ルージュの魔法

それから私は、荒れ狂う食欲と戦いながら(その度編集長の鬼の形相を頭に浮かべながら)

1日をスープで過ごす日々を、2週間程続けることに成功した。


体重は3キロ落ちた。

見た目にあまり変化は無いが、気持ち軽くなった気がして、テンションが上がる。


だけど、インタビュー前日の今日。

結構緊張していた。


今日は倉原先輩が紹介してくれた美容院で髪を染めたり、カットしてもらった。

そして、湯船にゆったり浸かって

入念に全身をマッサージした。

後は寝るだけ。


「自分に出来る事は全部やった。

ていうか、私は空気みたいなもんだし、買った服着てニコニコ笑ってればいいだけだもんね!」

大声でゆっくり自分に言い聞かせる。

不思議と落ち着いてきた。

そして自分で言ったこと、その通りだと思った。


そもそも、自分はファッション業界に詳しくない。ルイ・カルサワというモデルについても余り知らない。

私はただの小説好きの事務要員。


出来ることだけする、それが私のモットーだ。周りの空気に呑まれてた。


明日が終わったら、小説読みながら

お気に入りのクロワッサンでも食べよ〜。

そう考えて眠りにつくと、

幸せな夢を見た。


翌日

朝5時に起きて、身支度を整えスープを飲み、歯を磨いて出社した。


新品の服は、思いの外自分に似合ってるように感じた。

靴を履いて出掛ける。


公文社の中はまだ人はまばらだった。

エレベーターに向かって歩いていると、後ろから声を掛けられた。


「竹石」

「先輩、おはようございます」

「おはよう、似合うね服」

褒め方かっこいいな。

「ありがとうございます!」

「先輩も」

先輩の今日の服装は、

グレーのニットカーディガンに、ジーンズを合わせていた。

髪を緩くお団子にして、抜け感がある。上級者だ。

「当たり前でしょ、あんたに褒められても全然嬉しくない」

「ひど!」

「人を褒めるには100年早いのよ。

ちょうど良かったわ。これから化粧室でメイクしてあげる。髪もね。

あんたのために持ってきてあげたんだから、まじで優しい私」

自画自賛。

「助かります!先輩」


六本木のど真ん中にあるビル。

美しいエントランスの中のトイレは、やはり美しい。

化粧室も整った設備だった。

「オレンジ気持ち入ってるのね。なら眉はそれに合わせよう。

あんたはつり目だから、活かそうかな。」

先輩はブツブツ言いながら、手際よくメイクを施していく。

スポンジで肌を均一に叩きながら、

何か色んな事をされている。


粉を叩いて、眉を描き、アイメイクを施された。


「ツヤ肌って最強よね。でもやりすぎはだめ。このジバンシーのハイライトは好き。ここと、ここと、ここにも塗るのが良き」

「先輩ってメイクする時めっちゃ喋りますね」

そう言ったら、眉間にブラシをねじ込まれた。

「イタイ…」


そうこうして、1時間後メイクは完成した。


「出来た。見てご覧なさい」

すごい。


鏡に映った自分を見て驚いた。

「か、かわいい、です」


先輩は当然というような顔で、頷いた。

「ま、髪は適当に三つ編みが良いかな。この長さならいけるでしょ」


オシャレな三つ編みに、先輩のメイク、貸し出して貰ったイヤリングに、服。

不思議と、ドキドキしてきた。

ただ、化粧室から出てエントランスを歩くだけでこんなに胸が高鳴るとは。


先輩、すごすぎる。


オフィスには何名か既に出勤していた。私もチェックをして事務仕事に取り掛かる。


ルイ・カルサワへのインタビューは、

9時に出発と聞いている。


その後、編集長が会議から戻ってきた。今日の編集長は、一段と豪華だ。


ふと、編集長が私を見て

「誰のお陰か知らないけど、及第点」

内心ドデカため息をついた。


さあ、そろそろ出発だ。

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麗しきモデル様と新米編集者 戸森 @watashi_tensai_ikiru

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