聖女ワン・グランプリの優勝賞品は王子様との婚約です。毎年開催されるのに?

甘い秋空

一話完結 「愛する者……」国王陛下の言葉が浮かびます。



「なぜだ? 答えによっては、初等部ギンチヨの聖女ワン・グランプリ出場辞退は、僕が認めない」


 金髪碧眼で、ゴリラ体形の第一王子が、大声で私に怒鳴りました。


 ここは、王宮の謁見の間です。


 本来は、国王陛下しか座れない玉座に、陛下の孫で、学生である第一王子がふんぞり返っています。



「私は、昨年と違い、第一王子様の婚約者となっております」


 初等部である私は、二つに結んだ銀髪の頭を下げ、理由を申し上げます。


「そうだ。連続優勝して、僕の婚約者になったことを、光栄に思うがよい」


 聖女ワン・グランプリは、第一王子の父親である王太子の、三番目の王妃が亡くなった年から始まり、今回で3回目になります。


 出場資格は、結婚前の令嬢であることであり、婚約中の令嬢でも出場の資格があります。



「第一王子様は、聖女ワン・グランプリの審査委員長であられますので、婚約者の私が出場すれば、公平性に疑いが持たれることになります」


 私は、第一回目、第二回目を連続して優勝したことから、第一王子と婚約させられました。


 第一王子は、中身などには興味がなく、なんでもかんでも一番が好きなのです。


 なので、連続優勝した私との婚約を、最初は喜んでいました。



 しかし、1年が経って、私に面白みのないことに気が付き、飽きてきたようです。


「僕の婚約者だからといって、忖度して優勝させることはない。可愛いと思った令嬢を選ぶだけだ。公平性は保たれている」


「僕の婚約者は、グランプリの優勝者でなければならない。優勝賞品は僕との婚約だ」


 第一王子は、毎回、優勝者と婚約するようです。


 私との婚約は、国王陛下の命令であり、私たちの意思ではないのですけど。



「第一王子様は良いでしょうが、他の審査員の方々は、既に婚約者である私に投票すると思われます」


 私の意見を述べます。



「審査員は、事前に買収しておく」


 いや、それはダメでしょ。


「しかし、もしもの場合を考えて、準備しておくことは悪くない。ギンチヨの意見はもっともかもしれん」


 そういうことを言ったのではありません。


「よし、ギンチヨの辞退を認めよう。そうすれば、僕は好みの可愛い令嬢を選ぶことができるわけだ」



 言い返したくなる所が、いっぱいありますが、このクソ王子との会話は、時間の無駄です。


 カーテシーをとり、退室の挨拶をします。



 実は、私は治癒の光魔法を使えなくなっています。


 昨年、このクソ王子との婚約を命じられた際、悲しみのあまり熱を出して一週間寝込み、目が覚めると、呪いなのか、光魔法が使えなくなっていました。


 このことは、家族以外、秘密にしています。


 聖女ワン・グランプリに出場して、私が評価されてきた得意の光魔法を使えないとなると、秘密が皆に知られてしまいます。


 貴族社会で生き残るためには、隠し通すべきだと、初等部の私でもわかります。



    ◇



「ギンチヨお嬢様、落ち着いて聞いてください。第二王子様が大けがを負いました」


 グランプリの辞退について、国王陛下と王太子に報告した後、王宮の控室で馬車を待っていた時です。


 侍女からの報告に、体中の血が抜けていくような感触が走ります。


 同級生で黒髪のイケメンの第二王子は、第一王子との婚約さえ無ければ、私にプロポーズしたと思います。



「噂では、第一王子様と、ギンチヨお嬢様との婚約を賭けて決闘し、敗れたとのことです」


 椅子に座っていなければ、私は倒れたと思います。


「歯を食いしばって下さい。国王陛下から依頼がありました」


 侍女が、私に気合を入れてくれます。



「……陛下からの依頼?」



    ◇



 ここは第二王子の私室です。


 ベッドに、黒髪の彼が、包帯も巻かれず、腫れあがった顔のまま、寝込んでいます。



「国王陛下、ご指示に従い、お見舞いに来ました」

 椅子に座っている国王陛下に挨拶をします。


 人払いは、済んでいました。


「孫のために、ありがとう」

 第二王子は国王陛下の孫です。


「第二王子様の具合はいかがですか?」


「思わしくない……」


 金髪に白髪交じりの国王陛下の言葉に、目の前が真っ暗になります。


「光魔法を使える令嬢を招集したが、間に合わないかもしれない。王宮の中に聖女を配置しなかったのは、間違いだった」


 国王陛下の言葉よりも、第二王子の呼吸が弱弱しいことが気になります。



「ギンチヨちゃん頼む、クロガネに光魔法をかけてくれ」


「国王陛下、実は、私、光魔法が使えなくなってしまいました」


「ギンチヨちゃんの魔力に異変が起きていることに、実は、気が付いていた。しかし、一時を争う、お願いだ、愛する者へ、祈ってくれ」



 第二王子へ、治癒の光魔法を発動しようと、祈りますが、わずかな金の粉のような光が見えましたが、直ぐに消えてしまいました。


「やはり、発動しません……」



「愛する者……」国王陛下の言葉が浮かびます。


 もう一度祈ります。


 今度は、光魔法を発動するイメージではなく、愛する人を想うイメージで祈りました。



「クロ君、あの約束、私、ずっと待っているから」


 クロ君を光が包み込みます、金色ではなく、さらに光の強い、ダイヤモンドのような輝きです。


「げほッ」

 クロ君が、少し血のりを吐き出し、目を覚ましました。


 顔のハレも引いています。


「あぁ、女神様、ありがとうございます……」

 クロ君が、小声ですが、しっかりと声を出しました。


 意識が混濁しているのか、また眠りにつきました。


 今度は、呼吸が安定しています。



「な、なんということだ、今のは伝説の聖魔法か……」


 国王陛下が、驚いています。


「ギンチヨちゃん、今の魔法のことは秘密にしなさい、いいね。父上の侯爵には俺から話すから」


 なんのことかわかりませんが、クロ君が回復したのは、うれしいです。



    ◇



「只今より、第三回聖女ワン・グランプリを開催いたします」


 司会者が、王宮のホールで、開会を宣言しました。


 ホールには、多くの貴族が集まっています。


 新しい優勝者が誰になるかで、貴族社会の流れが変わりますので、当然です。



 私は、来賓席に座り、ボーっと眺めています。


 テーブルの上の名札には、前回優勝者、第一王子様ご婚約者、そして女侯爵と新しい爵位が記されています。


 国王陛下が私を高く評価し、女侯爵という一代爵位を授けてくれました。



 今回のグランプリは、見ていて退屈です。


 光魔法の優劣ではなく、聖女としての可愛らしさと、聖女のコスプレ具合で、優勝を争っています。


 これなら、光魔法が使えない私が出ても、秘密が漏れることは無かったと思います。もう、どうでもいいですけど。


 出場者の令嬢たち、見ている貴族たち、ほとんどの方々が、審査方法を疑問に思っているようです。



「優勝は、この伯爵家令嬢とする」


 第一王子が嬉々として発表します。いつの間にか、グランプリは終わっていました。


 優勝は、私と同じ初等部の栗毛の令嬢に決まったようです。いかにも第一王子が好きそうな感じの令嬢です。


「優勝賞品は、僕のハグだ」


 クソが、優勝者である令嬢を、ハグし、抱き上げています。


 令嬢も、クソに抱きついています。



 私は、ありえない場面を、無の表情で見つめます。


 周囲から多くの視線を感じますが、私は眉の一つも動かしません。


「こ、怖い……」

 誰かが、つぶやいています。


 私は、呪いの影響なのか、耳がとても良く聞こえるようになっています。



    ◇



 次の日、王宮の謁見の間に呼ばれました。

 玉座に座っているのは、もちろん国王陛下です。


 他には、なぜか父である侯爵だけしかいません。



「第三回聖女ワン・グランプリは、開催が無かったことにした。次年度以降も、開催しない」


 国王陛下が宣言しました。


「あれは、聖女とは認められない」


 そう言って、国王陛下は、厳しい顔から、優しいおじいちゃんの顔に変えました。



「難しい話はやめよう、ギンチヨちゃん、クロガネを助けてくれて、ありがとう」


「あの魔法のことは、誰にも言わないでね。聖魔法が使えることがバレると、怖いおじちゃんがくるから」


 国王陛下が何を言っているのか、正直、初等部の私には分かりません。


「はい、ありがとうございます」


 とりあえず、お礼を言っておけば、なんとかなりそうです。



「クロガネにも、言っておいたから、いいね」


 国王陛下は、私を第一王子の婚約者と指名したのに、私がクロ君を好きなことを、知っています。


 婚約前、クロ君は、強くなって、私をお姫様ダッコすると誓ってくれました。


 私は、待っていますと、クロ君に約束しています。



「はい、クソ王子の婚約者として、クソ貴族をだまして、ずっとクロ君を待ちます」


 初等部の私は、はじける笑顔で、国王陛下に誓いました。


 


 ━━ FIN ━━



【後書き】

お読みいただきありがとうございました。

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聖女ワン・グランプリの優勝賞品は王子様との婚約です。毎年開催されるのに? 甘い秋空 @Amai-Akisora

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