第五話 公爵家の矜持

第5話 


王族に続く位の公爵家の馬車は、とても立派です。

乗り心地は、令和の日本の車で、砂利道を走る程度の振動です。

わたしは、そんな中、メリアと二人で窓の外の風景を見ながら移動していました。


ベルティン(ベルティンブルグ領の領都)を離れ、ワゴンを引くお馬さんを休ませるために、一度おおきな村に寄りました。

お馬さんの休憩中、お父様は、村の偉い人と何やらいろいろとお話しをしていました。

その間、わたしとメリアは、メリアのお父さんのワグナーとお母さんのクラーラと村の中を探索しました。

(やっぱり、人口が少なくなると生活水準が低くなるのね。

誰も彼も、痩せているわ。

でも、村の中心部は、活気があって頑張って生きていくって伝わるわね)


そんな感想を持ち、おおきな村を出発しました。



数時間後、馬車は林道を抜けて、広く開けた所を移動しています。

「おとうちゃま。おうとにまだつかにゃいのでしゅか?」


「エルーシアちゃん。あの丘を抜けると少しで王都が見えてくるぞ」


「「わーい。あとちゅこしでちゅきまちゅ!!」」


わたしとメリアは、キャッキャと大喜びです。

そのとき

「ねぇ。メリア。あの、ばしゃって、なにかにおそわれてないかな?」

わたしは、その馬車を指さしました。


「え?」とメリアは言って、前方の右を見ました。


「エルちゃま。襲われている、メリア みえる」

と返事をしたので、


「おとうちゃま。たいへん。まものにおそわれているばしゃが、ありまちゅ」


わたしはお腹に力を入れて、みんなに聞こえるように声を出しました。


「ん!?」とお父さんが言いながら前方右手に顔を向けました。


御者のワグナーとクラーラが同時に

「「お館様。エルーシア様の言われた通り、前方に魔物に襲われている馬車が見えます。回避することも可能ですが、いかがなさいますか?」」

お父様に指示を仰ぎました。


「今回は、私達しかいない。エルーシアに危害がないよう回避する!」

とお父さんが言ったときわたしは

「お父様。それは、公爵として駄目だと思います。確かにここで戦えるのは

お父様、クラーラ、ワグナーの3人です。わたしとメリアが足手まといになると思いますが、ここは貴族の序列一番として、襲われている馬車を放っておくことは末代までの恥となってしまします。お考えを改めていただけないでしょうか?」


と子供の振りをするのも忘れて、大人の言葉のように言ってしまいました。

そうすると

「う~ん」とお父様が悩んでいると

「なぜエルーシア様が、私たち夫婦が戦えることを存じているかわかりませんが、ここは私たちも助太刀するべきとおもいます」

とワグナーがお父様に助言をしました。


そこでわたしは、

「お父様の格好いいところ見てみたいな」

と背中を押しました。


「ワグナー。我々も助太刀するぞ」

お父様の言葉でワグナーは「承知しました」と言って馬車を魔物に襲われている方へ移動を開始しました。


「な! あの家紋は、弟のオドヘートが婿養子になった、ハウシュビッツ家の馬車ではないか!!! エルーシアちゃんの言うことを聞いて良かった・・・。

剣はあまり得意ではないが、必ず救って見せる。

クラーラは、馬車に残り子供二人を守れ。ワグナーは私と一緒に戦ってくれ!」


わたし達の乗る馬車が、襲われている馬車の近くに着いたところで、お父様とワグナーの二人は馬車から飛び降り、剣を振りかざしながら魔物に向かっていきました。



お父様とワグナーは、「うぉおおおおおお!」と声をあげて魔物に近づいて行きました。

その向かって行く先の魔物は、こん棒を持ったオークが3体。一角うさぎが4匹、そして、プルプルと揺れて動くスライムが1匹います。


「ワグナー! 私はオークを倒す、ワグナーは先ずは馬車へ行き、中の様子を見てくれ!」

「承知しました」


「我は、ベルティンブルグ公爵の当主、リカードである。

ハウシュビッツ伯が危機とみなし、助太刀いたす」

お父様はそう言ってオークに剣を上から下に振りました。

しかしオークはサッとよけてしまいました。

剣を避けたオークは「ブ~ヒー」と音を出しながら、お父様の頭を狙ってこん棒を振り下ろします。

こん棒は、ドッカと大きな音をたてて地面をえぐりました。


「ふうう。オーク。すごいパワーだな。一撃も当たるわけにはいかないな!」

お父様は、額の汗をぬぐいながら呟きました。




ワグナーは、オーク等の魔物の攻撃をひらりひらりとかわしながら、襲われていた馬車に近づきました。

馬車には、貴婦人が一人、その息子と思われる者が一人、そして赤ちゃんを抱っこするメイドが1一人。赤ちゃんを含めて四人が馬車に乗って震えていました。

「我々が助太刀いたします。どうかここから動かず、扉を動かないようにして、お待ちください」

ワグナーは、馬車に乗る人達にそう言ったあと、近くで戦う男性3人と合流しましました。


そしてワグナーは

「お館様!馬車に乗っている方々と、外で戦う男達も無事です」

と主のリカード(お父様)に報告しました。

そこで戦う男三名は、オオカミの群れと戦っていました。

オオカミは十頭以上いて、ボスのオオカミを中心にして連携して男達に立ち向かってきます。


「ここは、大丈夫だ!お兄様のところへ移動して助けてやってくれ」

そう言ったのは、お祖父様の三男のオドヘートでした。

「オドヘート様、畏まりました。お館様の手助けをして参ります」

ワグナーは、馬車をぐるりと交わすように大きく回りリカードの方へ向かいました。

そのときオオカミの数匹がワグナーについて行きました。


お父様は、3体のオークを相手に善戦をしています。

大ぶりのオークの攻撃をひらりとかわし、オークに着実に一撃を与えています。


ワグナーが戻って来たのを確認したお父様は、

「ワグナー!あちらは大丈夫か?」

と発した瞬間

「あ あぶない!!お館さーま! 脚もとぉ~!!!!!!!」

そのときワグナーに着いてきていたオオカミのうちの一頭が

お父様がオークの攻撃を交わした瞬間、カブリと太ももをかじりました。


「ぅゎわわあああああ!」


グッ!ガシャーン


「ぐわぁああああ~」

バランスを崩したお父様は、オークの振った、こん棒が頭に当たってしましました。


「おやかたぁすわぁまぁあああああああああ !!!!! 」

ワグナーの叫びに皆そちらを向きました。


それを馬車に乗って見ていたわたしは、

無我夢中でワゴンから飛び降り

「お と~~さ まぁああああ!」

倒れゆくお父様をみて叫びました!





その瞬間あたりは真っ暗になりました!


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