第三九話 ヘルマの決意

第39話



「ギャロン様。私決めましたわ」

ヘルマ様は、ギャロン叔父様に向かって真剣な目を向けています。


今、わたし達は、馬車に乗ってシュタインの工房に向かっています。

馬車に乗っているのは、ギャロン叔父様、ヘルマ様、メリアとわたしです。


「ヘルマ。何を決めたのかな?」

鼻の穴を膨らませている、ヘルマお姉ちゃんを見て、ちょっと慌てているギャロンおじさんが手を取って聞いています。


「ギャロン様との結婚をすぐに行いますわ」


「「「 えええええええ! 」」」

馬車の中が騒がしくなりました。

それを鎮めるようにギャロン叔父様は、

「ヘルマちょっと待ちなさい。今まで、僕と君のご両親が結婚を早めようとしても、学校を卒業するまでは、待ってと、君は頑なに拒否をしていたじゃないか」


「確かにそんな事もありました。

でも、エルーシアちゃんと仲良くなった今、すぐにでもエルーシアちゃんと縁深くなることが、我が家にとって一番貢献出来ることと思い直しましたわ」


「ふふふふ」


「何を笑っていますの?ギャロン様」


「ヘルマ、なんだか遠回しに言っているが、要は水洗トイレに目が眩んだのだろう。王族の手前、自宅に水洗トイレを設置するのは憚(はばか)れるが、公爵家であれば、問題ないと思ってのことだろう」


ギャロン叔父様は、ヘルマ様をじっと見つめました。

ヘルマ様は、顔を真っ赤にして、プイッと窓の方を向いてしまいました。

しばらく、外を眺めていたヘルマお姉ちゃんは、頭を左右に振っています。

なにか、変なところでもあるのでしょうか?


「ねぇ。ギャロン様」


「なんだい。ヘルマ」


「ベルティンってベルティンブルグの領都よね?」


「ああそうだよ。フーマ王国でも、五本の指に入る人口だよ」


「そうよね。そう聞いていたけれど、道路やお店に全然人がいないのよね」


「「「 え? 」」」


わたし達は全員外を見ました。


「なあメリア。ベルティンはこんなに人がいなかったか?」


「ギャロン様 流行っている 風邪」


「いいや、風邪の流行くらいでこんなに人が外に出ていないわけ無いと思うが」


「休憩 みんな 時間」(ちょうどお昼なので、お昼休憩の時間で人がいない)


「まあ、確かにみんな休憩を取る時間だが、それにしても少ないな」


「あら、私(ヘルマ)が言い始めたことですけれど、皆様が休憩時間でたまたま重なって人がいないだけかも知れませんわ」


わたしはゴトゴト揺れる馬車の中で、教会にはとても人が多く集まっているのが目に入りました。


そして、わたしが一言も喋ること無く、馬車はシュタインの工房に着きました。


「嬢ちゃん。メリア、おや、お坊ちゃまも来たのかい。

その綺麗なお嬢ちゃんは、ヘルマさんだったか?」


「ふぶふ。シュタイン久しぶりですね。

ヘルマで合っているわよ」

ヘルマ様は、軽くシュタインに挨拶をしました。


「シュタイン、僕のことをお坊ちゃまと言うのは、もう勘弁してくれよ。

とっくに半ズボンは卒業したよ。

シュタインそれにしても、痩せたな?」


「お坊ちゃま。ヘルマお嬢ちゃん。ちょっと聞いてくだせい。

そこにいる天使の笑顔をする小っちゃな悪魔が、次から次へと仕事を増やすから、もう何日も休み無く働いているだぜ」


「それは、大変ね。シュタイン。でもわたしは、良い人材を集めて権限譲渡をして、貴方の作業量を減らすように指示したわ」


「あははは。言われたとおりだが、どうしても手が出てしまってな。

それに最近、体調を崩して休む者も多くなってそれを埋めるのに大変なのだよ」


「そうなの。確かに最近急に寒くなってきたから、わたしも咳が出たりするわね。

それで、本題だけれども、浄化槽で働くスライムちゃんの動きはどうかしら?」


シュタインは顔を険しくして

「あまり良くないな。嬢ちゃんが、連れてきたスライムの作業量と倍以上に増えた今の作業量と同じくらいだな。

スライムを増やせばいいってことじゃないようだ」


「やっぱりそうなのね。その対策をフレイヤ様から教えていただいたわ」


「「「「フレイヤ様からご教授された????」」」」


四人は顎が外れるほど大きく口を開けています。

それを無視してわたしは浄化槽に行きました。

プルプルとポヨポヨがぴょんぴょんと跳ねて着いてきます。


浄化槽に着くと、スライムちゃん達がワラワラとプルプルとポヨポヨに近寄ってきます。


わたしは、衝撃的な現場を見た!


プルプルとポヨポヨは、小刻みに揺れて、他のスライムちゃん達にボディアタックをしています。そしてなにやら透明な液体を飛ばしています。

そして数分後。

そこには、ひっくり返っているスライムちゃん達が!


わたしは一部始終見ていたはずですが、今の光景が凄絶すぎて唖然とするばかりです。


そして、プルプルとポヨポヨが、ぴょんぴょんと跳びはね

「「キューイ。キューイ」」と鳴きました。

それは、冷蔵庫を開けてビニール袋をガサガサと音を立てて、モルモットちゃんが、「え! オヤツ? ごはん? ちょうだい。早くちょうだい」とアピールするように鳴いたのです。

わたしは動揺しました。

こんなに可愛い声で鳴けるのに、今まで鳴かなかったのに。

なぜ乱暴したあとに可愛さをアピールするのかと!


「エルちゃま。する テイム」

メリアはわたしの動揺を打ち消すように声をかけてくれました。


《スライムちゃん達。テイム》

ピカピカピカ

《あなた達の王は、プルプルとポヨポヨよ。この二人の命令は絶対聞くこと。

それは、スライムちゃん達が分裂しても同じことよ。

サボると今日みたく、プルプルとポヨポヨが制裁に来るわ。

でも一番偉いのは、わたしエルーシアよ》

ピッカー と一面がものすごく明るくなりました。


「ふう。どうやら成功ね」


ふと後ろを見ると、ギャロン叔父様、ヘルマお姉ちゃん、シュタインとその弟子達が固まってわたしを見ていました。

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