人工精霊ロボットと受け継がれる夢

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 それは数年前の出来事。


 一人の少女が、音楽学校に入学失敗した。


 彼女には音楽家になるという夢があった。


 そのために、色々な努力を行ってきたが。


 その努力は実らなかった。


「不合格かぁ」


 ユメという名前を持つ少女は、夢に破れたのだ。


「はぁ、立派な音楽家になりたかったのに。まさか入り口でつまづくなんて思わなかったよ」


 落ち込んだユメは、普通の学校に通いながらも夢をあきらめられずにいた。


 独学で勉強を重ねて、得意の歌を、ピアノを極めていく事にした。


 しかし、周りの人間から才能がないと言われるばかりだった。


 プロと呼ばれる者達にはある、目をひきつけるような輝きが、ユメにはなかった。






 そんなユメが、勉強のための本を買うため、町を歩いていた時。


 その出会いは起きた。


 ユメの視線の先にはゴミ捨て場。


 そこには廃棄された、人口精霊ロボットがあった。


「人工精霊ロボットなんて、高いのに捨てちゃう人がいるんだ。もったいないな。だれも見てないし、拾っちゃっかな」


 普段ならしない行動だったが、夢破れた事を思い出し、意気消沈していたユメは魔が差した。


 ゴミ捨て場に捨てられていたそれを持ち帰り、機械関係に詳しい友人に頼んで、修理してもらったのだった。







「人工精霊ロボットって、もう数百年しないと作れないはずのロボットなんだよね」


 2500年だか、2300年だかにあるはずが、なぜかこの時代に、2030年に製造されている不思議なロボット。


 出回っているロボットのシステムや仕組みを見た一般人達はみな驚愕したという。


 一説によると、未来からやってきた未来人が作り方を広めたらしいと言われているが、本当の事は定かではなかった。


「壊さないように注意しくちゃ。あっ、充電できたみたい、起動してみよっと」


 人工精霊ロボットは、無事に起動。


 蝶をおもわせるような光の羽を広げて、小人のような少女が、とじていたまぶたを持ち上げる。


 リセットされていたので、情報を新たに入力して、所有者登録をすませた。


「はじめまして、マスター。僕に名前をつけてね!」

「私の名前はユメ。これからよろしくね」


 ユメはそのロボットに、よみと名付けた。







 一般的な人工精霊ロボットは、家事手伝いが得意だ。


 炊事・掃除・選択ならなんなくこなせる。


 しかし詠は、それらをまったくうまくこなせなかった。


「ポンコツさんだったんだ。もしかして、だから捨てられちゃったのかな。どこか故障しているとか?」


 元の所有者に尋ねてみたかったが、捨てられたものを勝手に持ち出した身なのでできなかった。


 それからも詠には、他のロボットと動揺の仕事をさせようとするが、どれもうまくいかない。


「もうしわけありません、ご主人様」


「至らぬ点ばかりでございます」


「頭が上がりません」


 しゅんとする詠を見つめるユメは困り果てていた。


 故障しているのかと思って、機会にくわしい知り合いの者に見せたが、技術が進みすぎているため、てんで分からないと言われたのだった。






 しかし、意外な事で詠の得意分野が判明した。


 それは、家の庭に猫が迷い込んできた時だ。


 怪我をしていたため、手当をするために大人しくさせる必要があったが、なかなかうまくいかなかった。


「だめだよ。じっとしてて、怪我がひどくなっちゃう」

「ふしゃー!」


 人の言葉が通じないため、猫は警戒心をといてくれない。


「マスター。ここは僕にお任せください」


 そんな猫に、詠が歌を歌ってみせたのだ。


 毎日ユメがやっているように。


 それは不思議なほど、心にしみこむ歌だった。


 ロボットが奏でているとは思えない歌声に思わず魅了された。


 詠には、ユメにはない、圧倒的な才能を秘めている。


 そう思わされた。


 その後、猫は大人しくなったため、無事に手当てをする事ができた。


「あなたには歌を歌う才能があるんだね」


 詠の才能を知ったユメは、自分が培ったノウハウを詠の才能を伸ばすために使おうと考えた。






 様々な訓練をほどこしたユメ。


 自分が知っている事は積極的に教えて、知らない事は勉強して教えた。


 そんなユメの努力のかいもあってか、詠は話題の歌手になった。


 ネットという限られた場所で活躍するのみだったが、ユメは自分の事のように喜んだ。


「詠は私の誇りだよ。いつも綺麗な歌で歌ってくれて嬉しい」


 自分が夢を目指して頑張った事は無駄ではなかった。


 それが嬉しかったのだ。


 詠の歌は不思議なほど人に心にしみこみ、元気づけたり、はげましたり、していった。


「新しい動画があるんだ」


「綺麗な歌声だなぁ」


「どんな人が歌っているんだろう」


 多くの人はすぐに詠のファンになった。


 しかし、詠はロボット。そして捨てられていた廃品だったため、ネットの世界からはばたく事はできなかった。


 やがて詠は故障して、歌えなくなってしまう。


 歌手として、活動した時期はわずか二年程だった。


 それでも、詠は伝説となり多くの人の心に残った。


 やがて有名な大統領になる者の心に、


 やがて多くの人を助ける救助者の心に、


 やがて世界を揺るがす犯罪者を捕まえる警察官の心に、


 やがて人工知能を作り出したり、大発明を成し遂げる発明家の心に。





 人々は知らない。


 一人の少女が夢破れた事も。


 その夢が人工精霊ロボットに受け継がれた事も。


 それでも、彼女達が紡いだ歌の数々は消える事なく、多くの人の心に残っていた。



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