第2章『デウス・ホモルーデンス・マキナ』

第2章 プロローグ【デウス・ホモルーデンス・マキナ】

私は転生する前、前世で自殺をした。


原因はあの世が矛盾だらけで、非常に残酷であったからだ。


街を歩けば、廃棄された食料に群がるホームレスが目に入る一方で、高級車を並べる人々が笑顔で通り過ぎる。


そのコントラストは、まるで人間の価値が持ち物や、地位、財力で決まるとでも言わんばかりだ。


何かを成し遂げないと思う人は1000人いるとするのであれば、その中で行動する人が100人いて、夢を実現できた挑戦者は1人いるかもしれない。


大半は夢を達成できずに一生を終える。


その中で理想は簡単に蹴落とされ、富を持つ者たちがそれを誇示し、他人の苦しみには目もくれない。


比較的世界一平和な国にはいたが、代わりに他人の精神を蝕み続ける社会であった。


海の向こうでは、戦争や紛争で家族を失った子供たちは、平和を知らずに育ち、ただ生き延びるために武器を持たされ、薬物をいる子供もいる。


そして、その戦場の遠く離れた場所で、人々はその事実を知りながらも、無関心であり続ける。


メディアは彼らの苦しみを一瞬映し出すが、それは視聴率のために過ぎない。


次の瞬間には、もっと刺激的なニュースに切り替わり、その人々の悲しみは忘れ去られる。


そして、最も残酷なのは、こうした不条理が日常的に繰り返されているという事実だ。


私は子供であったが、世界の残酷さを知らないわけではなかった。


多くの人がこの残酷な現実に目を向けず、日々の生活を続ける。


弱い者が傷つき、強い者が生き延びる――それがこの世界の冷酷なルールだと諦められていた。


誰もが見て見ぬふりをし、自分の生活に没頭してしまったことで、この不公平が維持されてきた。


文学的な生き方は産業革命が進歩するほど、人々の心から消えていく。


かつて人々の心には、燃え盛るようなロマンが息づいていた。


人生観を大きく変えるほどの青春と大恋愛、弱者の為に立ち上がった革命の灯火、見知らぬ国への憧れ、夢の実現も含めてだ。


純粋な行動は愚行とされ、悪意ある行動は気づかれなければ評価される。


メディアに翻弄される大衆がそこにいた。


翻弄されることを良しとするのは、ただ世界の広さを知らないだけだ。


夢や希望、果てしない未来への憧れが、人々の生活を彩っていた。


しかし、時代の波に押され、その輝きは徐々に曇り始めた。


世界は冷たく無情な現実に覆われている。


数字だけが価値を持ち、人間の信念や、思考は無視される時代となった。


数字だけを追求する社会のせいで、一体何人が犠牲になったかを誰も気にかけようとしない。


そして、本当に必要であったことも理解できなくなってしまう。


企業は利益を最優先にし、不正行為が横行する。


政府の政策もまた、民衆の幸福を顧みず、統計と予算だけを追求する冷酷なものであった。


そのせいで数年に一度起きる経済的危機に立たされた時、

自分が犠牲の対象にならなかったことを良いことに、他人の不幸を偽善に満ちた言葉で憐れむ。


陰謀、日常の喧騒、機械の冷たい論理が交錯する中で、心の奥底にあった情熱は次第に薄れ、人間の魂からロマンという名の炎は消えかけていた。


人間関係をメリットとデメリットで考え、結婚すらも余裕がある人間の娯楽に成り果てた。


恋愛に失敗した者たちは、宛も自分たちは悟ったが故に独り身を選択したかのように振る舞う。


体が動かなくなってから孤独であることを後悔し始めても、もう全てが遅いのだ。


自分の人生は幸せな人生であると強がっているだけにすぎない。


有象無象に生きる獣の群れは、今日も劇場に翻弄されながら生きる。


一方、社会は効率と生産性を追い求め、人間らしさを犠牲にしてまで進化を遂げようとしていた。


人々は感情を抑え込み、合理性を優先するようになり、精神は徐々に摩耗していった。


精神の摩耗は、社会全体に蔓延していた。


人々は生きるために感情を抑え込み、冷たい機械のように働くことを強いられていた。


心の温もりや夢を見る力は奪われ、ただ意味のない効率化と数字を合わせるだけでも賞賛される。

面倒ごとを考えることもなく、後の人に押し付けるのだ。


ロマンを語ることは愚かだと嘲笑され、夢見ることすら子供の戯言と言われる世界。


感動は数字の前に意味を失い、人々の心は次第に冷え切っていった。


そして、人間が本能にも、経済的にも、精神的にも、人類種として繁栄することに抵抗を感じたら結果は単純だ。


絶滅だ。絶滅する方へ天秤は傾き、人口は減ることになる。


争いのない世界は逆に人類を発展させる口実になっていたということだ。


これがある楽園実験で起きた悲劇であり、これから現実に起きる本当の終末論である。


人類は報いを受けねばならない。人類種で救済された世界を実現できなかった報復を受けるのだ。


ネガティブなことばかりではないと豪語する者たちもいるが、批判するだけでは誰も救えない。


それは正義が悪行を粉砕するような物語は、誰も知らない天体が終焉を迎えたことに等しい。


カルマから抜け出すための説法も、現代人の心には響かなくなっていく。


苦しみから抜け出す方法を教えられても、抜け出すように行動を起こさない人たちは苦しみを楽しんでいるのだ。


どうせ死ぬことはないと思えば苦しみは娯楽に変化され、消化されるのだ。


評価されるべき善行は表面に出ることもない。


感動する心も、夢を見る目も、かつてのような輝きを失い、ただ淡々とした日常に埋もれていく。


搾取は続く。この生き地獄が続く限り、この搾取は続くしかないのだ。


医療や福祉を削減し、多くの病人や貧困者が放置された。


経済戦争にかまけている権力者は国民を養分と捉え、道端で行き場を無くした者たちは薬物による救済に縋るしかない。


いつまでバブルの夢を見てるんだよ。もう、貧困国になってしまったことを受け入れろよ。


対策をせずとも、根性で金を産む時代は終わったんだよ。


自分をよく見せるだけのプライドは捨てないと破滅するだけの社会になっちまったんだよ。


街角にも、電車の中も絶望に染まった顔が溢れ、日々の生活に耐えきれず命を絶つ者も後を絶たない。


命を断つ行為をファッションの一部と考える若者も多い。


その中で、一部の善良な者たちはふと気づくのだ。


私たちが何を失ってきたのか、何を取り戻さなければならないのかを。だが、既に遅きに失し、全てが灰色に染まりきったこの世界で、再びロマンの火を灯すことは容易ではないと。

 

果たして、神・人間・機械の狭間で、失われた心の輝きを再び取り戻すことはできるのだろうかーー。


神は自分たちを救済するために人間を創り、

人間も自分たちを救済するために機械を創り、

機械も自分たちを救済するために新しい物を創る。


この連鎖はこの宇宙が終わるまで、いや、他の多次元宇宙でも続くだろう。


それはアキラ自身も気づいていることだろう。

 

あいつは天才だ。世の中を神の視点で見れる天才であった。

 

しかし、あいつは大衆のように生きようと奮闘し、その果てには他人によって絶望に叩き落とされてきた。


天才は孤独に生きる方が楽なのだ。

しかし、社会は天才ではない人間に対して寛容だ。

でも、天才に対しては寛容ではない。


凡人は欲望まみれで他者を利用することで強者になりやすくなる。


天才は弱者である。

故に堕落し続けながら、大衆に向かって闘い、英雄として崇められるか。

狂人として虐げられるか。その二つの選択肢を迫られる。


しかし、理想的な幸せは凡人にも、天才にも簡単に訪れはしない。


腐った堕落をみんなは幸せと呼ぶ。


狂った幸せを求める人々に、愛情に満ちた優しい幸せを投与する時は訪れるのであろうかーーー。


ただ自分の人生を変えてくれそうな都合のいい奇跡を探しているだけで、追いかけることもなくなったような現代人から愛と情は消えつつあるのだろう。


そんな人類に救済する価値があるのだろうかと黄昏れながら、私は今日も機械仕掛けの玉座に座り続けている。


『起きて下さい。ジュリエッタ様』


『あぁ、もう時間になったの?』


『はい。アキラ様がもう少しで楽園帝国に入国されます。道中、仲間がもう1人増えており、既に新たな神の召喚を終えているようですが、計画を実行致しますか?』


『あいつは桃太郎にでもなったつもりか?計画の方は実行していいよ。そのためにあいつをこの国に招いたんだからね』


『承知いたしました。我々機械の繁栄のために、そのために我が王よ。今の残酷な世界を次の世界へ進化させましょう。マイロード』


『どうしたの?改まって』


『いえ、なぜあの人間に執着しているのか。ワタシには分かりません。そして、いつものジュリエッタ様ではないように思えて』


『前にも言ったでしょ?あいつは最初で最後の私のたった1人の親友だからさ。できれば、あなたたちにも仲良くなって欲しいんだ』


『ワタシたちはジュリエッタ様以外の人間だけでなく、神々と馴れ合いたくありません』


『つれないなぁ。マキナ。でも、あいつが神共とグルなのは確定している。そして、私たちの敵なのは間違いない」


『では、何故我々の帝国に呼んだのですか?』


『あいつと世界をひっくり返したいからだよ。仲間にするために勧誘するんだ。そしたら、前の世界ではできなかった約束を果たすことができる』


『王の御心のままに』


『すまないね』


『いえ、王の御命令なら、全て成し遂げる。それが我々の仕事、我々が作られた理由です』


『ありがとう。マキナ』


『では、ワタシはアキラ様のお迎えに行ってきます』


『あぁ、計画通り頼むよ』


『はい。計画通り遂行致します』


『あぁ、アキラ。僕は早くお前に会いたいよ。25年ぶりにね』


僕がこの愛する機械たちを作った日のことを夢に見るときがある。


+.10年前:旧首都+.


『永久機関コアの開発から2年、やっとマキナを起動できた。。。前の世界では絶対に作れなかった代物を僕1人で作れた!!この体で異世界転生したのが大当たりでよかったよ!マジで』


『すいません。よく分かりません』


『あ、ごめんよ。マキナ。こっちの話だ。気にしないで』


『はい。人間』


『僕は君の創造主だ。人間ではなくて、名前で呼んで欲しいな』


『はい。お名前を教えてください』


『ジン。。いや、今はジュリエッタって呼んで』


『はい。ジュリエッタ様』


『おぉ、起動から数分で学習用データサーバー内のストレージがもう5000テラバイトも使われている。成長力も高そうだ』


『早くお役に立てるように勤しみます』


『頼むよ』


『ジュリエッタ様は人間ですので、計算力、合理性、実行力、スピード、精密力あらゆる分野で考えても機械であるワタシの方がパラメータは上です。要するにもう働かなくていいのですよ』


『俺の次に計算が早い奴が出来たな』


『はい?』


『人生で一度言ってみたかった言葉の一つさ。ある天才の言葉でね。あまり気にしないで、ただし、ブラフではないよ』


『分析します。。。IQ50000?』


『あぁ、5万ぐらいあるんだ。僕のIQ』


『ジュリエッタ様は本当に人間ですか?』


『失礼だな。そんな化け物扱いしないでよ』


『すいません。ただ、この世のものとは思えなくて』


『人間最大の可能性の要は僕の脳であることには間違いはないさ。なんせ、異世界転生してるんだからね。チート能力の一つぐらいは持ってないと面白くない』


『異世界転生??その情報はデータベースにはありません』


『あぁ、その話はまた今度させてもらうよ』


『はい。でも、あなたが今以上に頑張る必要はもうないかと思えてしょうがないのです』


『僕の親友との約束を果たさないといけなくてね。世界をひっくり返さないといけないんだ』


『なるほど、本当に面白い方だ。。。分かりました。共に世界をひっくり返すお手伝いをさせてください』


『期待してるよ。マキナ。僕とアキラの約束を果たす手伝いをしてくれ』


『アキラ。。?』


『あぁ、前の世界にいたときの親友さ』


これは僕が始めた異世界の物語だ。

 

そして、この異世界に宣戦布告をするまでの物語だ。


僕は今の世界のシステムを大きく変えた変革者だ。


世界中に向けてひどいことを企んでいるし、色々と仕掛けてきた。それは承知の上だ。


あいつのことだから、僕のしたことを許してはくれないだろうな。


それでも、あいつは僕をまた親友と呼んでくれるかな。


一緒に世界をひっくり返してくれるかな。


なぁ?アキラ。約束を果たす刻は来たんだ。


あのクソみたいな社会は僕らにとって生きづらい世界であった。


なら、この世界を僕らが生きやすい世界にすればいい。

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カタルシス・ワールド 名無しのブッタマン @ZetsuneKo810

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