第3話 マッチョマン
「ねぇ、サイドチェスト。お昼どうするの? 」
サクヤに問いかけられる。ちなみに今朝の件があってからずっとこう呼ばれていた。根に持つタイプらしい。いや、俺が悪いんだけどさ。パンイチでマッチョマンをやった俺が悪いんだけどさ。
「なぁ、悪かったって。だからその呼び方やめてくれませんか? お願いします。」
「ん? サイドチェストはおかしなことを言うね。サイドチェストのサイドチェストがサイドチェストじゃなくなったらサイドチェストがサイドチェストにならなくなっちゃうじゃん。」
うん。許してくれなそう。サイドチェストの過剰摂取で脳がおかしくなりそうだ。あれ、サイドチェストってなんだっけ?
今日のうちはもう諦めよう。そんなことより昼飯だな。あだ名がサイドチェストになるのは勘弁して欲しいから人目の少ないところで食べたいけど……
「なんか購買で買って、外で食わないか? 」
「いいよ。」
サクヤはあっさり承諾し、俺らは2人して購買へ向かった。
購買で買い物を終えた俺らは人目の少なそうなベンチで食べることにした。道中も俺のことをサイドチェスト呼びをしていたことから考えると、まじで徹底してやがる。
そもそも俺と一緒にご飯を食べてくれるし、本気で怒っているとは思えないけど。もしかして俺、からかわれているだけか?
「サクヤ、俺のことからかってる? 」
「ん? からかってないよー。」
その言葉とは対照的に口元は笑っている。あ、こいつ絶対楽しんでるな。ならこっちも開き直ってやる。
おもむろに俺は右肘を曲げ、筋肉を見せるポーズを作る。
「マッチョマン。」
そして何事もなかったように食事を再開する。
それを何回か繰り返していると、
「ねぇ、さっきからそのマッチョマンってなに? 」
サクヤが食いついた。でも何かって言われてもマッチョマンはマッチョマンであってマッチョマンでしかないから、答えはないんよな。だから返答がわりに、
「マッチョマン」
筋肉で答える。
「えっと……ジン? ごめん、僕が悪かったからそれが何か教えてくれない? 」
「マッチョマン! 」
「うわぁぁぁ。ジンが壊れちゃったよ! 僕の負けだからジン、戻ってきてー! 」
そう言い俺の肩を揺さぶってくる。俺は勝負に勝ったらしい。若干可哀想になってきたからやめてやるか。
「おう、サクヤ戻ったぞ。サクヤの大好きなジンさんだ。」
「大好きかは置いておくけど、良かったー! ジンが戻ってきてくれて! 」
「良かったな。ところでそんなジンさんからのお願いなんだけど、腕を伸ばしてくれないか? 」
「こう? 」
言われた通りにサクヤは右手を前に伸ばす。その状態でひじを見てほしい。
「そうそう。あっ、サクヤ、肘に何かついているぞ? 」
「えっ、どれ? 」
サクヤはそのまま自分の腕を見ようとした。
やってみたらわかるが、腕を伸ばした状態でひじを見ようとすると……
「マッチョメーン! 」
マッチョマンが降臨する。俺もマッチョマンだから2人合わせてマッチョメン。いやー決まった。油断させてからの不意打ち。作戦が上手く行ったことに満足していると、
「…….せ。……えせ。」
隣でサクヤがふるふる震えながら何か言っている。あれ、やりすぎたか?
「返せー! ジンを返せー! 」
やばい目がガチだ。実力的にサクヤの方が上なので、されるがままにサクヤに殴られていたところ、
「えっと……お取り込み中? 」
不思議そうに、そう声をかけられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます