第3話 不意打ち

 目の前の生徒が一斉に地面に膝をついたのだ。誰かに敬礼する時のやつではなく、崩れ落ちるように。


横を見るとサクヤが顔色を悪くしてこちらを見ていた。何かに怯えたいるようにも見えた。


しかし、俺はこれを知っていた。街のチンピラに半ば通り魔的に威圧を当てた時の顔とよく似ている。


まずい。もしかして無意識に威圧を発動してしまったのか?


周りを見渡すと立っているのは俺含め10人ほど。俺の他に、例の王子や例のご令嬢、剣聖の娘と何故か俺の右隣の少女。他に知らない人が何人か。


どうやって言い逃れしようかと冷や汗をかいていたが、それは杞憂だった。


「ほう。今年は12人も耐えられたのか。」


そう口に出したのは生徒指導の先生。


皆黙って先生の方を向く。


「よし、皆座っていいぞ。」


そう先生が言うと、地面に膝をついていた人たちはそろそろと椅子に座り直した。


横に座っていたサクヤから小さな声でよく耐えれたねと言われたが、いまいち何のことかよく分からず、まあなとしか返せなかった。


「おう、話したい気持ちもわかるが俺の話を聞いてくれ。」


さほど大きな声ではないが、さっきのこともあってか、直ぐに静かになる。


「よし。もう全員気付いているとは思うが、少しだけ殺気を放たせたもらった。もし気分がすぐれない人がいたら直ぐに近くの教員に報告してくれ。」


何人か席を立つ中、先生は続ける。


「よし、そうでない人には少し話がある。もちろん席を立った人にも後で伝えるから気兼ねなく行くように。でだ、殺気を放ったと言ったが、これは毎年入学式で行うテストみたいなものだ。かと言って成績に一切関係ないから安心しろ。ちなみに去年は8人、一昨年は9人で今年は12人。久しぶりの2桁だ。もし耐えられたなら誇れ。ちょっとやそっとの鍛錬じゃ耐えられるものではないからな。だが、ここからの学園生活でいくらでも追い抜かれるから決して鍛錬は怠るなよ。そして耐えられなかった者も落ち込むな。これから次第でいくらでも強くなれるからな。皆も知っていると思うが、卒業できるのはこの中で約100人ほど。だが、俺は1人でも多く卒業できることを願っている。そのためにも日々怠ることなく精進しろ。いいな? 」


「「「はい」」」


大人数が答える。無意識に返事をしてしまうほどの迫力がそこにはあった。


「よし、これで俺の話は終わりだ。」


そうして元の位置へと戻った。


生徒指導の先生(結局名前はわからなかった)の激励を受けてから誘導に従って俺たちも退場した。


そして今日はこのままお開きとなった。


今日の昼過ぎにクラスと担任の発表、明日はテキストの配布と説明、ホームルームがあり、明後日からは授業。


明日から本格的に学園生活が始まる。卒業できるように頑張らなくては。

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