第15話 追いかけっこ
「待てぇぇぇぇえぇ!ウルフ!」
真夜中、良い子はとっくに寝ている時間っていうのに俺とアリエッタは全力疾走していた。
ウルフは屋敷から離れて酒場や遊技場が建ち並ぶ場所へ逃げていった。
そこには酒や博打やら娯楽がある。だから豪遊する大人たちが集まっていた。
どうやらウルフは人混みに紛れて追手から撒くつもりだろう。
「そうはさせねえよ」
盗人と俺たちの距離はだいたい10メートルぐらい。
その距離を縮めるために道中で談笑している人々を躱しながら追いかけていた。
見失わないために俺は逃げる盗人を凝視。
ウルフの服装は胸回りを覆った白い布に服を一枚羽織っている。前から見たときほっそりとしたウエストが露出していた。下はデニムの短パンに底の厚いブーツ。
揺れている短髪は銀色でゆるふわとパーマがかかっている。
そしてもっとも俺が目に入ったのが頭とお尻についているそれ。それが自分のことをウルフと名乗っている理由だろう。
『ねぇ兄貴、ウルフのお尻にあるのってって尻尾だよね?あれって本物なのかな?』
ウルフの頭には獣耳、お尻にはふんわりとした尻尾が生えていた。
『それじゃ盗人の正体は獣人なの?』
となると厄介だな。
この世界には人間の他に、動物と人間の特徴を持つ獣人というものがいる。
外見はさほど人間と変わりないが、身体能力は人間より優れている。
もし盗人が獣人だったらこのまま追いかけても、いずれ俺たちの体力の底をつき、逃げられてしまうだろう。
「きゃああああああ!誰か助けて!」
しつこく追いかけていると、突然ウルフは叫んだ。
助けを求める声に通行人は顔つきを変えて、俺たちをガン見した。
ウルフの正体を知らないやつらからすれば、幼気な少女が俺たちに襲われているとして見えているだろう。
悪者はウルフじゃなく俺たちだ。
「おい!お前ら」
正義感の強い通行人が俺たちに立ちはだかり追跡の邪魔をする。
「おい、弱い者いじめは見過ごせねぇな……ひくっ」
「てめぇ……もしかしてあの子を攫って売りさばくつもりだな……ひくっ」
「そうはさせねぇ………俺たちがあの子を守ってやる………ひくっ」
筋肉質の男3人が行く手を阻む。やむを得ず、俺とアリエッタは動かしていた足を止めた。
「くそっ………どいてくれないか?俺たちはウルフを追っているんだよ」
「あ~?ウルフ?……何言っているんだ?あの子は狼じゃねぇよ。ちゃんとした人間だ……ひくっ」
「そっちじゃねぇ、盗人ウルフだよ」
「ウルフ……バカ言っちゃいけねぇ。狼が盗むわけねぇだろ?……ひくっ」
面倒なことに全員泥酔状態だ。
酒で顔が真っ赤になっていて頭も呂律も回っていなかった。会話がまったく嚙み合わない。
こんな奴に構っている暇はないのに……無理矢理通るか?いや、力に負けて拘束されるな。
『どうする破壊する?』
するわけないだろ?怖いこと言うなよ。
リムの提案を拒否して目の前の酔っぱらいを睨んでいると、アリエッタは黙ってどこかへ行った。
向かった先は近くにある酒場。
テラス席として店の外に置かれているテーブルを掴み、
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そのまま自分の頭上まで持ち上げた。
大きさ的に二人じゃないと運べないテーブルを腕の筋肉だけで持ち上げる彼女。
あり得ない光景に俺とリムは「嘘」と言葉を漏らしながら見ていた。
………いや、何してるの、あいつ? そこで飲んでた客いただろ?
アリエッタの足元にはさっきまでテーブルに置かれていた料理や皿が落ちている。
「おい何してんだ?」と客から文句を言われてもおかしくないが、その客は唖然としていた。
まぁ………いきなり少女が近づいてきてテーブルを持ち上げたら、ビビって何も言えないだろう。
「トモヒコっ!伏せてぇ!」
そう言うとアリエッタは助走をつけてテーブルを放り投げる。
大きな物体は勢いよくこちらに飛んでくる。
「あぶなっ!」と中腰で避けると、邪魔する酔っぱらい3人組に直撃、そのまま倒れてテーブルの下敷きになった。
「ほら、追いかけるわよ!」
「え?、ちょ、は?」
3人の酔っぱらいが動かなくなって周りが絶叫している中、アリエッタは気にせずに再び走り出した。
「お、おい!あれ、いいのかよ?」
「別にいいの。喧嘩の売ったのはあっちなんだから」
「喧嘩を売ったって向こう何もしてないんですけど?」
「トモヒコ、あんたは小さいことは気にしない寛容な男になりなさい」
「全然小さくないんですけど!……頼むから死なないでくれよ、あいつら」
「大丈夫よ。男なんだから」
俺たちは人混みの多い道を走る。
盗人を捕まえるためなのか、それともあの場から離れるためなのか、俺には走る理由が分からなかった。
うちの破壊神がすみませんっ!~破壊神に憑りつかれた俺、誰かこいつを引き取ってください~ 晴ノ日 @hiroharu123
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