第34話 転移石

【レオ視点】


俺はロアを何とか意識を戻すぐらいにまで回復させた。先ほどの爆発の中、ロアは奇跡的に右腕が無くなっているだけで他の体の部位は無事だった。右腕欠損の衝撃で、意識を失っていたが今は何とか目を開けられている。話す力は残っていないようだ。


聴覚を強化して、じいがさっきヘレーネに言っていた話を聞いていると、一箇所に集まれと指示していた。ノアもその指示通りに動いているのが分かる。ノアは近くのフィンを肩に担ぎ、ヘレーネの所に向かっている。俺にはみんなが生きているのかも死んでいるのかも分からない。とにかく自分の出来ることを最大限にするしかない。俺もロアを担いで、ヘレーネの所へ急がないと。


ド―――――――――ン!!!!!!

ガガガガガガガ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

バキバキバキバキ!!!!!!!!!!!!

ゴゴゴゴォォオォォォォッォォオオオォォォ!!!!!1


空間を揺るがすような膨大な魔力の奔流が濁流のようにそこかしこに見られる。一つの流れに押し流されでもしたら、骨も残らないような有様になるだろう。本当に今ここで生きているのが奇跡のようだ。ここに流れが来ないのは、じいが防波堤になっているからだ。


俺はもう少しでヘレーネと合流できるところまで来た。後5歩ほどで合流だ。


一瞬、じいの様子を捉えようと俺は顔だけ横に動かし、じいの姿を視界に収めた。


そこには信じられない光景が映っていた。


じいが地面に伏している。


俺は目を見開いて、叫ばざるを得なかった。


「じいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!」


俺は目一杯の声で、じいを呼んだ。


(嘘だ!!!嘘だ!!嘘だ!!!じいは言った!!脱出するぞ、と・・・)


最悪の状況だ。じいがやられてしまえば、俺たちに生き残る可能性は完全にゼロだ。


「よく頑張ったが、ここまでだ」


冷たい声が俺の進行方向の先から聞こえた。


絶望の声色。

不可避の死。

不条理な結末。

最恐の捕食者。


ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!


奴はご丁寧に、目の前の俺の仲間の頭をそれぞれ打ち抜き吹き飛ばしていった。頭が無ければ治療もへったくれもない。即死だ。叫ぶ間もなく皆絶命した。同じ場所にいたのが逆に仇になったか。


5歩ほど遠くにいたので、俺とロアはまだ生きている。それも時間の問題だが。


俺はロアを背中に背負いながら茫然と、仲間が殺されていく光景を見ていた。見ているしかなかった。


セイント「さっきから見ているが、お前はこの結界の中でそれぐらい動けるのは大したものなんだぜ。本当に。俺の軍の部隊長ぐらいの力だな。その歳で凄いな。お前がこのガキ共のボスだったのか?まぁ死ねば何の意味もないんだがな」


そう言って黒装束の男の指がゆっくりと俺の額を指した。


俺は視覚を最高レベルで強化した。見える。奴の手の先にあまりに禍々しく凝縮された魔力が詰まっている。あれを放つつもりか。


ザシュ!


俺は奴の魔石から解放される魔力の流れを見て、発射される一瞬間前に頭を横に大きくずらした。強烈な圧力のある何かが俺の頭の横を通り過ぎた。通り過ぎ去った後に、俺のこめかみに大きな裂傷が現れ、後方に『ドシュッ!』という乾いた音が鳴った。


「おぉ!避けるか!お前、かなりの戦闘センスがあるな。残念だなぁ、ここで殺すのは。おいお前、名前はなんて言うんだ?」


「き・・・さ・・・ま・・・・俺の・・・仲間を・・・・」


もう数瞬後には死ぬ身だが、俺の怒りで体が打ち震えた。涙が出てくる代わりに、血 の涙が溢れ出た。そして全身から血が吹き出てくる。こいつは絶対に殺す。俺が無理でもこいつは殺す。絶対に殺す。


「怒っているな。まぁしょうがないな。しかしな、お前が俺に完全な服従をするなら、お前だけは生かしてやろう。どうだ?その代わりお前の命は俺が預かる。少しでも反抗するなら、直ぐに殺す。どうだ?お前ほどの力のあるガキを殺すのは正直惜しい」


俺はこの男の提案に心底驚いた。ここまで俺の仲間を蹂躙し踏みにじり虐殺し、あまつさえ俺を従えようとする。完璧に狂っているな・・・


俺は考える間もなく、即答した。


「有り得ない。死んでもお前の元につくなんていうのは嫌だね。お前が地獄に落ちるのを遥か高い、天国で見降ろしているぜ」


「ははははは!!!!いいね!いいね!お前は大した奴だ!体は屈しても心は屈しないってか!俺が一番好きな奴だ。一番蹂躙し甲斐がある奴だ!いいぜ、その意気。お前、俺の軍に来い!俺がセネカでは教えてやれない事も教えてや・・・」


ブーン


黒装束の男が俺の元に歩き近付こうとした時に、俺と奴を区切る透明の膜が現れた。


俺の目の前にじいがボロボロの体になって現れた。よく見るとじいには片足がなく、腹部の肉や内臓は全て無くなっていた。じいは俺に2つの光る玉を渡してきた。


セネカ「聞け・・・転移石と・・記憶石だ・・・これで・・・逃げろ。記憶石に・・・全て・・・留めてある・・・。転移石・・・潰せ。記憶石・・・飲み込め・・・・ゴフッ」


そう言って、じいはその場に倒れた。もう起き上がれるような状態じゃない。しかもじいからはもう魔力はほとんど感じられない。魔力隠蔽をしているんじゃない。魔力が枯渇しているんだ。そしてこの傷では・・・


頭では分かっているが、心が追いつかない。


レオ「じい!!いやだ!一緒に行こう!この転移石で!」

ロア「い・・・や・・・・」


セネカ「2人がげん・・・かい・・・じゃ。ワシは・・・もうしぬ・・・ふたりで・・・いきろ・・・」


レオ「嫌だ!!」


セイント「そうだ。そのガキも嫌と言っているんだ。セネカ、邪魔だ。消えろ」


膜に触れて破ろうとしたが、その膜は簡単に破れることは無かった。セイントは蹴りなどを加えても膜は跳ね返すだけで、壊れずプルプルと動くだけに過ぎなかった。膜の中の俺たちは無事だった。


イラっときたのか、セイントは魔法を膜にブチ当てると、膜は霧散していった。


セイント「物理攻撃無効膜か。お前も凄いものを発明したな」


セネカ「いげぇぇぇ!!!!!」

じいは自分の最後の最後の力を振り絞り叫んだ。


レオ「くそーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」


セイント「いや、行かさんよ。呪縛砂塵!」


俺が転移石を地面に投げつけたが、その転移石が地面にぶつかる前に俺たち全員は砂塵で吹き飛ばされた。砂塵の勢いで転移石も破壊された。


セネカ「こ・・これで・・・いい・・・レオ・・・ロア・・・あとは・・・たのんだぞ・・・」


そう言ったセネカの声だけが俺の耳朶に残り、目の前の光景が薄く消えていく。


セイント「くそ!!転移石を壊してしまったか。逃がさんぞ!」


しかし、砂塵で吹き飛ばされている浮遊感も消えていき、視界に入っているセイントもセネカも消えていった。


俺の後ろにいたロアは俺の背中からは吹き飛んでいってしまった。


レオ「ロア―――――!!!」


そうして全てが霧のように消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大魔導師の弟子 カフェラテ @kaferate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ