第5話


 家に帰った俺は早速、LINEの画面を開いた。

 新着メッセージは約一週間前の、麗羅からの『え? あんたってあたしのこと、好きだったの?』のままだった。


 麗羅は俺の返事をずっと待ってくれていたんだ。そう思うと何だか申し訳なくなる。


 以前の彼女だったら、『ねえ、返事まだ?』、『返信遅すぎるんですけどー。まじだるい』、『無視すんなよ、クソ』とか言っていただろう。


 でも、麗羅は変わった。

 俺の一言をきっかけに。

 俺と自分自身の為に変わってくれた。


 容姿も性格も、そして心も。


 だから、そんな彼女に応える為に俺は、今日が終わるまでに必ず返事をする、と決めた。真摯に向き合う、とも決めた。あいつが変わったんだから、俺も変わらなきゃ。


『え? あんたってあたしのこと、好きだったの?』


 送信先を間違えただけで、麗羅のことは好きではない。俺は涼風さんが好き


 だけど今更、『送信先を間違えた』とも『好きじゃない』とも言えるわけがない。

 言ったら麗羅を傷つけるし、お互いはちゃめちゃになるだけだ。


 せっかくの麗羅の努力が水の泡になってしまう。それだけは避けたい。


 じゃあ、どう返事する?

 俺は人生最大の悩みを今味わっているのかもしれない。


 自分に嘘を吐いて、『うん』と入力する。でも、送信まではいかない。


 ――涼風さんへの想いは?

 ――今日一日のイメチェンした麗羅だけを見て、その選択をするのか?


 自問自答する。


 涼風さんへの想い。

 それは今もまだある。


 だけど涼風さんへの想いよりも、麗羅と付き合ってみたい、という想いの方が勝ってしまった。最低な人間だとは分かっている。けど、俺は思った以上に欲望に忠実な人間だった。


 だから、今度こそ『うん』と送信する。


 俺は諦めた。涼風さんとの恋を。まだその恋は始まってすら、いない。


 でも、もう後戻りは出来ない。


 麗羅と付き合うと決めたから。


 すぐに返信は返ってきた。


『じゃあ、付き合おっか。早速だけど、今週末、デート行かない?』


 デ、デ、デート!?


 ちょっ、待て。心の準備が……。早速過ぎるだろ。


 返信に時間が掛かってると、続けて麗羅からメッセージが。


『あたしのこと、好きなんでしょ?』


 ドキリ、とする。

 緊張からくる手汗で両手が滲む。だから、フリックしようにもスマホが反応しない。返信がゆっくりになってしまう。


『デートって何処行くんだ?』


『んー、あたしは遊園地とか行きたいな』


『なら、そうしよう』


 こうして、今週末彼女と遊園地デートに行くことが決まった。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る