(後)

※ ※ ※


 軍隊の突入からわずか八分。


 奇襲作戦が功を奏し、アジトとしていた廃工場の中から、手錠を掛けられたギャングたちがぞろぞろと連れ出された。


「これで主だった残党組織はすべて壊滅ですな。……アン様、これまでよく戦い抜いてこられましたな」


 眉の太い側近の軍人に笑いかけられたアンは、表情を変えずに静かに頷いた。


 あれから五年。


 王位を継いだアンは文字通り軍の先頭に立ち、徹底的にギャングの残党を排除した。連中の息のかかった者は王室の中にまで蔓延っており、それらを一掃するのは並大抵のことではなかった。事実、彼女がその命を狙われたことも一度や二度ではない。それでもアンは戦うことをやめなかった。ギャングたちに一切の慈悲を与えないその姿勢から、身につけた冷血のブルーダイヤはまさしく彼女の象徴となった。


 護送車に向かって歩くギャングたちの列には、最後の大物と称されたフレドもいた。自慢のオールバックは軍との衝突でぐしゃぐしゃになっていた。ふと、フレドは視界の先──軍人たちの待機所にアンの姿を見た。瞬間、怒りが噴き上がった。隠し持っていた針金で手錠を外しておいたのは、本当は隙を見て逃げ出すためだった。だが、育ての父を死に追いやった張本人を目の前にして背を向けるつもりはない。フレドは列を飛び出しアン目掛けて走った。だが、彼女の危機を察した大型の雑種犬が飛び出しフレドの足に噛みついて動きを止めると、屈強な警備兵たちがすぐに取り押さえ、彼は泥だらけの地面に組み伏せられた。フレドは歯を食いしばりながら顔を上げると、割れたサングラスの隙間からアンを睨みつけて叫んだ。


「テメェだけは絶対に許さねえ! 必ず地獄へ叩き落としてやる!」


 アンはゆっくりとフレドに近付くと、その場に屈んで視線を合わせた。そして、優しく冷たい微笑みを向けて言った。


「ええ、是非」


-おわり-

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冷血の地獄へいきたガール 権俵権助(ごんだわら ごんすけ) @GONDAWARA

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