質問3 幸せとは?



「幸せとは?」

「この暮らしが続くことだろうね」




「幸せとは?」

「執筆を忘れている間」




「幸せとは?」

「食って寝て、気が向いたら筆をとる、かな」




「幸せとは?」

「結婚、出産、育児……全部叶えちゃった人の言う「幸せ」って、軽々しくて嫌いなんですよねー。私ですか? 彼氏に振られずに済んだ世界線ですかね。はーもう」




「幸せとは?」

「自分の世界に浸れることかな。この脳みそあってこそのものだよ」




「幸せとは?」

「星が降る夜と眩しい朝が――――」




「幸せとは?」

「こういうナンセンスなインタビューを受けずに済むこと」




「幸せとは?」

「日本語を自由に扱えることだよ。別に他の言語がどうこう言うつもりはないけど、わたしにとってはそれが一番かな」




「幸せとは?」

「通帳の印税を見る瞬間。絶頂だよもう。ははははははは」




「幸せとは?」

「逆に聞くけど、君にとっての幸せは何? ……家内と休日キャンプ? くたば――おっと……自分で口を押さえないとぽろっと出てしまうとこだったよ」




「幸せとは?」

「こんな僕でも、こうして本を出せて、ファンの方々に支えて貰って……これ以上の幸せは無いです」




「幸せとは?」

「主人公を絶望の淵に叩き落とすこと。ここからのし上がっていくぞって期待の増大と、壁を壊した時のカタルシスの為には欠かせないし、それが最高の幸福だ」




「幸せとは?」

「脱稿した瞬間。うはー、終わったぞーって、自分お疲れーって感じ」




「幸せとは?」

「こういう質問、良いこぶりっこしたくなっちゃうんですよね。しませんけど。欲望に忠実な男ですからねぇ、僕。――――重版したいッ!!」




「幸せとは?」

「今後の君の人生の為に言っておくが、そういう質問は相手の心を開いてからするものだ。急いでいるのかは知らないが、三問目からそれはプロ意識を疑うね」




「幸せとは?」

「書店で自分の本が陳列されてんのを見るとき。横に知り合いの本があると尚良し」




「幸せとは?」

「別に多くは望まないさ。次男だったらどんなに幸せだったか」




「幸せとは?」

「おいおいおいおい。勘弁してくれよ」




「幸せとは?」

「筆が乗ってる時。タイピングが止まんない時、死ぬほど幸せだ」




「幸せとは?」

「良い質問だ。いいか、よく聞いてくれ。人間にとっての最大の幸福は、最初からこの世に生を受けないことだ。意識を獲得した瞬間から俺達は不幸の星の住民なのさ。小説を書くのだって、まるで排泄行為みたいに俺の人生から切ろうとしても切り離せないし、このクソみたいな意識があるお陰だ。神が居るなら膝蹴りしたいね。……何? この前先生が出してた本の主人公みたいですねって? ああそうだ。ありゃ俺だ。主人公の名前を俺にすればエッセイ、脚色一切無し。……そんな顔するなよ」




「幸せとは?」

「書くよりも読んでる方が幸せかな。僕がこうして書く小説だって、元を辿ればここにある本棚の一つ一つの本なんだ。敗れたページみたいに、断片を集めて集めて、ようやく生まれたのが僕の本なんだよ。そんなに面白い話じゃないけどね」




「幸せとは?」

「誰かの記憶の片隅に居座ってることかな。ふとした瞬間に誰かを思い出すことってあるでしょ。一人でも多くの脳に居座りたい。それが幸せだ」




「幸せとは?」

「取材旅行ですね。毎年春の時期になると、茨城にあるネモフィラが綺麗な公園に行って、一日中そこの景色を眺めてるんです」




「幸せとは?」

「そうそう、さっきの質問と繋がりますね! オレの好物、水羊羹食べてる時です」




「幸せとは?」

「そういうの、見つけられればいーんだけどね」

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小説家に聞いてみた 秋宮さジ@「棘姫」連載中 @akimiyasaji1231

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