第2話 入学式

 寮に戻り、部屋の前へ着くと何やら中からガサゴソと音が聞こえてきた。どうやらルームメイトが到着していたらしい。


ドアノブに手をかけるが、鍵はかかっていなかったのでそのまま開ける。


中には開けた鞄を整理している少年がこちらを見ていた。


先に口を開いたのは俺だった。


「さっき来たとこ? 」


「うん。さっき来たところだよ。」


中性的な声だった。小柄な見た目もあって女子かと思いそうになるが、持ち物の色などはしっかり男子だった。


「僕の名前は、サクヤ。よろしくね。」


俺が観察していると自己紹介してくれた。


「おう。俺は、ジン。割と田舎から来たから知らないことも多いけどよろしく。」


俺も返す。


「あっそうなんだ。実は僕も結構遠くから来てて、割と早めに着くように家を出たはずなんだけど、途中の大雨で足止めくらっちゃって、こんなに遅くなっちゃったんだよね。その代わり馬車代は安くなったから良かったんだけどね。」


サクヤはそう言ってへへっと笑った。


「今日が入学式だからギリギリセーフでよかったな。でもあと30分くらいで会場に入れるからもうそろそろ行かないとだぞ? 」


「えっ? もうそんな時間? ほんとだ! 着替えて、髪の毛直してくるから待ってて! あっそうだ。 一緒行く約束している人とかいる? 」


「いや、別にいないが? 」


「なら僕と一緒に行こうよ! 僕まだ友達いないからさ。」


「もちろんいいぞ。むしろ俺からお願いしたかったところだからな。」


「ほんとに? やったー! じゃあ、準備できたらいうから待っててね! 」


そういうわけで、ひとりぼっちの入学式を回避した俺だった。


 サクヤと2人で広場に戻ると相変わらず人だかりができていた。


「すごい人気だね」


「そうだな。」


流石有名人だけあって、この学園では身分が関係ないとは言え、関係を持っておきたい人が多いのだろう。特に貴族は。逆に嫌われるのはまずいからな。


俺の場合は仲良くなるに越したことはないが、別にそこまで焦る必要はない。卒業さえできればそれで人生安泰だからな。


「なあ、サクヤは行かなくていいのか? 」


「ん? 僕? 僕はいいかな。正直この国のことあまりよく分かってないから、誰が誰なのかさっぱりで。失礼なことをしたら悪いしね。」


どうやら王国の外から来たらしい。てっきり王国の辺境から来たのだと思っていたが、思っていたより遠く来たらしい。


ちなみに俺は一応王国内から来た。辺境の村からだけど。


だからそれなりの常識はある、と信じたい。


「そうか。ならいいか。」


「うん。それよりジンこそいいの? 」


「あぁ。貴族じゃないし、そこまでする必要もないかなって。というより、あそこに混ざる勇気がない。」


「あはは。確かにね。」


そう言ってサクヤは人混みの中を見て、目を細めた。


特にすることもないため、他愛のない話をしつつ時間を潰していると、式場の扉が開いた。どうやら中に入れるらしい。


人混みに塗れて中に入ると、綺麗に椅子が並べられていた。すでに前の方は埋まっていたため、真ん中あたりの席に座ることにした。


席は自由らしい。パッと見渡すと例の人の塊が円状に座っているのを見て少しおかしく感じた。あそこら辺に座っている人とかもう周りに座っているとか言えないだろ。


式が始まるまでサクヤと話しつつ待った。特に何も起きなかったが、強いてあげるなら隣に座ってきた女子が席につくなり寝始めたくらいだ。


俺も式中に寝ないか心配だから今のうちに寝ておこうか少し迷ったが、昨晩しっかりと寝たため全然眠たくなかったのでサクヤと喋っていた。


しばらくして入学式が始まった。特に変わりのない普通の入学式。学長の話は長いし、偉いさんがたは年老いているし。あ、1人若い人がいたっけか。生徒会長はイケメンだし、一年生の代表は例の王子様だし。やっぱり右隣の女子は寝てるし。


式はつつがなく進行され、残すは閉会の辞と生徒指導の先生の話だけとなった。初日から生徒指導しなくてもと思うが、それはもうサクヤと一緒に突っ込み済みだ。


「一同ご起立願います。以上を持ちまして〇〇〇〇年度、王立魔剣学院入学式を閉会いたします。一同、礼。」


挨拶が終わり着席すると、1人の強面の教師が前の壇上ではなく、床、つまり俺らと同じ高さのところへやってきて、一年生に起立させた。


いつのまにか右隣の女子は起きていたらしく、立っていた。その目は眠そうにしていたけど。


なんて考えていたその時だった。

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