サイコとバニー2

惟風

サイコとバニー2

 違う違う、違うでしょ何でこんなことになってんの。


「あーちょっと腰落ちてきちゃってるよ、ちゃんと背中と一直線になるようにキープして」

 そんな簡単に言うけど無理だって、二の腕とかもうめっちゃプルプルしてるもんもうギブだって。

「あと三十秒、お姫ならイケるよ大丈夫、ナイスマッスル!」

 もう許してくださいお願いしマッスル!


 アタシは、自分の部屋で無理やりプランクをさせられている。



 こないだのデストイレ視聴完走会については、正直あまり記憶に残ってない。たぶん辛すぎて無意識に脳のどこかに封印したんだと思う。終了直後、顔中の穴という穴から何らかの液体を垂れ流してたのだけは覚えてる。

 とりあえずいっちゃんは誠心誠意、謝ってくれた。悪気は無かったみたい。そっちの方が怖い。

 でもあれは一時の気の迷いって言うか、私のことが好きすぎてちょっと暴走しちゃっただけなんだろうなって思うことにしたんだ。だってやっぱりウチ等は親友ズッ友だし。

 それで、改めてお詫びをしたいから私の部屋に遊びに行かせてほしいと言われたのが今朝。

 いっちゃんの部屋に招かれたなら警戒して断ってたかもだけど、私の部屋なら正しく“ホーム”だし、滅多なことにはならないだろうと高を括っていたのが敗因だと思う。いっちゃんがウチの玄関に上がった時、やけに大きな荷物抱えてんなあとは思ったんだよね。

 私はまたしてもいつの間にか気を失っていて、目が覚めた時には全身に何かを装着されていた。

 太いベルトとか大きなバネみたいなものがあちこちに付いていて、身体が思うように動かせなくなっていた。またウサ耳カチューシャ外されてるし。


「あ、それね、『プランク強制マシーン』」


「ぷらんくきょうせいましいん」


 オウム返ししかできなかった。

 プランクってアレでしょ、うつ伏せの状態で両肘を床につけて腕立て伏せみたいな姿勢で背中とか腰浮かせて数十〜数分身体をキープする筋トレでしょ。それくらい知ってるよ。

 だっていっちゃんが前そうやって話してくれたんじゃん。

 や、そゆことじゃなくて。

 強制マシーンって何?

 何で私の身体にそんなモノが装着されてるの。


「だってお姫のことが好きだからだよ」


 またそれェ〜?!

 だから好きなら私が嫌がることしないでって言ったじゃん前も言ったよ?

 ていうか今日はお詫びに来てくれたんじゃなかったの?


「うん、こないだのことでお姫ちょっと具合悪そうにしてたから、今度はちゃんと健康に良いことを」


 いきなりのプランクは心にも身体にも悪いと思うんだよね。しかも強制的にとかさ。


「大丈夫だよ横で私も一緒にやるから」


 そういうことじゃないんだマジで。

 私の抗議も他所に、いっちゃんはマシーンのスイッチらしきものを操作し、私の身体は意思に反してうつ伏せに移行するのだった。


「私の趣味、一緒に楽しんでくれて嬉しいな」


 いっちゃんは嬉しそうに呟いた。私は器具に強制された姿勢のせいで顔を動かすことができず、その表情を確認できなかった。

 顔から滴り落ちる汗が、ハートマークのメイクを床の染みに変えていった。


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