少女奪えとショウジョウバエ

あめはしつつじ

少女奪え

 少女は城を見上げる。

 天高く、高く、高く、高く、高く、

 そびえる城を。

 宇宙エレベーターの、

 グラウンドフロア。

 城下町に少女は住んでいた。




 朝、目を覚ますと、空腹。

 いえ、空腹で目を覚ましたのかも。

 私はきしきしと痛むお腹を、

 体に掛けていた薄い布で強く締める。

 城が町に落とす影で、

 ちょっと早起きしたことが分かる。

 お腹、空いたな。

 私は、配給所へと向かう。


 配給所で、配給されるのは、

 一枚の紙。

 工場の場所が書かれている。

 働かざる者食うべからず。

 仕事をすれば、食べ物にありつける。

 仕事は糸を撚る仕事。

 私は工場へと向かう。


 工場で、

 蠅が手を擦り足を擦るように、

 私は糸を撚る。

 この糸が城を作っているのだ、

 光栄な仕事を与えられることを感謝せよ、

 と上の人は言うけれど、

 私は城へは上がれない。

 城に入ることのできない下僕の町。

 それが城下町。

 ぼんやりとした頭でどうにか、

 仕事を終える。

 配給所でもらった紙に、

 上の人から印を貰う。

 私達は見下されている。


 仕事を終え、食堂に行く。

 印を貰った紙と交換で食事が手に入る。

 お腹を締めていた布を緩める。

 パンと何かのフライと少しの野菜。

 けれども、これは、残飯なのだ。

 私達が、育て、作った食料は、

 文字通り吸い上げられ、上納される。

 上の人が残した、余り物が、

 私達に、下賜される。

 私達は、残飯に群がる蠅だ。


 お腹が満ちたので、頭が回り始めた。

 布に包まり、私は空想をする。

 お城では舞踏会が行われていて、

 豪華なご馳走がたくさんで、

 暖かくて柔らかいベットで眠って、

 そんな毎日を繰り返し繰り返し。

 風が吹き、そんな空想を吹き飛ばす。

 いつもと、風向きが違う。

 南風でなく、北風。

 冬の気配が近づいている。

 風に奪われそうになる布を、

 私はしっかりと握る。

 私は、もう、

 何も奪われたくない。

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