口の悪い先輩と参戦服を買いに。
はあ、もう。なんで、こんなことになってるんだっけ。
「ちんたら歩かないでよ。うざったいわね。」
先輩編集者の倉原絵未子さんに、説教されながら、
休日でにぎわうショッピングエリアに来ていた。
ルイ・カルサワに会うとき用の服を見繕ってくれるらしい。
口は悪いが、面倒見はいいのかも知れない。
単に先輩が彼のファンだと言うだけで思いやりとは違うのかも知れないけど。
しかし、
休日出勤と呼べるような状況。 服は完全自腹。
世知辛い世の中に、私の心には北風が吹いていた。
「あんた予算どのくらい?」
スタスタ歩きながら先聞いてくるくる。
「に、二万、、。」
「はあ?
せめて五万はないとでしょ!なめてんの!」
「ふ、ふざけないでくださいよ、先輩!
先輩こそ、わたしの安月給舐めないでください!!」
「これから、私はこの一か月とてもひもじい思いで暮らす事になるんですよ、、、」
私の言葉に先輩は、何とも言えない表情になって、溜息を一つついた。
「これだからダサ人間は。」
カチン。
私の頭に、何か音が響いたけど、無視することにした。
無言で歩き続けて、先輩はある店の前で止まった。
ここか、、、。
いや、ちょっと、ハードルが。
なんか、暗いし。照明が、淡い感じに光ってるし。
音楽も60年代ぐらいの洋楽かかってるし。
服、服、服のオンパレード。
でも、その服たちは、何というか紳士だ。
この店の絶対的主役でありながら、
「あくまでこの空間を作り出してる一部なんだ」という謙虚さがある。
私が今まで行ってきた
「俺!はい!俺買って!!オシャレだよね!俺!!」
服の個性の主張大会みたいな、煩雑な売り場スタイルではないことは一目瞭然だ。
そして、その調和の中には、店員と客も含まれており、
私のような部外者が立ち入っては、その完璧に作りあげられたオシャンティー空間を
歪ませてしまう。
いや、入れないでしょーーー!!
なんか緊張して長々と語ってしまったけども!!
「何突っ立てんのよ。入るわよ。」
私を置いてパッパと言ってしまいそうな倉原先輩の細い腕を
必死に掴む。
「無理!無理!!」
「はあ。何なめた事言ってんの?」
冷え切った目でこちらを見られた。
「ていうか離して。うざい。」
ああ、無情だよ余りにも。
「ていうかさ、私はあんたのために付き合ってあげてんだからね?
いいの?そんままのダサい服でインタビュー参戦して、」
インタビューに参戦って言うなよ。アイドルのライブみたいじゃん。
「編集長に鬼怒られたって。」
その一言は氷水の滝くらいの衝撃だった。
「倉原様。よろしくお願いいたします。」
「分かればよろしい。」
「それと、付き合ってあげたんだから、今日のランチおごってね?」
いや、キツッ!
なんかもう、この人は~~!!
いや、もうこの際仕方ない。
昼は先輩から何を言われようが牛丼屋に連れて行くとして、
今は、服だ!
覚悟を決めて私は、そのアンティーク調の店内へ
足を踏み入れた。
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