配属二か月目のイモの進歩
「これもいいんじゃない?こっちも、このハイウエストのパンツと合わせてさ。」
テキパキと先輩が私をマネキンにコーデを組んでいく。
なんか、めっちゃ頼れる、、、
私の中のファッションはカラッカラに乾いた砂漠なので、
先輩の存在はあまりにもオアシスだ。
この水で救われる人間とラクダが、一体何人(頭)いることか、、、
私はその自然の作り出した恵みに感謝しながら、目を閉じてされるがままだ。
その時、倉原先輩に頭をボカと叩かれた。
「ッタオー」
「変な鳴き声出さないでくれる?」
咄嗟の声すらダサいなんて、と小声で普通に呆れられた。
「何ですかー、もう。先輩は私を犬か何かだと思ってますか」
「思ってないわよ、犬のほうが愛らしいもの。」
「失礼すぎる」
「失礼なのはあんたよ。何寝てんのよ。」
「ちが!違います。 自然の造形の前には、人間はひれ伏すしかできないですから、、」
「は?」
先輩の腕にはすでに四着ほど美しい服がかかっていた。
「すみません」
「これから仮にもRIZELで働く人間が、ファッションに対して怠惰なんて、許されない。」
そう言って先輩は適当に近くのハンガーラックから、一着の服を選びだした。
「このアイテム、どうコーデ組む?」
「え」
首回りと肩・手首がフリルになっている、上品な白シャツだ。
だけど、綿素材と服の形で、ラフな印象。
「いや、こんな素敵なアイテムだけ渡されても、自分の手には余ります。
高級食材を渡されたところで、レシピもノウハウもないんじゃ、ただの料理下手が作る肉じゃがになって、食材が泣きますよ!」
「早口うざい。
良いのよ、別に失敗したって。私だって、何回失敗して笑われたことか。
でも、私別に失敗とは思ってないけどね。自分が表現したいものが、世間の流行りとずれていたって、構わないし。自身のセンスが足りなくても、その時出来る最大を精一杯頑張ってたこと以上に、胸を張れる材料なんてないわ」
「ま。 そもそも、あんたとはスタイル(土台)が違うから、参考にならないカモだけど」
余計な一言を付け加えたせいで、とっても残念なストーリーになった。
「先輩、」普通に傷ついて先輩を見ると、何食わぬ顔で
「ま、他人の目なんて気にするほうが無駄ってこと」と言った。
どう受け取れば、そのメッセージを見つけ出すことが出来るのか。
ま、いいや。
考えてみよう、このシャツの活かし方。
シンプルで上品で、ラフ。この美しい白シャツ。
「何を基準にコーデを組めばいいんですか?」
「そうね、じゃあ、今回は、出来る女のオフィススタイル」
「なんかむず」
「簡単でしょ。目の前に参考例がいるんだから」
倉原先輩はそういって、先輩自身を示した。
「仕事スタイルなら、やはりパンツが良いですよね。このシャツに合わせて、キレイめだけど、硬すぎない、」
「いいんじゃない?どれを選ぶの」
そこが一番の問題だ。店内をぐるりと見まわして、入口付近に飾ってあるマネキンの
履いているパンツがちょっといいな、と思った。
明るい黄緑色で、ハイウエストのパンツ。
しかし、その場についてハンガーに手を伸ばした瞬間、めちゃくちゃ強く腕を掴まれた。
「あんた、それをアンサーにするつもり?」
「いったぁ!」
「うるさい。」
「そ、そのつもりでしたけど。だめですか?」
もう、表情で分かった。
「はい、すみません」
失敗は許されないらしい。
結局、迷いに迷って三つほど選んでみたが、全部ダメだと言われてしまった。
だけどダメ出しを食らいながら、何とかコーデが完成した。
ほとんど誘導のようなものだったが。
ミルクティー色のテーパードパンツに、つま先が少し尖った作りの、踵が厚めのローファーに決まった。
「まあ、いいんじゃない。」
「ほとんど先輩の表情で選んでましたけど、、」
「うるさい。手に取ったのはあんたでしょ」
「さあ、これで買い物は終了ね」
「え、先輩が選んでいたのは」
「自分で選んだほうがいいでしょ」
「いや、そんなことッ」
だけど、考えて。
先輩の選んだハイセンスなアイテムを着こなせる自信がなかった。
「、そうします」
店内を出てから、倉原先輩がきつい顔をしていった。
「ルイ・カルサワに会う日は最低でも二時間は早く出勤しなさい。
髪、メイク、チェックしてあげるから」
「先輩、ありがとうございます、、!」
「前日は必ず美容院と、マッサージ、お風呂に三十分以上つかる事。
ていうか、今日からダイエットしなさいね」
「え」
「もし。そんな見てくれでルイ様の前に現れようもんなら。」
。。。
「はい、分かりました」
無言の圧には勝てるわけがない。
しかし、ショッパーの重みを感じて、少しホッとした。
倉原先輩に見繕ってもらった服なら、編集長に怒られる心配はなさそうだ。
いや、土台(スタイル)で台無しになる心配が残っているが。
一瞬で編集長の鬼の形相が浮かんだ。
、食欲が急激に衰退していくのを感じた。
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