亀の諸島

ある日突然連絡手段がなくなった。


“ガラパゴスパンデミック”よく目にしていた知らない誰かがそう呼ぶ

“デブリクライシス”初対面のどこかの学者がそう名付けた。


みんなみんな、タイムスリップした。

みんなみんな、困り果てた。

みんなみんな、どうしていいかわからなかった。


だから


みんなみんな、タイムカプセルを掘り返して。

みんなみんな、老人になった。

みんなみんな、おかしくなって。


最後は呆れて舞い踊るしか無かったんだ。


みんなみんな、辛さを隠すかのように笑って。

みんなみんな、記憶を塗り替えるために笑って。

みんなみんな、何を忘れるために笑っていたかを忘れてしまって。


だけど本当はね。


みんな覚えていた。話していた。傷を慰め合っていた。

大人は教えてくれなかったから、歌に込めるしか無かったんだ。


“道に落ちているゴミなんて虫したらいいさ”

“かえるはいつもオオカミ少年”

“だから昔に戻って歌おうよ、僕らが忘れていた言葉でさ”

“生きていればなんとかなるさ、笑っていれば福がくるさ”


毎晩みんなで大宴会。

そうしたら、覗きに来たのか羨ましいのか

かえるがこういうの“仲間に入れてよ”


みんなみんな、遺恨を隠して笑うんだ。

急に音楽が止まって

みんなみんな、一斉に“ぬ”て叫んだんだ。


そうしたらかえるは訳がわかんなくて

結の蚊帳の外、ずっと観ているだけしか出来なかった。


どんなにかえるが観察しても歌えなくて

みんなと同じようには出来ないのさ。


みんなみんな、悪いのはかえるだから。

みんなみんな、奪ったのはかえるだから。

みんなみんな、かえるの仕業だから。


ずっとみんな気づいていた。


“かえるはお家へ帰りな、こっち見んな”


かえるの我儘は、もう懲り懲りだから

みんな笑ってこういうんだ。


“時間だから、お家に帰りな。

ママがご飯を作って待っているだろうから。

パパが心配して帰りを待っているだろうから。”


パパとママはもうお家にはいないの

かえるに呆れてお引越ししたから。

だからも帰れないんだ。

でもね内緒だよ。


笑いすぎてもう顔が痛い。

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蝦夷菊にお水を 杏來 @annerima-kushiro

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