第4話


「お前、誰だよ」


「え? 誰って藤崎麗羅だよ」


(酷くない?)と麗羅は頬を膨らませる。怒った彼女も滅茶苦茶可愛い。今まで一度も麗羅のことを可愛い、と思ったことがなかった。でもいまは違う。麗羅の「可愛くなりたい」という努力が垣間見れる。そしてその努力が報われている。


「で、どう? あたし、可愛い?」


 ゴクリ、と唾を呑みこむ。


 正直言って、今の麗羅は物凄く可愛い。けど、面と向かって女子に「可愛い」と口にするのは恥ずかしい。なかなか素直になれない。


 でも――


 素直になるんだ、俺。


 ゆっくりと口を開き、その言葉を告げる。


「か、……可愛い」


 すると彼女は頬を赤らめながら、


「あたし、もっと杉崎に好かれたくて、オシャレ頑張ってみたの! そう言ってくれて、凄く嬉しい! ありがとう」


 と言った。


 何か間違った方向にいってる気がするのは気の所為だろうか。俺が送信先を間違えたせいで。


「それと今まで酷い事ばかりしてきてごめんね。簡単に許してもらえることじゃないのは、分かってる。でも謝りたかったから」


 麗羅の様子がおかしい。

 こいつの脳みそには『謝る』なんてワードは無かったはずだ。こいつは麗羅じゃない。誰かと入れ替わってる……!


「お前、本当に麗羅なのか?」


「信じてくれないの?」


 泣きそうな目で、上目遣いで見つめられる。これは反則だ。


「いや、疑ってごめん。あと許すよ。俺のほうこそLINE無視したりしてごめん」


 お互い謝った。


 その一部始終を涼風さんは静かに見守っていた。


 その後も麗羅の様子はいつもと違った。いつもの麗羅じゃなかった。


 落ちた消しゴムを拾ってくれたり、お弁当を「美味しそう」と言ってくれたり、眩しい笑顔を見せてくれたり。


 休んでた一週間で彼女の身に何が起こったんだ!?


 お弁当を手作りだと言うと、「凄いね!」と褒めてくれた。

 それに今までの麗羅は俺の前で笑顔を見せたことが無かった。いつも不機嫌そうな顔をしていた。麗羅の笑顔が見れて、俺はすごく嬉しかった。こんな可愛い顔もするんだって。


 何だよ、こんなに俺に良くしてくれたら、好きになっちまうじゃんか。LINEの『好き』が本心になるじゃんか。



 放課後。

 帰ろうとしている俺に麗羅は告げた。


「LINEの返事、返してね?」


 そういえば、送信先を間違えたショックで返事を返せていなかった。


『え? あんたってあたしのこと、好きだったの?』の返事を。

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