第13話 ハザード・スケルトン
「くるぞ、熱線!」
アルデがガーネットに向かって声を上げた。
杖持ちのハザード・スケルトンが、きっかり15秒ごとに熱線の魔法を放ってくることに気がついたのはアルデだった。
今回狙われたのはガーネット。彼女は大きく移動して熱線を避けた。
二人は今、離れて剣持ちのハザード・スケルトンと戦っている。
「しっかし、この乱戦でよく気づいたもんだよ、アルデ」
「魔法ってのが連発できないらしいことは知ってたからな。魔法力を充填するための『クールタイム』ってのが必要との話だ」
「はん、それになかなか小狡いことも考える。杖持ちをその隙に倒すんじゃなく、魔法で剣持ちのハザード・スケルトンを間引こうなんてな」
杖持ちは、仲間のハザード・スケルトンに構いなく熱線魔法を放ってくる。
数が多い剣持ちを、杖持ちの魔法でなるべく多く削っていこうとアルデが提案したのだ。
「タイミングさえわかるなら、俺たちがあの魔法に当たることはまずない。ならば利用させて貰うのが効率良いというものだ」
「あー、ちょっと拍子抜けだけどな。せっかく魔法使いと戦えると思ったのに」
「知性に欠けるモノが魔法を使えても、大した凶器にはならないということだろうな。しょせんは『武器』の延長だ」
二人は熱線の合間にハザード・スケルトンを斬り倒しながら、余裕の会話をこなす。
「理屈っぽいところはミリシアに似てるな。おまえら、気が合うだろ?」
「そうか? 気にしたことなかったが……」
「気にしてやれよ! あいつメッチャおまえのこと気にしてんじゃん!」
そうなのか? と熱線を避けるアルデに、ガーネットは「あちゃー」という顔をしてみせた。
「そうだよ! あいつは昔っからファザコンだったからな、アルデくらいの年齢の男に弱いってのもあるんだろうが」
「なんだ古くからの付き合いか。じゃあガーネットも貴族なんだな」
「ひひひ、あたしが貴族さまに見えるか?」
見えない、とまた熱線を避けるアルデ。
「だろう? その通り、あたしゃ貧民街の出でな」
そろそろ剣持ちの数が減ってきた。
二人は視線を合わせると、無言で頷く。次の熱線を避けたら、杖持ちを倒してしまおうと。
そして熱線が放たれた。
避けつつ、二人は杖を持ったハザード・スケルトンに急接近。先に一撃を与えたのはアルデだった。
「あー、負けたぁっ!」
アルデの一撃で、消滅していく杖持ち。ガーネットの攻撃は空振りだ。
「ちくしょう、もう一度勝負しろ!」
「俺の方が奴にちょっとだけ近かった、それだけの話だろうに」
「納得いかねーなぁ、もう!」
その場で地団駄を踏むガーネット。
アルデは苦笑しながら残りのハザード・スケルトンに向かって刀を振った。
「で? 貧民街出のガーネットとミリシア、どこに接点があったんだ?」
「おお? 興味出てきたかー?」
楽しそうな表情に切り替わるガーネット、コロコロと顔が変わる彼女を微笑ましそうに見つつ、アルデは頷いてみせた。
実は話題を変える為だけのつもりで聞いてみた彼なのだが、こう楽しそうな顔をされると不思議なもので聞きたくなってくる。
が、そこで廃墟の方から声が上がった。
「姐さーん、大丈夫ですかい!」
「おうガンズン、出てきやがったか。部下たちはどうした?」
「一人、足をやられて移動が困難です。だからあそこに立て籠もってやした」
「なるほどな」
眼帯の大男、ガンズンは大斧を振る。
三人に増えた一行は、残りのハザード・スケルトンを次々仕留めていった。
ガーネットの生い立ち話は立ち消えた。
聞きたかったような、そうでもなかったような。少しモヤモヤする自分の気持ちに苦笑しつつ、アルデはスケルトン掃除に精を出す。
そのお陰もあって、掃討戦はスムーズなものだった。
ガーネットが明るくガンズンに声をかけた。
「ギルドからポーションを持ってきてある。それで足を治したら、さっさと帰るとしよう」
「ですが姐さん」
ガンズンの声は歯切れが悪い。
「廃墟の中にも、なんか怪しいところがありやして……」
「はぁん?」
ガーネットは片眉を上げて、怪訝そうな顔を作ったのだった。
◇◆◇◆
残りのハザード・スケルトンを処理した三人は、廃墟となった建物に入っていった。
そこではガンズンの仲間たちが待っていた。
ガンズンも含め、廃墟に篭っていた男たちが頭を下げてくる。
「助かりました姐さん、アルデも……ありがとよ」
「気にするな。仕事で来たまでだからな」
「はは。アルデの奴、こんなこと言ってるけどよ、ギルドでおまえのこと庇ってくれたんだぜガンズン。あんとき根性見せたおまえらが、仕事程度から逃げるわけないって」
逃げるはずのない者たちが帰ってこない。
それはアクシデントを意味する。だからアルデはガーネットからの救援要請を受けた。
「で、ガンズン。部下の怪我はどんなもんよ?」
「奴らに足を斬られちまって……。応急処置はしましたが、芳しくありません」
「どれどれ、と」
そう言ってガーネットは、奥で横になっている部下の元へと歩いていった。
しゃがんで足を持ち、傷を確かめる。
「あーこりゃ、悪いな。良くない化膿をしちまってる」
背負い袋からガサゴソと取り出したのは、金色に煌めく液体の入ったガラス瓶だった。
「高い方のポーション使うしかねーな。おい、治っていくとき少しいてーぞ、我慢しろよな」
ガーネットがポーションの蓋を開け、液体を傷口に注ぐ。
反応はすぐにあった。シュワシュワと傷口を中心に泡が立ち、湯気が立つ。
「んががっ!」
と傷を負った部下が苦悶の声を上げた。全身を硬直させ、必死に痛みを耐えているのがわかる。
「すぐに肉が盛り出すだろうが、治癒するのは自分の肉体の力なんだ。治っていく際の痛みが凝縮してやってくる、我慢しな」
部下の頭をパシッと叩くガーネット。
あとはポーション任せだ、と言って立ち上がる。
「そうしたアルデ? 呆けた顔をして」
「……これがポーションというものか。初めてみたが、すごいものだな」
「魔法を使って精製するそうだ。魔法院がある王都のギルドだからまだ手に入れやすいが、それでもなかなか一般の市民層までは下りてこないシロモノだぜ?」
ガーネットは余ったポーションを、大事そうに背負い袋にしまい込んだ。
ガンズンが目を伏せる。
「すまねえ姐さん、そんな大事なモノを俺たちの為に……」
「いいさ。おまえらの面倒を見るって言ったのはあたしだからな、むしろ荷が重い仕事を斡旋した形になって悪かったと思ってるよ」
笑いながらも申し訳なさそうに、ガーネット。
「で、この廃墟の中も怪しいってのは、どういうこったい?」
問われたガンズンとその部下たちは、しばらく顔を見合わせた。
言いにくそうに、ガンズンがガーネットに向く。
「実は、……確認してないんですが」
建物の奥に、地下への長い階段があったという。
そこから異様な冷気が漂ってきているというのだ。
「冷気……、冷気ね」
ハザード・スケルトンもそうだが、瘴気から生じる魔物がいると、周囲の温度が下がる。
これは冒険者ならば大抵の者が知っている常識的なことだ。
そして、強力な魔物であればあるほど、その空気は冷たくなると言われていた。
「どう思う? アルデ」
「下りてみないとわからないが……。異様な冷気とまで言うほどの状態なら、そこに居る魔物はよっぽどのモノなのかもしれんな」
「はは。もう魔物が居るというのは大前提か」
愉快そうに笑うガーネットだ。
対してアルデが面白くもなさそうに応える。
「異様な量のハザード・スケルトンだったからな。しかも魔法を撃つなんていう変わり種もいたほどだ。それほどまでの瘴気の原因となっているものが、どこかにあるのだろうとは思っていた」
「それがこの地下にある、ということか。そしてより濃い瘴気の元で生じた魔物がきっといる、と」
「不思議とこの建物の中だけは瘴気の影響を受けないみたいだがね」
肩をすくめるアルデ。
ガーネットは腕を組んでしばらく考えごとをしていたようだが、やがて大きく息を吐いて呟いた。
「なあアルデ。実はもともとの依頼、ハザード・スケルトン討伐が魔法院からのものだと言ったら、どう思う? 今の状況も鑑みて」
「……なにかの事後処理。それも、予定外に大ごととなって、彼らの手を離れてしまったことの」
「その予定外ってのが、きっと地下にあるわけだ」
「たぶんな」
アルデの言葉に、くっく、と笑うガーネットはどこか楽しそうだ。
「道理でポーションを安値で融通してくれたはずだぜ」
拳を一方の手の平で包み、指をポキポキと鳴らす。
「さっきの杖持ちは拍子抜けも良いところだった。いてくれよー、もっと凄い奴」
「おまえさん、ほんと戦うのが好きなんだな」
なるべく燃費よくやっていきたい自分とは真逆の発想だ、そう呆れた顔で肩をすくめるアルデに、ガーネットは笑ってみせる。
「さっきは一歩差で負けちまったが、今度は勝つぜー?」
まだ言ってやがる、とアルデは苦笑せざるを得ない。
二人は武器をそれぞれ確認すると、ゆっくり階段を下りていったのであった。
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出来損ない鍛冶師と馬鹿にされるおっさん、うっかり最強魔剣を作ってしまい無自覚無双で剣聖になるしラブコメもする ちくでん @chickden
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