第四九話 聖女ではありません

第49話



わたしは、先ず教会に行って、縛られているオークじゃなくて、枢機卿のメフェストを牢屋に入れようと、衛兵もつれて移動しました。


教会には、流行病におかされた人々と、家族に病人がでたと思われる人々が数多く並んでいます。その列は、教会の敷地を3周するくらいの人数です。


「ハラグ。メフェストの確保よりも、ここに集まる病人を治療しましょう」


「しかしエルーシア様この人数を手当するには、準備も何もしていません」


「貴女達はもうわたしが魔法を行使するのをみていましたから、遠慮なくわたしが広範囲に治癒魔法を行使します。

貴女達は、極度に体力が少なくなっている患者達を見極めて、回復魔法をこうしていください」


「はい。皆にそのように指示を出します」


「いい、魔力の量は限られているの、完全回復はいらないわ。

己の足で帰えることが出来るくらいで大丈夫よ」


「見極めは大変ですね。私ハラグが指示を出しながら進めていきます」


「それとハラグ。家に病人を残して、ここに来た者も多くいると思うの。

その方達の住みかを聞いて地区ごとに分けてください。

そして、重病人の方がいるところから治していくわ」


「エルーシア様。今回の治癒の代金は如何なさいますか?」


「お金はもらわないで、生活に余裕のある者のみ食べ物などの寄付をもらってください。それを炊き出しに使うわ」


「え?本当にいいのですか? 今までは、かなりのお心遣いをいただいたのです。

急に、無料や、食べ物の寄付だけにすると領民達が逆に驚いてしまうかとおもうのです」


「あのね。ハラグ。今の場面では、貴女達のほうから、『今までの教会が無くなって新しい宗教が今日より出来ました。そのための慈善活動です』とか言う事を期待していたのに。 だから、自分で少しは考えなさい」


「そういう事だったのですね。エルーシア様がおっしゃっていたことは。

でも、宗教名はどういたします。これは、私達元教会の者が考えるのではなく、教会を解体したエルーシアお嬢様が考えることと思います」


「そうね」

わたしは、少し考えました。

ちーん 思いつきました。

「ヴァン神教にしましょう」


「解りました。『ヴァン神教エルーシア派』ですね?


(ん?何だが、わたしの名前と“派“が聞こえたけれど聞き間違いよね)


「そうね。新しい宗教の布教大変だけれども、今が領民と一番触れあえるチャンスよ。 さあみんな頑張ろう」


「「「「 エルーシア様 よろしくお願いします 」」」」


わたしは、今までに無いほどの魔力を煉ります。


《教会やその周りにいる病人、その病気を治して》

わたしの念が終わったところで

わたしから、光が放たれました。

その光は、お星様のような形に分かれ、教会に列を成す者達を囲みだしました。

ピッカー キラキラ キラキラ

ピッカー キラキラ キラキラ

一斉のお星様がものすごく光り出しました。

「すっごい光だ」

「ものすごい光」

「あの幼女から光がひろがったぞ」

「あの幼女は領主様の一人娘のエルーシア様では?」

「あの可愛い女の子は、エルーシア様?」


人々が驚いていましたが、その光は、また小さくなり、人々に向かって行きました。

ピッカー ピッカー ピッカー


今度は光が人々の中に入り、病人がピッカーと光り出しました。

「こ、これは?」

動揺の声を誰かが言った途端。

「え?私達も光っているわ」

「俺らだけじゃなく、みんな光っている」

「は、はげてないのに光っている」


みんなが呟いた数秒後

光り輝く者は誰もいなくなりました。

「咳が、出ない」

「熱もなくなったような」

「からだ 体が軽いわ」


わたしは、その人達を見て、思わず笑顔になりました。

「ああ、なんて綺麗なご尊顔なのでしょう」

「あの天使のようなご尊顔はまさしく聖女」

「せ、聖女様だ」

「聖女様が、ベルティンに降臨された」

「聖女様 バンザーイ」

「聖女様 バンザーイ」

「聖女様 バンザーイ」


(え? え? わたし わたし聖女じゃないわ。自分の生活水準をひたすら上げようと欲だらけの人間よ。純潔な人間じゃないわ)


そう思って、わたしは本職のハラグ達を見ました。

みんなも笑顔でウンウンと首肯しています。

(ああ、わたしは聖女ではないと解ってくれたのね)

わたしも笑顔で返しました。

すると


「皆様、そうです。

エルーシア様こそ聖女なのです」


ガッタ っとわたしはひっくり返ってしまいました。


ずっこけているわたしを無視してハラグの言葉は続きます。

「欲にまみれた教会をただすため、そして流行病を終息するために、女神フレイヤ様がエルーシア様をこの地に呼んだのです」


「うぉおおお」

「エルーシア様」

「エルーシアお嬢様」

「ベルティンブルグの聖女様」


(まって、聖女と呼ぶのをとめてくれるのではなかったの?)


「そして、エルーシア様は、悪の根源のメフェストを、この敷地の大きな樹に縛り付けて、反省を促しています」


「さすが、聖女様」

「悪を憎んで人を憎まず」

「あんな巨体をよく縛り付けました」

「神職者なのにブヨブヨしやがってメフェスト」

「金に汚いメフェスト」

「ここの教会の人間はガリガリなのに枢機卿のメフェストだけ、何故デブなの~」

みんな、ガヤガヤ言っています。

(みんな元気になって良かったですね)


「そうなのです、あのメフェストに鉄槌を与えたのがエルーシア様なのです」

わーわー と皆様大きな声が出ています。

(何を言っているの。縛り付けたのは神職者の人達でしょう?

それにしても、病人って治ったらすぐに元気になるのかしら?)

などと考えていると

「皆様、まだ、具合が悪い人は手をあげて教えてください。

そして、元気になった人は、前後左右の人に異常がないか確認してください」


「は~い。わたしなんだが、頭痛と体がだるいです」

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