第33話 決死の攻防戦

【セネカ視点】


セイント「ほぉ、お前のガキどもは先ほどの攻撃を受けてもまだ、動けているな。普通だったらもう既に死んでいるだろうが。さすがだな、セネカの鍛えたガキたちは」


セネカ「・・・」


セイント「もう軽口も叩けないぐらい苦しい状況か。まだいけるか?」


(くそ・・・はっきり言って最悪の状況じゃ。これほど奴の力が上がっているとは・・・おそらく奴の力はランクSSに届いているのじゃろう。いや、ワシもあの頃と比べたら衰えているからか)


脳裏に『全滅』の二文字が過ぎる。


ワシは何とかこの状況を脱する方法を考えたが、もうこの方法しか思いつかん。奴がまだ遊んでいる間に・・・


セイント「もう飽きたぜ。これがお前の全力か?それとも・・・」


セイントはチラッとワシの後ろを一瞥した。


(こいつ!まさか!?)


セイント「ガキどもを庇うからか?まずはそっちを片付ければ、お前ももう少しまともな戦いができるんじゃないのか?俺は本気を出せない最近の生活に飽きているんだよ。もっと楽しませてくれよ、な!」


セイントがワシの目の前から朧のように消えた。そして次の瞬間背後から叫び声が響いた。


「きゃーーーーーー!!!!!!」


セネカ「しまった!!くそっ!!!子供たちを狙う気か!アイアン・ゴーレム!」


何十体ものゴーレムをワシは、子供たちの周囲に出現させた。が、


セイント「呪縛鉄鎖!!!!」


全て鎖の一撃でアイアン・ゴーレムは全て横一閃、潰された。その衝撃で子供たちは四方八方に吹き飛ばされた。


セイント「まずは一人」


セイントから一番近い所で倒れていたノアが標的となり、次の瞬間、ノアはセイントに首を掴まれ、空中に浮かされていた。


ノア「ガ・・・グァ・・・グゥ・・・・」


セネカ「ま、まずい!!!」


子供たちも必死で止めようと動こうとしたが、あまりに一瞬の出来事でワシ含め、子供たちも誰もその場から動けなかった。そして空間の中に大きな音が響いた。


ボキっ!!!!


一瞬でノアの首の骨を折られた。


「ノアーーーーーーーーー!!!!!!!」


その音が開始を知らせる音であるかのように、全てが動き出した。子供たちが必死の形相で叫び、満身創痍にも関わらず、全員がセイントに向かって駆けだした。


セネカ「止めろ!!!近づくな!離れろ!!」


目の前でノアが殺された場景を見て、冷静でいられる子供たちではなかった。理屈じゃない。しかし、魔力が使えない子供がセイントに向かうのは自殺行為を通り越して、ただの愚劣な行為でしかない。


セネカ「いでよ、ヘル・ハウンド!!!」


巨大な3つの頭をした狼をセイントの真横に出現させ、一気にセイントを食い破ろうと襲らせた。


セイント「そうそう、そんな感じだ」


セイントは手にしていたノアを横に放り出して、もう一方の手にある鎖を一振りし、ヘル・ハウンドの全身に鎖を絡み付かせた。


セイント「ん?固いな。はあぁぁぁぁぁ!!!」


セイントが力を込めると簡単にヘル・ハウンド細切れにされてしまった。しかし、その一瞬の行為のおかげで、この戦闘の中に空白の時間が生まれた。ワシにとってはこの一瞬で十分だ!!!


セネカ「デス・ゴーレム!!!アイアン・ゴーレム!!!」


デス・ゴーレムは攻撃特化のゴーレム、そしてアイアン・ゴーレムは防御特化。何とか間に合え!!


セイント「まだまだだな。もっと本気を出してもらおうか。呪縛鉄鎖・散」


鎖がヘル・ハウンドを細切れにしたのちに地面に落ちていたものが、空間の至る所へと飛び散った。


鎖の一つひとつの素子がランクCぐらいの魔物を殺せる威力を持つことが込められた魔力量で分かる。こんなもの子供たちが受ければひとたまりもない。


子供たちの目の前に出現させたアイアン・ゴーレムが全ての爆発した鉄鎖素子を受け止めたのだが・・・


ヘレーネ「か・・・・かは・・・・」


ヘレーネは口から大量の血を吐き出した。鎖素子が出現させたアイアン・ゴーレム、デス・ゴーレムを破壊して、ヘレーネに到達してしまった。


セイント「そして、呪縛鉄鎖・爆」


先ほどの全ての鎖素子が爆裂し、空間全体が強烈な無数の爆発で満たされた。


セイント「へぇ、さすがだな」


煙が充満する中で視界は全て覆われた。しかし魔導師同士の戦いにおいて視界を遮ることに意味は無い。お互いの魔力が視えるからだ。


ワシが召喚したコールド・スネークがセイントの胸を貫いていた。そしてコールド・スネークはセイントの体内に入り、内臓を食い散らかしていく。ワシの召喚獣の中で最速で動き、貫通力の最も高いゴーレムじゃ。こいつが奴の防御を突破できて良かった。しかし、セイントの生命力は並外れている。こんな攻撃は足止めにしかならないのは分かっている。


セイント「ガハッ!!!はははははは!!!この一瞬の攻防戦!死を感じる緊迫感!たまんねぇぇぇぇぇぇな!!!」」


セイントは解放されている全ての魔力を体内に留め、体全身を活性化させた。奴の体内に入り込んだワシの傀儡は破壊され、胸の穴も塞がれていく。


セイントが回復に専念している間にワシは倒れ込んでいる子供たちの元へと急いだ。


セネカ「大丈夫か!!??」


ワシは倒れている子供たちに呼びかけ、特にノアとヘレーネを探した。早く!!早く治療しなければ、死ぬ。まだ致命傷を受けているが、まだ死んでいないはずだ!


ワシはノアの元に辿り着き、折れた首元に手を置いた。一気にワシの体内の魔力を注ぎ込み首元の骨を戻し、細胞を全て修復させた。


ノア「がは!!!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」


何とかノアを蘇生させることができた。ノアの目には憔悴の色が色濃く表れていたが、考慮してやる余裕はない。


セネカ「ノア、よく聞け。一旦全員一箇所に集めろ。お前たちを逃がす!いけ!」


ノアは無言で頷き動き出した。指示した後、ワシは急いでヘレーネを探した。腹部にめり込んだ鎖素子が爆発していたようで、ヘレーネの下半身は吹っ飛び無くなっていた。


セネカ「ヘレーネ!!!」


ワシはヘレーネの上半身の胴体に近付いて状態を見たが、ヘレーネは既に息絶えていた。


セネカ「まだだ!!!ヘレーネ!!戻ってこい!!!死ぬな!!!!」


大量の魔力をヘレーネの体につぎ込んだ。


(生き返ってこい!!!!)


ヘレーネの下半身部が再生したが、ヘレーネはまだ意識を失ったままだった。


(まだだ!!!命の一つや二つ、戻せないで、何が大魔導師だ!!!!)


ワシはヘレーネの体内に全ての魔力を注入した。


ヘレーネ「ゴホ!!!ゴホ!!!ゴホ!!!ゴホ!!!ゴホ!!!」


ヘレーネは目を見開き、息を吹き返した。


(間に合った!生き返った!)


セネカ「ヘレーネ、大丈夫か?」


ヘレーネ「え、えぇ。な・・・ん・・・とか・・・。わたし・・・しんだと・・・」


セネカ「ここから脱出する。皆と一箇所に集まれ。ノアが集めている」


ワシは手短にヘレーネに指示を出した。


ヘレーネ「わ・・・わか・・・た・・・」


ヘレーネは涙を目にいっぱいに溜めて足を引きずりながら歩き始めた。再生された新しい足で動くのは激痛なのだ。また一度は死んだ身。体全体が強烈な倦怠感に苛まれているだろう。簡単に慣れるはずもないし、慣れるまでもかなりの時間を要する。しかし、慣れるのを待つ時間などあろうはずがない。とにかくワシの命を犠牲にしても、ここからこの5人の子供たちを何としても脱出させる。


ノアとフィンが一緒にいて、ヘレーネとアリスが合流しそうだ。フィンもアリスも動いてはいない。死んでいないことを祈るのみじゃ・・・。レオはロアの介抱をし治療している。


レオ・・・・あやつだけがこの中で唯一魔力が使えている。凄まじい魔力操作力じゃ。ワシのように魔力量が多ければセイントの呪縛結界の中でも、奴の呪縛を魔力で押し出して使えるようにできるが、レオの場合はおそらく圧縮させた魔力で、自分の魔力を解放できる『道』を作り出したんじゃろう。なんというセンスか。


レオが一番この中で動ける。集まってくる場所を予想するにおそらく、レオがロアを連れて、一番動きの鈍いヘレーネとアリスの元に全員が集まるじゃろう。それまで時間を稼がねば。


セイント「いいねいいね!この感じ。久しく感じていないこの感覚!」


そろそろセイントが再始動する。戦闘狂が・・・。おそらくワシの命を賭してやっと子供たちを逃がすことができるじゃろう。やっとワシの遺志を継ぐ者たちができたのじゃ。絶対に殺させん!!!


断固たる決意をし、ワシは全魔力を注入し、何百体という多種多様なゴーレムを生成した。


セネカ「これが最後の一撃だ。喰らえ!!!!!」

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