第三二話 お肉は、クラーラが持っているの

第32話



「オーク お に く ♪

と ま と 煮 おにく♪

そ れ と も

素敵なステーキ♪」


お母様の歌がワゴンの中でこだましています。

(大人って言っても二十五歳、現代日本ならやっと一人前ですもんね)

などと考えていたら馬車が停まりました。


「さぁ さぁ お肉よ、オークのお肉よーーー。

待っててお肉ちゃん今いくわーーー!」


お母様は、馬車からさっさと降りたうえに、わたし達を残して走り去って行きました

(お母様、今日食べるお肉はクラーラのアイテムバッグの中よ。

お母様のお肉?は、クラーラが持っているの。

走っても、その先にお肉は無いの)

そんな事を考えていたら、お母様が走って戻って来ました

「ねぇ。エルーシアちゃん。私のオークのお肉はどこ?」


ズッコー


今日二度目のずっこけです。


「今、アルーシャが笑顔でものすごいスピードで走っていたけれど、何かあったのか?」


お父さんの登場です。


「あら~。あなた、今日はここにいたのね。

ちょっとお腹を空かせるために走っただけよ」

お母様の顔は真っ赤かです。


「なあ。アルーシャ。

君は、病弱キャラじゃなかったか?」


「そうね。そんなときもあったわね」

お母様は、手の甲でヨダレを拭き、遠い目をしています。


「奥様。いい加減にしてくださいよ。

奥様の体はもうお一人の体じゃないのですから」

クラーラも真っ赤になりお母様を叱ります。


「え?なに、そ、それは本当か?」


「うふふふ。そうよ。あなた。まだ、安定期じゃないから、話さなかったけれども、エルーシアちゃんの弟か、妹が私のお腹にいるのよ」


「おお!そうか。ありがとう」

とお父様はお母様を抱きしめました。

そして視線をわたしに向けて

「エルーシアちゃんもお姉ちゃんだ。

弟になるか妹になるかわからないけれど、可愛がってくれよ」


(え?まじ。やっぱり、二人の間に本当の子供ができるのね。

や、ヤバいこれは、ヤバい。孤児院をさっさと作らないと)

と心で思いながらも

「うん。わかった」

と鉄仮面の笑顔で答えました。


「それじゃ。クラーラお肉を焼く準備をして」


あれ?クラーラも何か様子がおかしい。

「お館様、ちょっと失礼します」

そう言った後、お口を手で隠して何処かへ行ってしまいました。


仕方ないので、わたしはシュタインに「オークお肉を焼いて食べたいの。お昼時間から少し遅くなってしまったけれど、一緒に食べない?」

と言ったところ、気づけばお弟子さん達が集まって焼肉の準備をしてくれました。

どうやら、工房で働く者達は、朝と夜の二食しか食べていないので、今の時間でも、大丈夫なのだそうです。


「こんなに多くの人数だと、木炭が足りないかも?」


「エルちゃま。いっぱい 木炭 お姉さんくれた」

親指を立ててサムズアップ。


(冒険者ギルドのお姉さんグッジョブ)


それでも、お肉が足りないな。

マジックバッグからオークのお肉を出しました。


バチバチバチ


お弟子さん達が大きな拍手をして、お肉を出迎えたところ


シュッパッパッパッパー


メリアが、短剣でお肉を食べやすいくらいにカットしていたら


「これも使ってくれー」

シュタインが、お肉の焼き台をもってきました。

早速それも使って木炭に火をつけました。


準備が出来たところでお父様が、

「今は、無礼講で、身分に関係なく、オーク肉を焼いて食べよう」

と言ったところで、チラッとお母様を見ると

「うわ~。美味しい。幼児コンビが狩ってきたお肉とてもジューシー!」

すでに食べていました。


「二人分 奥様 我慢」


「そうね。二人分のようですから、怒るのは辞めるね。

わたしも美味しくお肉食べたいもん」


「お嬢。アレ出たぞ。食事中だから名前はださないが。

後は魔石をつければ、完成だ」


「わかった。じゃこれ使って」

わたしは先程冒険者ギルドで回収してきた魔石をシュタインに渡しました。


「お嬢、この魔石だが、どこで手に入れた?」


「メリアと二人で、オークを狩ってきたの」


「なに~。お嬢とメリアの幼児コンビでオークを狩ってきた?」


「うん。だから、みんなで焼いて食べているでしょう?」


シュタインは、黙ってしまいました。


「ねぇ。シュタイン。ちょっと相談があるのよね」

とわたしが、シュタインに相談を持ちかけたところ


「「ちょっと待った~」」


お父様と、お母様が割って入ってきました。


「エルーシアちゃん。私達両親が二人ともお腹いっぱいになったのに、どちらにも相談なしに、シュタインに相談。

そんな事は、許されぬぞ」

「そうよ。お母さんもお腹がいっぱいになったから、どんなことでも聞けるわよ」


(ああ、二人ともオークのお肉の肉汁がお口にいっぱい付いているわ。

大人なのに、使用人がいないと全く駄目人間)

「えっと。お父さんお母さん二人とも何に対して怒っているのか、まったくわからないわ。

とりあえず、口周りを拭いて綺麗にしてよ。

もういい加減大人なのでしっかりして。

ってクラーラはどこ行ったの?」

「母、馬車の中」


「え? そうなの?」


「言っていた 気持ち悪い 肉焼くの」


(え? もしかしたらクラーラも)



疑問をおぼえつつ次回につづく

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