青春は外から見てるくらいが丁度いい

ぽりまー

第1話

青春は謳歌するものじゃない。あんなものは陽キャやパリピみたいな、キラキラした奴がするものだ。俺等がやるものじゃない。青春は、謳歌してる奴の誰もが笑ったり泣いたりの濃い時間を過ごしているし、正直楽しそうだ。だが俺等みたいなのが入ったら、雰囲気を壊し、人間関係を壊し、やがて周りの敵となっていじめられるのがオチだ。つまるところ、青春は見てるくらいが丁度いい。




「って思うんだが、どう?」




 放課後、駅で電車を待つ俺、は、同じ電車を待つ仲間たちに同意を求めた。




「どうって。まあ一言いうなら、わかる~、てやつだ」




 陽キャギャルの物まねをしておちゃらけてるこいつは、宮迫俊平。病的に課金をするやばいオタクだ。最近なんかは、どっから金が出てるのか知らないが一個のゲームに二万課金したらしい。馬鹿だ。そこそこ背も高く、顔も整っている方だというのに手を掛けないからなんとも残念な見た目をしている。まあ、これは俺等全員に言えることなんだけど。そんな彼は、廃課金オタクであることから「課金王しゅんちゃん」という異名を持ち、「課金王」や、「しゅんちゃん」とよく呼ばれている。




「いや。そもそも学生というのは青春を謳歌するためにあるんじゃない。学生の本分は勉強だろうが。そういうのは偏差値の低いバカのやることだぞ」




 中々過激な発言をするこいつは、国立勉。俺等の中では一番背が高く、ゴツい眼鏡と、床屋に行ってないのが原因の無造作長髪が特徴。がり勉なのは良いんだけども、結構深刻な学歴コンプレックスを抱えている学歴厨なのがやっかいなところで、よく『東大以外はFラン』とか、『私文はクソ』など、中々怒られそうなことを平気で言いふらすような奴だ。そんな彼を、俺達は尊敬を込めて「国立こくりつ」と呼んでいる。


「それは流石に過激すぎでしょ」




「そうでもないぞ、やっさん。学校とは勉強する所、学生は勉強するもの、そして日本男子は今の内から男を磨くものだ。将来お国のため、そして天皇陛下のために誠心誠意働くために!」




「急に話がでかくなったなぁ」




どぎつい発言を自信満々にしてくる痛いこいつは、加藤太尊。昔からミリタリー系が好きで、歴史や軍事について勉強していたらいつの間にか右翼側に偏ってしまったらしい。いや、これを右翼思想と呼んでもいいんだろうか。そういうわけで、将来は防衛大学校に入って自分の手で国を守りたいそうだ。こいつは去年、今が高校二年なので高一の時から知っているが、入学式後の自己紹介の時からこういう発言や、防大に絶対行くなどと豪語していた。だから髪型も自衛隊の人みたいに短く刈っているのだろう。こいつは名前があだ名っぽいので普通に太尊呼びだ。




 ちなみに俺は福地康之だから、あだ名が「やっさん」なのだ。


「ともかく、青春は遠くから眺めるくらいが俺等には丁度いいと思うのよ。スポーツは、やるのは疲れるんで中継で見るのが良い、みたいな」




「アニメの中だけで十分よな、ああいうのは」




「スポーツは、野球だけはやってておもろいぞ」




「太尊。そりゃあお前が野球経験者だからだろうが。俺等もやしっ子には運動自体がしんどくておもんないんだ。それよりも受験に向けてだな」




 国立の言い分は分かるが、正直今から受験の事なんか考えたくないよなぁ。




「なんでいきなりこんなこと言い出したか知らんが、青春なんてバカのやる事なんか絶対やるなよ。やっさんも馬鹿になっちまうぞ」




「なんつー事言うんだ。いつか殺されるぞ」




 ほんまこいつは……。うーん。なんていうか。いや、分かってるんだけど、なんて言うんだったか。今の俺らのこの気持ちのことを、なんて言い表わすんだっけ。




「まあ結局のところ、ただの僻みなんだよなあ」




「それだ!」




しゅんちゃんナイス! それだよそれ、俺が言いたかったのって。……いや、それだよ! じゃねーわ。いやまあそうなんだけど、なんとも残念な気持ちになる。




「それだちゃうわボケ。しゅんちゃんも何確信ついてくれてんのさ」




「言われてみればお前のいうとおりだぜ国立。なんで俺は自分で自分の首を絞めるような真似を」




「それが俺ら巻き込んだ心中になってんだよ。ふざけんな」




 そう、僻み。嫉妬とも言えるかな。ともかくキラキラ青春してんのが羨ましいんだよ。楽しそうだし。でもその輪に入りに行くのが難しい。どれくらいかというと、レベル一の状態でラスボスに挑むくらい難しい。……この例えは違うか?




「なんだっていいだろ。どうせ俺らは文化祭や体育祭なんかが大嫌いなんだから。皆で心を合わせてとか反吐が出るわ。あ、軍事教練なら一緒にやってもいいぜ」




「軍事教練もやだわ。普通にしんどそう」




 なんで軍人でもないのに軍隊の訓練なんかやらなきゃならんのだ。昔の人は大変だったんだろなあ。




 電子音のメロディーが鳴り、「まもなく電車が参ります」というアナウンスが聞こえてくる。この地域は三十分に一本しか電車が来ないから絶妙に不便だ。別にド田舎ってわけじゃないし、利用者も大都会東京に負けないくらい多いはずだからもうちっと便を増やしてはくれないもんか。




「電車くるし結論言うと、俺らみたいな擦れた陰キャは青春に唾吐いて、ゴリゴリ勉強してればいいってことだ。わかったか、やっさん」




「言い方はあれだが、まあ国立の言うとおりだわな」




 そう。俺らに青春なんか出来ない。せいぜい出来ることなんか、輝く笑顔で日々を満喫している奴らを影で見ながら悪態付いて見下すくらいだ。そうやって自尊心保って日陰暮らしするしかない。




「電車きたぞ」




「やっとか。今日は帰って勉強せんと駄目なのに遅えよ」




「早く乗ろうぜ。座りたい」




「軟弱モンが。椅子に座るのは女子供と年寄りだけじゃい。男ならどっしり立って乗らんかい」




「今時『男だから』とか流行んねーわ」




 電車がホームに停まり、ドアが開く。マナーなので、先に降りる人優先だ。




 降車してくる人の殆どは隣町の女子高生だ。きっと俺らより少し前に学校が終わったんだろう。




 あれだけボロカスに言っていても、ついつい目で追っちゃうんだよな。「あ、あの子可愛いかも」とか、よくいる男子高校生みたいなことを考えてしまう。普段は、普通の高校生と俺らは違うって思いながら生きてるので、ちょっとだけ自分に失望する。




「でさー」




 すれ違いざま、彼女らの話す声が耳に入る。




「がキモくて~」




 …………………………大丈夫、俺等じゃない、はず。




「俺等じゃねえよな」




「ああ。面識無いはず」




「こっわ…………」




 こいつらも同じように思っていたみたいだ。




 これ、陰キャ特有であり、俺等が青春に馴染めない理由の一つなんだが、他人の話し声やちょっとした悪口は全部自分に言われている様に聞こえ、笑い声は全部自分の事を笑っているように見える。本当、この特性害悪すぎ。




 とまあこんな感じで、俺等はどうしようもない拗らせ陰キャって訳だ。自分で言うのもなんだが救いようが無い。




 だから、青春なんかに関わっちゃいけないし、関わりたくもない。俺には、多分俺等には無理だ。




「話は変わるが、やっさん聞いてくれよ。今期のアニメ、覇権揃いなんだよ。絶対見ろよな」




 ま、そういうこと考えるの辞めて、アニメとかの話してる方が楽だ。




「まじ? どれがオススメよ」




「俺はなあ、これとか」




「あ、それ見てるぜ」




「奇遇だな、太尊もか。俺も勉強の休憩時間に見たわ」




 なので、日陰道をいくのも悪くない。適材適所ってやつだな。違うか、自信なくなったわ。




「はえー」




 はあ、帰ったらアニメ見よっと。


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青春は外から見てるくらいが丁度いい ぽりまー @porima

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