蝦夷菊にお水を

杏來

非人間便覧

いつからだろう

私がこの窓辺に座るのは


いつからだろう

歳を感じなくなったのは


私が生まれてから30年あまり

そのうち3分の1は

毎日この駅を歩いている


電車に揺られ同じ時間同じ場所で働く

名も知らぬ誰かと席を取り合い

毎朝決まった無言の会話をする


ある日窓ガラスが割れて

その破片が飛んだ


私の頬から血は流れない

少しばかり傷がついただけだ


どうやら私はヒトではないようだ

私は100年生きた人間の記憶だけを移し替えたモノ

後になって名も知らぬヒトから聞いた


知らないヒトの記憶を継いだだけで

あまり覚えてはいない

ヒトにはない感情が生まれた異型だ


私は何者だろうか

オリジナルの私はこれが本当に幸せなのか

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