第三七話 漫才は続くよ飽きるまで
第37話
「エルーシアが、魔眼の意味を覚えてくれたので、話を元に戻すわよ」
フレイヤ様はあんなにふざけていたのに今は真顔です。
(切り替えがはやいな)
わたしは、何も言わず話しを促します。
「はい。お願いします。フレイヤ様」
「スライム達は、分裂しているから、エルーシアに対する忠誠も半減しているのよ」
「ぇぇええええ! 分裂して半減?」
なんと衝撃的事実にわたしは声を荒げる事しか出来ません。
めちゃくちゃ驚いているわね。エルーシア。
話を続けるわよ。
今いるスライム達全員に、分裂してもエルーシアに対する忠誠を下げないように魔法をかけるの」
「え?それだけで大丈夫ですか 」
「大丈夫よ。ただ、そのときにプルプルとポヨポヨを筆頭にすることも忘れないでね。名付けは、プルプルとポヨポヨだけにした方がいいわ。
スライムの数が増えすぎているもの」
「はい。でも、それじゃあ、分裂したスライムちゃん達は、わたしとの関係が希薄になると思います」
「そうね。プルプルとポヨポヨは、貴女の事を“ご主人様”と捉えているけれど、他のスライム達には、私と同じ立ち位置にすればいいと思うわ。
直接スライム達に命令するのではなくて、プルプルとポヨポヨを頭にして、ここから指示を流すようにするればいいわ」
「え、スライムちゃん達から見て、わたしがフレイヤ様立場ですか?」
「そうよ。エルーシア」
「では、わたしは、スライムちゃん達のアイドルなると言うことですね。
歌って踊って綺麗な嘘でスライムちゃん達に『愛している』って言えばいいのですね?」
「いいえ、エルーシア。あなたが双子の子供を一六歳で産んで、事務所の社長のパートナーを母親代わりにする必要はないわ」
「良かった。玄関の前でスライムちゃんに刺されたらどうしようかと思いました」
「エルーシア。漫才を四回もやらせた私が悪かったわ。
アイドルじゃなくて、女神よ。女神様の立ち位置になるの」
「えぇ~。面倒くさい。
若い男と喫茶店でイチャイチャしているところを旦那に見られて、その旦那が旅に出て、五年も探しに行ったのにいまだに見つからなくって、五歳の幼女と打ち合わせもしてないのに漫才するなんて、わたしには耐えられません」
「え エルーシアちゃん?」
「しかも、乳児の前にピカーとかいって光って現われて、わたしが、神のアイドル女神のフレイヤです。なんて絶対無理」
「いい加減にしなさい!」
「「ありがございました~」」
わたしは、勢いに乗って舞台から小走りで何処かに行こうとしましたが、今度はフレイヤ様が私の腕をとりました。
「エルーシア。もう本当にふざけるのはやめて」
「え? フレイヤ様だってノリノリだったじゃないですか?」
「これ以上やると女神である私の権威が落ちていくわ」
「わかりました。フレイヤ様。
要は、スライムちゃん達に直接指示を出すのではなくて、プルプルとポヨポヨを通して指示を出すようにして、わたしは、その全体を眺める立場。
スライムちゃん達からは、女神様のように崇められる立場がいいということですよね?」
「そうよ。名付けの終わったスライムを女王蜂にして、分裂したスライムは働き蜂にすればいいのよ。
そのように魔法をかけるのと、分裂しても元のスライムの言うことを聞くようにすれば指示系統が出来るわ」
「なるほど。そのようにテイムすればいいのですね。
でも、今更ですが、わたしからのお願いばかりですね」
「エルーシア。この世界は弱肉強食よ。
弱いモノは、強いモノに従うの。強いモノが空腹になると、弱いモノが食べられる世界なのよ。
スライムにとって、危険な目に遭わない。それが、一番でしょ。
一番弱い魔物ですからね。
あなたが、安全な場所と食事を与えるのよ。その対価としては、充分よ」
「確かに言われて見るとそうですね」
「後の問題は、弱いとは言えスライムが、街の中に沢山生息することを、領民が受け入れられるかどうかね」
「そうですね。わたしが領民に『このスライムは悪いスライムじゃないよ』と布教してまわります」
「これでお願い事が解決したわね。
でも、エルーシアよく聞いて。
『医者の不養生』って言葉日本で聞いたことあるでしょう?」
「ありますけれど、何か意味があるのですか?」
「先程から、咳払いや咳をしていたから、体調を崩しているのかと思ってね。
陽菜の時は一八歳だったけれど、今は五歳のおこちゃまよ。体力はがかなり少ないから、無理を重ねては駄目よ」
「最近寒くなってきたので、風邪引いたみたいです。
体調に気をつけます」
「では、私はこれで元の世界に戻りますが、無理は禁物よ」
そう告げてフレイヤ様は、光の中に消えていきました。
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