ショウジョウバエ

 ようこそ、私の城へ。

 大城教授のラボは、真っ白だった。

 さて、私は忙しい。

 このノートに書かれている実験を、

 今日中に終わらせてくれたまえ。

 私はノートを手に取り、めくる。

 今日中に? ご冗談を。教授。

 教授は立ち去り、部屋に鍵をかけた。

 終わるまで、出てくるな、

 ということだろう。


 私は吐きそうだった。

 実験の忙しさはもちろんだが、

 実験動物のせいだ。

 ショウジョウバエ、

 フライ猩々オランウータンの遺伝子を組み込んだキメラだ。

 何も、心配はいらんよ。

 教授はそう言っていた。

 そう、なのかもしれない。

 遺伝子的には、ハエ、なのだろう。

 黄色い肌、全身に薄い緑色の毛。

 人、の形をした、ただのハエ。

 そう、ハエだ、ハエ。

 私は自分に言い聞かせる。

 実験中に、

 ショウジョウバエは叫ぶ。

 ハエには痛覚はないはずなのに。

 赤い目から、赤い涙を流す。

 ああ、糞、吐きそうだ。


 何とか、実験を終えた。

 真っ白だったラボは、真っ赤。

 惨状から目を背けるため、

 またデータをまとめるため、

 実験台とは反対の台にある、

 PCを操作していた。

 ん? この部屋には誰もいないはずなのに、


 後ろから、人の気配がする。

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少女奪えとショウジョウバエ あめはしつつじ @amehashi_224

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