第三話 乳姉妹と一番の宝
第3話
そして捨てられてから数分後
(ここは、どこなの?)
わたしは、キョロキョロしました。
ベビーバスケットに入れられているようです。
鬼畜(お父さん)と、わたしが、乗っていた馬車と同じ家紋がついています。
外を見ると、石を積んで作った壁が見えます。
そして、その壁の向こうには、教会らしき建物が見えます。
建物から考えると、ここは昔のヨーロッパを思わせるような建築物です。
(いや~それにしても、寒いな~。誰か来てくれないかな)
なんて思っていたら、わたしを見つめる女性が現われました。
その女性は、年齢は二十歳手前かな。髪はホワイトブロンドで顎もシュッとしていて、顔全体が左右対称の美人さんです。
むむむ。わたしを産んだ、お母さんと顔が瓜二つです。
でも、頬がものすごくこけています。
「妹の言う通り、ここにいたのね。これから私と私の夫が貴女の親よ!」
その女の人は、両手でわたしを抱きしめ、頬を頬でスリスリしてくれました。
あ!この人たちが拾ってくれるのかな?
やったね!
わたしを抱き上げたその女の人は、涙をポロポロと流していますが、口元は、笑顔をつくっているように、口角が上がっています。
グゥッ
あ!わたしのお腹がなっちゃった。
「あら。おなかすいているのね。私の可愛い赤ちゃん。ちょっと待てってね」
その女の人は、一緒に来ていた男の人が、とめようとしていました。
けれど、言うことを聞かないで、おっぱいを飲ましてくれたの。
(あれ?この女性、おっぱい出るぞ。しかも、お母さんと同じ味がする。でもおっぱいはみんな同じ味なのかな?)
そう考えていたら、横にいる男の人が魔力測定器をだしました。
(ま、魔力測定器! うわ~また捨てられる~)
そう思ってジタバタしたけれど、男の人はかまわず、魔力測定器を握らせます。
わたしの右手の甲にはっきりと聖女の紋章が現われました。
そして魔力測定器は、ペカーと光り、その数値は、10004でした。
さすがに、びっくりしました。だって4が10004だって、お母さんのところの測定器はきっと壊れていたのね?
そんなことを考えていると
男の人とその女の人は、わたしを高く抱き上げ、
「この女の子は、女神様からのプレゼントだー!
女神様に感謝を」
そして“たかいたかい”を繰り返したあと、すたこらせっせと馬車に運んで、新しいベビーバスケットに乗せてくれました。
そして、馬車が動き出して、少ししたところで、伯爵の家紋の馬車がすれちがうのが、目に入りました。
それから、わたしの腹時計では15分程移動したところで、
お馬さんがヒヒーンと鳴いて馬車は止まりました。
そこは、高い壁が、ず~っと続いています。
壁の中には建物がいくつもあるのが、見えました。
(やっぱり、昔のヨーロッパみたいね)
とても立派でお城みたいな建物が、壁の上から見えます。
(あっ!正面の建物が新しいお家かしら?)
壁の前におじさんが立っています。
「お嬢様が生き返ったのですね。神の祝福ですね」
と門番は、目を丸くしています。
わたしは、まだちゃんとしゃべれないので
「おんぎゃ~」ととりあえず言ってみました。
(え?ここにも女の子がいたの?)
って聞きたかったのに声が出せないわ。
おじさんだけではなく、一緒に馬車に乗ってきた、男の人と女の人は笑みを、ずっとわたしに向けています。
この二人がお父さんと、お母さんになるのかな?
わたし頑張るから可愛がってと言おうと思って声を出したら、
「おんぎゃ~ ぎゃ~ おんぎゃ~」と言っていました。
やっぱり、赤ちゃんだからしゃべれないのね?
でも視界ははっきりしているのにな。
わたしは、もう捨てられるのが嫌だから
絶対可愛がってもらおうと意気込みました。
その後、お風呂にいれてもらって、体を温めました。
すごく寒かったから、とても嬉しかったの。
体が温まって、すぐに眠ってしまいました。
だってわたし、赤ちゃんなのですもの。
眠るのがお仕事なの。
(文句ある!)
翌朝、新しいお母さんと、お父さんがベッドまで来て
わたしを『エルーシア』と呼んでいます。
わたしはエルーシアと名付けられたようです。
(う~ん。やっぱり、新しいお母さんは、わたしを産んでくれたお母さんと似たような顔だな。
新しいお父さんも、もとのお父さんと似ているような感じがするな。
生まれたばかりで、人間の顔を見慣れていないから、みんな同じに見えるのかな?)
と考えていたら、お母さんに抱きかかえられました。
『エルーシアちゃん。私がお母さんですよ』
と言ってわたしを見ながらニコニコと笑顔です。
『エルーシアちゃん。横にいるのがお父さんですよ』
今度は、わたしの体の向きを少し変えて、お父さんの顔を見せてくれました。
お父さんは、プラチナブロンドそれともブロンドかな?とりあえず金髪です。
お顔は、よく整っていて、美男子。
お父さんもお母さんも細身ね。
そんなお父さんもお母さんに負けないくらいニコニコして見つめています。
「お嬢様は、夜泣きもせずに、本当によい子です」
昨夜から、わたしをお世話してくれた女の人がそう言いました。
「そうなの?エルーシアはとっても良い子なのね」
といいながらお母さんは良い子良い子と頭を撫で撫でしてから、わたしにおっぱいをくれました。
もぐもぐとおっぱいを飲んでいると
「クラーラ。できる限りエルーシアちゃんには、私がおっぱいをあげますね。
本当は乳母の貴女に任せるべきなのは、わかっているの。
けれども、私はこの子とのふれあいを大切にしたいの。だからお願いね」
とお母さんは言っていました。
「はい。畏まりました」
クラーラさんはそう言って笑顔でわたしを見つめています。
こころの中で、(お食事しているときにみんなでそんなに見ないで!)
と思っていましたが、無視しておっぱいを飲みました。
おっぱいを飲み終わって、笑顔で「ばぶ ばぶ」と言って、手をパタパタと動かしました。
お母さんは、わたしの姿を見て目に涙を浮かべながらも笑顔を作っています。
わたしを拾ってくれたときのお顔です。
そんなお母さんはわたしの体を自分の体の方に向けたまま抱っこして、背中をポンポンと軽く叩いてくれました。
わたしは
「げっぷっ」
といってゲップをしました。
はしたないけれど許してね。
その後も、お父さんとお母さんは、わたしの顔をニコニコと見つめ、ときには頭を撫で撫でしてくれたり、ほっぺをムニュとしたりしていました。
わたしはもう捨てられないように
「バブバブ」と愛想良く声をだしました。
そうしてしばらくすると
「それじゃ。また来るね。クラーラあとはよろしくね」
とわたしをベッドに寝かせました。
わたしは、立ち去ろうとしているお母さんに
《元気になーれ!》と回復の魔法をかけました。
これでお母さんの疲れがとれればいいな。
そして、お母さんに回復魔法、時には治癒魔法をかけるのが、日課になったのです。
(あれ?隣から人の気配が!)
わたしがお昼寝から目覚めると、隣に女の子が寝ていました。
(う~ん。わたしは女の子が隣に来るのが運命なのかしら?)
そう思っていると、クラーラさんが、わたしを見つめて、
「エルーシア様。隣にいるのが、私の娘のメリアです。
これからよろしくお願いしますね」
と言いながら、わたしとメリアを撫で撫でしています。
メリアは、乳姉妹になるのね。と思いわたしは
「バブバブ(メリアよろしく)」とお返事をしました。
「あら、エルーシア様。もう大人の言葉がわかるのかしら?
赤ちゃんなのに、聡明ですね」
とクラーラさんが笑顔でわたしを見つめた後、抱っこしてあやしてくれました。
そうしていると、メリアが「ねぇ~ねぇ~」と泣いて起きてしまいました。
クラーラさんは、わたしをベッドに寝かせて、メリアを抱き上げ
「メアリちゃん。おなかすいたのかな?」
クラーラさんはそう言ってメアリにおっぱいをあげています。
そうすると、ガチャッとドアが開きました。
「あら。今の泣き声は、メリアちゃんだったのね。エルーシアちゃんもお腹すいてないかな?」
と言ってお母さんがわたしを抱き上げてくれたので、「ねぇ~ねぇ~」とメリアちゃんのように泣いてみました。
そうするとお母さんは、おっぱいを飲ませてくれました。
《元気になーれ!》
お母さんにお礼として回復と治癒の魔法かけました。
そうするとお母さんは
「ねぇ。クラーラ私ね。エルーシアちゃんにおっぱいをあげると何故かわからないけれど、体が軽くなるような感じがするのよ! この子は私の癒やしなのかしら?」
「ええ。奥様。実は私も、エルーシア様におっぱいを与えていると、体が癒やされているのを感じます。
エルーシア様は、魔力がとても高いとご主人様が言われていましたので、もしかしたら右手の甲にたまに現れるのは、『聖女の紋章』の効果かも知れません。
エルーシアお嬢様は私達に魔法をかけてくださっているのだと思います」
「クラーラも同じように感じていたのね。
この子の魔力量は本当に高いので、聖女と呼ばれるくらいになるかもしれないわね。
でも、そうなったとしたら、教会と一悶着があるかもしれませんね」
「お家から聖女になられる方が出るのは、名誉あることではないのですか?」
「そうね。
私は体が弱いので、もう子供は産むことができないと思うの。
だからこの子がお婿さんをとらないとベルティンブルグ公爵家が潰れてしまうのよ。
だから聖女としての能力があったとしても教会に預けることができないのよ。学園や学院で社交の嗜みや、領地運営の勉強もさせなくてはいけないから!」
(え!勉強漬け決定なのか~)と落ち込んでいると
お母さんがわたしを撫でて
「エルーシアちゃんが、聖女になりたいって言ったら、別ですけどね」
「奥様は、エルーシア様の考えが一番なのですね」
「もちろん、私の一番の宝ですから」
お母さんはそう言いましたが、その顔は少し哀愁を感じるほど寂しい顔をしていました。
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