第四二話  働き過ぎだった五歳児

第42話



「今は私と会った翌日の昼頃ね。

貴女は本当に私が病気に気をつけなさいと言ったのに無視して、仕事をしていたでしょう。それが、仇になって発熱して起きられなくなったの」


「発熱ぐらいで起きられなくなるものですか?」


「あのね。エルーシアである貴女は5歳児よ。日本の幼稚園だと年中さんよ。

どんなに、魔力があろうとも体力は大人ほど無いの。

今までは、体力を落とすと魔力で補填していたから大丈夫だったけれど、その魔力も結構使っていたのよ」


「私は魔力を使った覚えがないのですけれど」


「アホかあんたは。あれだけテイムを繰り返ししていたら、魔力量が人間で一、二番のエルーシアでも、ギリギリまで少なくなるわよ」

フレイヤ様は激おこです。


「テイムってそんなに魔力を使うのですか?」


「使うわよ。古竜だろうが、スライムだろうが、沢山使うわ」


「ええ。そんなの知らないわ」


「知らない。じゃないわ。

とにかく貴女はあのままの世界に置いておいたら、目も覚まさずに流行病で死んでしまう可能性が高かったのよ。

とどめに、アルーシャに最上級の回復魔法と治癒魔法と解毒魔法を使っていたのよ」


「えええ~」


私はやまびこになるほど声を大きく出てしまいました。

「私、いいえ、エルーシアは死ぬところだったのですか?」


「詳細はまだ、教える事が出来ないけれど。

エルーシアの本体は、しばらく眠りについてしまうのよ」


「じゃあ。私の魂はどうなるのです」


「何処かの世界を彷徨(さまよ)い続けるのよね。

そこはどこなのか私もわからないのよ」


「そんなあ。私そんなの嫌だな」


「そうでしょう。だから私が助けに入ったのよ」


「ありがとうございます。フレイヤ様」

私はぺこりと頭を下げました。


「ふふふ。そんなに畏まらないでよ。

私と貴女の仲じゃないのよ」


「そう言っていただけると、とても嬉しいです」


フレイヤ様は、ニコッと首肯しました。

そして少しの間をとり

「陽菜、今のエルーシアの状態だけれども、朝から寝込んでしまって全く動かない状態よ」


「魂はここにいるので当然ですよね」


フレイヤ様は、コクッと頭を縦に振り

「使用人が貴女を起こしに来ても、全く動かなくて、おでこを触ってみると、とても熱いって大騒ぎしていたのよ」


「私(エルーシア)は、生まれてから一度も病気にかかったこと無かったです。だからなおさら・・・・・・」

私はハッとしました。

「そう言えば陽菜の時の記憶があるから病気かなって、すぐにわかったけれど、エルーシアとしては初めての風邪らしき症状だった」


「そうね。エルーシアとしては、初めての病気だったわね。

それで、おかしいと思って色々と調べてみたのよね」


「調べたのですか?」


「そうよ。本来であれば、王都で流行病が爆発的に大流行して、他の領地にも広がってフーマ王国は、壊滅的なダメージを受けるはずだったの」


「その流行を私がとめてしまった」


「そうよ。エルーシアが王都の流行を阻止したため、流行病はここで終息してしまう予測を立てていたのだけれども、今度はベルティンブルグで流行している」


「これは、季節性の風邪でなく、流行病だったのですね」


「そうよ。しかもベルティンブルグだけというのが、ちょっとおかしいと思ったのよね。つまり作為的なものを感じたのよ」


「作為的」

私は額に指をあてました。

「つまり誰かが、わざとベルティンブルグで病気を流行らせたと言うことですか? 」


「ちょっと違うわね」


「違うのですか?」


「それはね。エルーシアを流行病ということで殺害しようとしたのよ」


私は凍りつきました。

「なにも悪いことしていないですよ、私」


「そう。フーマ王国からみたら、悪いことをしていないけれど、王都フーツで流行病をわざとおこした者からみると」


「私が余計な事をしたと」

私は背中に冷たいものが流れるのを感じました。

「その証拠に、エルーシアの体から呪いが感じられたわ」


「呪いですか?」


「そうよ。そしてベルティンブルグの使用人の数名からも、貴女に呪いがかかるようにルーン文字が見つかったのよ」


「え?ルーン文字とは何ですか?」


「ルーン文字とは、呪術や儀式に用いられた神秘的な文字。

つまり、我々神が使う文字なの。そして、それを人間界で使うと呪術になるの」


「ええええええ。呪われて病気になったということですか?」


「その可能性が高いのよ。

証拠を残さないように、いいえ、私や兄のフレイにわからぬように、エルーシアに直接ではなく、市場やお店に買い出しに行った使用人にルーン文字を記入して、エルーシアに呪いと病気がうつるとルーン文字が消えるようにしていたのよ」


「もうなんて言うか、私暗殺されますって感じですね」


「そうね。その使用人も流行病になって、今頃は高熱を出しているでしょう。

犯人のすごいところは、今回利用された使用人は、今後エルーシアと深い付き合いになっていく娘なのよ」


「因みに名前わかりますか? 」


「グイダという名前だったと思うわ」


「グイダ。そう言えばこの間咳き込んでいたわ。

大丈夫かしら?」


「グイダは、ルーン文字が消えていることもあり、呪いも無くなっているから死に至ることは無いと思うけれど、貴女がエルーシアに戻ったときに、魔法をかけて、病気を治してあげてね」


「それじゃあ、すぐに戻って魔法をかけてあげないと」

私は立ち上がりました。


「まって、陽菜。この世界に魂を連れてくるとその反動として三日間は、魂を戻す事が出来ないのよ」


「三日間も魂が抜けて、体は大丈夫なのですか?」


「いいえ。大丈夫かと言うよりも、大丈夫になるようにこの世界にきてもらったのよ。いま解呪をしている最中よ。

ちょっと待ちなさい」


「はーい」


「まあ三日間も、ここでぼーっとしているのも、暇でしょうから、下界 人間界を覗いてみる?」


「できることなら見たいです」


フレイヤ様は、腕をあげて、私にバチンとウインクしました。

すると、私の正面に、エルーシアが寝ている所を映し出しました。

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