【更新無期停止】非日常と日常のミステリー

貴音真

出題「自転車の鍵を買う男」

 その日、普段は自宅から徒歩二分の距離にあるドラッグストアへの買い物であっても自転車に乗って出掛ける小説家の森久保もりくぼ樹一じゅいちは珍しく片道十数分のホームセンターまで徒歩で出掛けた。目的は新しい自転車の鍵を買うためだった。

「すみません、自転車チャリの鍵を買いに来たんですが売り場はどこですか?」

 ここまでの道程で十数分のウォーキングを強いられた樹一はホームセンターに着くなりと店員に訊ねた。

「自転車ですね。それでしたら───」

 店員は女性で、樹一の問いに対して売り場まで案内する事で応えた。

 そうして案内された自転車用品売り場には一人の男がおり、その男はの頑丈そうな自転車の鍵を購入するところだった。

「ありがとうございました。ではこちらの古い鍵は処分させて頂きます」

「よろしくお願いします」

 男は支払いを終えると手にしていた自転車の鍵を店員に渡し、購入した新しい鍵を持参したエコバッグに放り込んで足早に立ち去った。店員が受け取った鍵には小さな鈴が付いていた。

 樹一は男にいぶかしさを感じながらも自らの目的である買い物を済ませて帰宅すると、工具を取り出してキーホルダーごと自転車の鍵を車体から取り外し、購入したばかりの新しい鍵と付け替えた。付け替えた鍵の種類はそれまでと同様に馬蹄型と呼ばれる物だった。

 それから数週間後、インターネットのニュースサイトを見ていた樹一は『他人の自転車をガードレールに固定した迷惑男を逮捕』という見出しを見付けるとあの日ホームセンターにいた男を思い出した。

 そのニュースサイトには犯人である男の写真こそ掲載されていなかったが、証拠品として掲載されていたU字型の鍵は樹一がホームセンターで見た男が買っていた物と同じ製品であり、一連の事件が発生した場所は樹一の暮らしている地域であった。

「あいつ、だろうな……」

 樹一はポツリと呟いた。


【問】

樹一がホームセンターで見た男はまさしくその『迷惑男』であったのだが、樹一はあの日なぜ男に訝しさ(怪しいという印象)を感じたのか?

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