愛しのフルコース

深雪 了

愛しのフルコース

―完成した。

ダイニングの椅子に腰掛けたわたしは、眼の前に並ぶ幾つもの皿とグラスを見て微笑んだ。


これはわたしがつくった、わたしの為の料理たち。量がとても多いから、何日かに分けて食べようと思う。

調理するのがすごく大変だったから、わたしは一刻も早くこのフルコースを口にしたくて、まずは赤い液体の入ったワイングラスに手を伸ばした。


ごくごくと、喉を鳴らして液体を飲み干してゆく。これは愛しいあなたに流れていた、血。2年間わたしと共に居たあなたの血液。ワインに負けず劣らず濃厚で、飲んでいる私の口を紅く染める。


次にフォークを持ち、サラダに使うような小さめの皿に手を伸ばす。そこにあった―指、にフォークを刺した。

よくわたしの頭を優しく撫でてくれた指。その記憶を脳裡に浮かべながら、フォークを口に入れ咀嚼する。


今度は別の、先ほどと同じ大きさの皿に移る。そこにはオードブルさながら、2つの耳が左右対称に並べて置いてあった。

わたしの話を頷きながら、熱心に聞いてくれた耳。噛むとコリコリした部分があり、耳たぶは想像以上に柔らかかった。


そして中央にある一番大きな皿―今日のメインディッシュだ―には、切断した太腿と、肺と心臓がバランス良く盛り付けてあった。わたしはおもむろにナイフを手に取った。



―ずっと、一緒に生きていくのだと思っていたのに。


わたしは思考に耽りながら右手のナイフを動かす。


―なにが、「親が決めた人と結婚しなきゃいけなくなった」ですって?


ギリギリと、ナイフを動かす手つきが激しくなっていく。


―わたしたちは、ずっと一緒って誓ったでしょう?


何分かかけて、皿の上の「あなた」を一口大の大きさに切った。



―だから、こうすれば、もうずっと一緒にいられる。こうして、わたしの中に取り込んでしまえば…


わたしはフォークに刺した心臓を目の前にかかげ、うっとりと微笑んだ。これでもう、私たちはひとつになる。離れることはないの。



―いただきます。








……あら、デザートを、用意してなかったわね。

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愛しのフルコース 深雪 了 @ryo_naoi

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