第7話 方針

 戻るとすでに説明は終わったらしく、サクヤだけが残っていた。サクヤが俺に気付き、駆け寄ってきた。


「おかえりー。」


てっきり文句でも言われるのかと思っていた俺は拍子抜けする。


「ごめんな。急にどっかいって。」


かといって謝らないのは違う。人にちょっかいはかけるが、だからこそそういう所はきっちりしたいのだ。


「いいよいいよ。ジンはあの人を見ていたんだよね。」


そう言ってサクヤが指を刺したのは、剣聖の娘、ではなく周りの人とあまり変わらない感じで素振りしている男の先輩だった。俺は戸惑っていると


「やっぱりジンはすごいなぁ。」


と褒めてきた。もう訳がわからん。しかしサクヤの言葉は止まらない。


「あの人一見地味に見えるけど、筋肉の使い方とか、型の綺麗さとかが凄く洗礼されているんだよ。ジンが見ているから凄い人なのかなって、先輩に聞いてみたら教えてくれたよ。それで僕もよく見てみると気がついたんだけど、一瞬で気づけるジンは凄いや。先輩も驚いていたよ。正直にジンが見抜いたことを話したら、『今年の新入生は期待できるな。』だってさ! 」


よし分かった。サクヤが凄い勘違いをしていることが分かった。だいたい俺はそこまで目は肥えていない。今見ても凄さがイマイチ分からないし。


ここは早めにサクヤに話しておこう。俺には威圧しかないって。サクヤなら周りに言いふらすこともないだろうし。


俺が喋り出すよりも先にサクヤが口を開いた。


「僕もジンみたいに強くならなくちゃね! もっともっと努力しないと! これから一緒に頑張ろうね!! 」


そう純粋な目を俺に向けて言ってくる。


「そういえば何か言おうとしていた? 」


首を傾げて尋ねてくるサクヤに


「いや、なんでもない」


本当のことを告げる勇気は俺にはなかった。



 部屋のベッドの上で暗がりの中、横になる俺。上のベッドには既に寝ているサクヤがいる。


結局言えなかったなあ。明日から本格的に授業が始まる。座学はいいが問題は実技だ。村では強かったが、それがここで通用するとは思えない。かといって威圧を乱発して、スキルが威圧だと知られ、実力がないことがバレたらまずい。威圧の効果が薄まるからだ。実際に、俺の実力を知っている師匠に威圧をしてみたけど、全く効かなかった。そうなってしまえば、スキルを使ってくる相手に俺が敵うはずがない。


どうするかな。サクヤに話しておけば、もしかしたら協力してくれるかも知れないけど……


あの目を思い出すとどうも気が引ける。


まあなるようになるか。俺はこの学院に入学できたのだ。なら卒業できるポテンシャルも持っていると偉いさんたちが判断したという事になる。


ならば堂々と胸を張って居ようじゃないか。虚勢でもなんでもいいから取り敢えず舐められないように。問題が起こればその都度対処したらいい。平民の田舎出身の俺に失うものはない。ある意味、無敵の人間ってわけだ。


明日からの方針が決まり、悩みが薄らいだせいか、急激に眠気が襲ってきた。そしてそれに逆らうことなく、眠りについた。



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