!バスタオル忘れたから、先入ってて!」

「えっ、ちょっまって!」

「それじゃ」

友達が何かを言いかけていたが、急いでいた私は、聞かずに飛び出した。すると、唐突に眠気が襲ってきた

「はぁ?」

そう呟いた時には、視界が暗転していた。目を開くと、また廊下に居た。しかも隣には友達もいる。友達は

「そこがいいところなんだけどね!もうちょっと人を頼りなよ?」

と言った。私は「(なになに、何が起きてるの?とりあえず、行くか)」と思い、また大浴場に着いた。そして私は同じように、バスタオルを忘れたことに気がつき、大浴場を出ると、また眠気が襲ってきた。そんなことを何回も繰り返して、私は「(しょうがない。友達の話を聞くか)」と思って、今まで聞いていなかった、あの言葉の続きを聞く

「えっ、ちょっまって!」

「どうしたの」

友達は、振り返った私に、ほっと息をついて

「あたしさ、バスタオル二個持ってるから、良かったら使ってよ」

まるで太陽かのような眩しい笑顔で、私にバスタオルを差し出す。私は、差し出されたそれを受け取れず

「えっ、いいよ。取りに行くからさ」

そう言うと、友達は眦を吊り上げて

「もー!さっきも言ったよね。ちょっとは頼りなって!遠慮なんかしなくていいから。ほら!」

と言って、強引にバスタオルを渡す。私は今更返すことも出来ず、散々迷った上で

「ありがとう」

そう呟いた。すると

「どういたしまして!」

いい笑顔で言う友達。頼るのは苦手だけど、今だけは、この好意に甘えようと思って、ふっと顔を緩ませる。そして友達と仲良くお風呂に入った。もう、ループは起きなかった。


「いやぁー。良かった良かった」

我は一人満足して、水鏡から離れる。そして鬼ごっこへと戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

頼らない子をなんとか頼らせたい!〜方法が強引すぎる〜 八月一日茜香 @yumemorinokitune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ