第10話


「次どこ行く?」


「お化け屋敷とかどう?」


「いいな!」


 だが、麗羅の身体は小刻みに震えていた。ひょっとして怖いのだろうか。


「麗羅はお化けとか怖くないのか?」


「怖いけど律矢と一緒なら、怖くないのかなって」


「!」


 嬉しいけど、怖いなら無理しないでほしい。


 お化け屋敷に辿り着く。

 この時間でも既に行列が出来ていて、待っている間は麗羅とツーショットを撮ったりして、時間を潰した。

 きっとこの写真をSNSなんかにあげたら、大炎上して俺は外、出歩けなくなるんだろうな。そして、麗羅の取り合いが始まる。

 本当にこんな美少女と付き合ってていいのだろうか、と今でも思う。


「こんな俺で良かったのか?」


「何言ってるの。律矢じゃなきゃダメなんだよ?」


 やっと俺らの番が回ってくる。

 麗羅は手を差し出す。俺は迷いなく、彼女と指を絡める。恋人繋ぎはもう当たり前になっていた。それは二人が愛し合っている証拠だ。


 お化け屋敷に入る。

 薄暗くて不気味だ。


「こ、こわい」


「俺がいるから大丈夫だ」


 麗羅は身体を極限まで密着させてくる。だから、恐怖よりもドキドキのほうが勝ってしまう。


「ひゃっ!」


 こんにゃくの仕掛けが麗羅の頬に当たったらしい。


「どうした?」


「なんか冷たいの、きた。気持ち悪い」


 俺はイライラが募ってしまった。俺の大切な彼女に嫌な思いをさせるなんて。許せない。


 今度は背後からゾンビが襲ってきた。


「キャー!」


「麗羅、危ない、走るな」


「だって怖いんだもん」


 気持ちは分かるが。


 走ったせいか、すぐに出口が見えた。

 最後に何かありそう。

 予想通り、出口直前で女の人の首が降ってきた。


「キャーー!!」


 麗羅が悲鳴を上げる。

 流石の俺もこれは怖いと思った。


 お化け屋敷から出ると、麗羅は泣いていた。


「大丈――」


「怖かったから、ハグして?」


 俺の言葉を遮り、麗羅はそうねだってきた。

 麗羅を後ろから抱きしめる。バックハグというやつだ。そして頭をポンポン、と撫でる。

 麗羅は異性が守りたくなる、不思議な力を秘めていた。


「こんな感じでいいのか?」


「うん。こうしてると安心するね」


 先ほどまでの涙はすっかり消え、彼女は笑顔になっていた。


「もう離していいか?」


「もっと」


 彼女の満足がいくまで、俺は麗羅を抱きしめ続けた。


「次、何乗るか?」


「最後は観覧車に乗りたいな」


 そうして、観覧車乗り場へと向かった。

 麗羅はほんの一瞬、悪戯な、どこか嬉しそうな表情を見せた。


 ***


 お化けが怖い、っていうのは嘘だった。勿論泣いたのも、嘘泣き。

 もっと律矢に触れていたくて、可愛いと思われたくて、守ってほしくて、あたしは怖いフリをしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る