知らない予定が入ってる

「あーーもー! やっと捕まえた!!」


 虫網の中でバタバタと暴れるのは、赤い羽根が綺麗な小鳥。ピチチと可愛らしく鳴けばいいのに、その姿からは想像もつかない野太い声でこいつは鳴く。


「お疲れ様です。集まりやすいところが出来たといえど、数が数だけにお手間をおかけしました」


 ぺこりと上司が頭を下げる。別にやらかしたのはこの人では無いので、私はぶんぶんと首を横に振った。


「いえ、元凶はいつもの方々ですし……サーバー世界が出来た分、本当楽でしたよ」

「昔はヒトの手帳やらカレンダーやらに飛び込む前に捕まえないといけませんでしたからねー。青や緑は取り逃がしてもまだ影響が少ないからいいですけど、黒と赤は本当にまずいですからね」


 未だ網の中で暴れ続けるそれに上司がスッと手をかざせば、ぽてりと赤い小鳥は力無く網の中に落ちた。すやすやと眠る身体を掴み上げて、用意していた袋の中へと放り込む。


「ちなみに逃げたヨテイ鳥の数、あいました?」

「残念ながら時期が近かったらしい二、三羽を逃しました。直接人体に飛び込まれては追い出す事も出来ませんし、こればっかりは仕方ありません」


 運命という都合のいい言葉で諦めてくれる事を祈ります、と足元に広がるビル群を眺めつつ上司は言い切った。慈愛の宿る眼差しにつられて思わず私も下界を眺め見た。


「さて、貴方は捕獲したヨテイたちを館に戻してきてくださいね。くれぐれも扉の施錠は厳重に。二度あることは……などとと言いますが、またやらかされては堪りませんので」

「かしこまりました。しっかり施錠します」

「頼みます。私は二色のヨテイに拐かされたものたちを冥界に連れてから帰りますので、報告書もぜひ」

「うっ」

「くれぐれも彼女の機嫌を損ねない内容でお願いします」

「……はい」


 上司はにこやかにそう告げて、私の頭をひと撫でしてから颯爽と空を駆けていってしまった。諦めるのはヒトより私が先だったな……と溜め息を吐きつつ、鳥たちを放り込んだ袋を担ぎ直す。先ほどから青の鳥を入れた袋の中からピピチと愛らしい囀りが聞こえだしているので、全てが目覚めてしまう前に辿りつかねばと帰路を急ぐのだった。


そして後日。

"知らない予定が入ってる"という都市伝説にされたよ、と上司がとてもいい笑顔で事の顛末を教えてくれた。神の気まぐれを予定調和で片付けるなんて、あの方々はいい加減にも程がありすぎると苦笑する事しか出来なかった。

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SS集 風見弥兎 @yat0_k

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