第23話 vs《副露マエストロ》クソ鳴きメスガキ(その⑨:清一色の鳴き待ち換え その2)

 モブ  :23500

 ピープス:28300

 リンシヤ:22500→27700

 フローラ:44700→40500


 南三局の二本場。

 フローラは自分の箱の中の点数を見直してしばし黙考に沈んだ。


 点数状況は一人抜け。このまま対面のピープスや、上家の親に和了あがりを決められるぐらいなら、下家を擁護して鳴かせて安く流すというのも有力になってくる。


 ただしピープスとリンシヤが二着上等、という打ち方ではないのが気になる。

 こういう場だと、安手で早和了あがりという場ではなく、高打点が飛び交いやすい場になってしまう。

 ラス目との点差が4000点以上ついていることもあり、この二人は焦らなくてもいい立場にあるため、局消化のためにはやはり自分が前に出て戦う必要がある。


(ま、クラシックルールは聴牌連荘がない分、オリやすいというのが幸いね。降りていればいいだけというわけではないけども、中盤ぐらいまでは押し気味に前に出とこ)


 リンシヤは、先ほどの4200点の支出をどうとも思っていない。

 あの和了あがりやすそうな倍満手を降りるほうが、長期的に見ても大きな罪である。あの押し引きに後悔はない。

 後悔はないが――。


(…………ノーテン立直宣言でちょっと読みが狂っちゃったわね。聴牌テンパイなら尚更立直をかけてくる、なんて高を括っちゃった)


 冷静に思い返せば、リンシヤの構え方はあながち間違いではなかった。

 確かに筒子が高いあの河で、立直なんてしたら③筒なんて出てこない。

 先ほどの一気通貫は黙聴ダマテンで正解である。フローラも同じ立場だったら同じく黙聴ダマテンに取っている。


 それに、ラス目の親番につき、あの4索も勝負している。変な打ち筋ではない。


(ま、いいわ。次で終わらせてあげよ)






 ◇◇◇






(ここのところずっと負けっぱなしですけど、一つ学んだことがありますわ)


 リンシヤは鋭く息を吐き出した。

 何とか連荘を引き寄せた親番。南三局二本場、ドラは9索。

 配牌を理牌リーパイしながら、リンシヤは勝ちにつながる手を考えた。


 リンシヤの配牌:

 一三六八①①479西北發中 ツモ⑦筒


(国士無双も見えますけども、第一打は西から和了あがりを求めていきますわ……)


 正直配牌は悪い。

 この手を和了あがりに向かうことは難しいだろう。だがそれでも真っ直ぐ進むしかない。

 リンシヤが選んだのは打西。

 素直に和了あがりを求めていく。


 ツモ①筒、打北。

 ツモ二萬、打中。

 ツモ九萬、打發。


 リンシヤの牌姿ぱいし

 一二三六八九①①①⑦479 ツモ④筒

 リンシヤの河:

 西東北中發


(……純全帯么九純チャン三色同順さんしょくどうじゅんの目がありますわね)


 打六萬。

 萬子の一気通貫の目がこれでなくなるが、六萬の早切れを見て誰かが七萬勝負してくれるかもしれない、という将来の布石にもなる。

 また、純粋に塔子ターツが一つ足りないので孤立牌を塔子ターツに育てたい。六八九の不安定な持ち方よりは④⑦の方が好形こうけい塔子ターツ率が高くなる。

 どちらも筋持ちと言えば筋持ちなのだが、六八九の六はなくても七受けが残る。


(……。上家以外は、七萬は持ってなさそうですわね……)






 ◇◇◇






「立直」


 今度も立直か、とフローラは細いため息を吐き出した。 

 再びリンシヤからの先制立直。どうやらこのリンシヤとかいう令嬢は、面前派の打ち手らしい。別に《龍使い》は特段、面前派というわけでもないのだが。


(また立直ね、はいはい)


 ノーテン立直かどうかはもう気にしない方がいい。この状況で一番最悪なのは、もしかしたらノーテン立直かもしれないと高をくくって親の高い手に放銃することである。


 リンシヤの河:

 西東北中發六4 ⑦立直


(ツモ切りは東のみ、場に情報なし。しいて言えば六萬と4索の外は比較的安全度があがる、ぐらいかな)


 フローラの手は非常にいい。

 フローラの牌姿ぱいし

 四五六七七③④⑤⑦⑧113


 一向聴イーシャンテンで、萬子の三五六八萬を引けば好形こうけい変化する。


(う)


 ツモ。フローラは内心で呻いた。

 立直を受けての第一ツモが⑧筒。

 ⑦筒切り立直なので、直前の牌の関連牌ということもあって少々警戒する。

 手出しの順番でいうと、六萬→4索→⑦筒なので、⑦筒を最後まで引っ張った理由を考えると筒子回りが微差で切りづらい色になる。

 だが――。


(…………。打六萬で素直にオリね。4索の筋の1索や、早切れの六萬を頼りに七萬あたりを切って粘るのもあるけど)


 ここは無難にオリに向かった方がいい、とフローラは考えた。

 この早さで親に立直を打たれたのであれば、もう勝負あったであろう。流局してくれてもいい。

 これでもフローラは《十三不塔》の一角の頂、《副露マエストロ》の異名を誇る雀士である。

 ラス親も残っている現状、無理をする理由はない――。


 打六萬。

 瞬間、対面のピープスから感じる僅かな違和感。


(…………? ピープスちゃんがちょっと動きたそうにしてるけど、打ち込むのはやめてよね)






 ◇◇◇






 ピープスはこの時、萬子の清一色チンイツに向かっていた。


 ピープスの牌姿ぱいし

 二三三四四四六七八八九九中 ツモ3索


 ピープスの捨て牌:

 ⑨東1東發⑧③


(……第一打は中だが、次はどうする?)


 逡巡。

 ここで清一色チンイツを上がれば大きい。フローラから直撃すれば一位にもなれる。4索がやや早いので、3索ぐらいは勝負してもよさそうである。

 打中。


 続けて、リンシヤが五萬を切ったのに合わせて、ピープスの上家も五萬を切ってきた。


「…………」


 ピープスの牌姿ぱいし

 二三三四四四六七八八九九3


 この牌姿ぱいしで五萬は急所である。

 どう鳴くのがいいのかは難しいが、四六萬の形で鳴いておけば三四八九萬いずれの形でもポン聴が利く。


「チー」


 ピープスの牌姿ぱいし

 二三三四四七八八九九3 五四六


 立直棒と二本場合わせて、満貫は9600点の和了あがり

 ここの和了あがりで一気にトップが見える。五萬は絶対に鳴くべき牌である。


 打3索。

 リンシヤからのロンはない。

 通ればもう後は怖いものは何もない。


(……もう少し押させてもらうぜ)


 幸い、聴牌テンパイしたときに切る萬子は押しやすい牌である。


 リンシヤの河:

 西東北中發六4 ⑦立直


 ピープスの牌姿ぱいし

 二三三四四七八八九九 五四六


 立直者のリンシヤの河を見ると、六萬が切れており、ツモ一四七萬の時は筋牌の打三萬で切りやすい。

 ツモ三萬は、ワンチャンスになっている二萬を押す。

 ツモ八萬は、筋牌かつワンチャンスの打九萬。

 ツモ九萬は、早切れの六萬の外側の打八萬。


 この清一色チンイツは追いつける、という手ごたえがあった。


 しかもリンシヤが切ったのは九萬。

 これも絶対にポンである。


「ポン」


 ピープスの牌姿ぱいし

 二三三四四七八八 九九九 五四六


(二五萬待ちで追いついた。満貫の聴牌テンパイ――)


 麻雀は、意志のゲームである。一発、裏ドラ、赤ドラがなくても、高い手を作ることは十分できる。

 例えば染め手は、ドラがなくても高い手に育つ。偶然役がなくても満貫級になる。

 染めに行ける手が来たときは、並大抵の立直よりも強く押し返せるのだ。


(悪いが、決めさせてもらうぜ。親の立直なんざ知ったことか)


 打七萬――。






 ◇◇◇






「ロン」


 宣言を聴いたとき、フローラは思わず内心で舌打ちをした。


 リンシヤの牌姿ぱいし

 一二三八九①①①⑦⑦789


「立直ドラ1で……3900は4500」


 モブ  :23500

 ピープス:28300→22800

 リンシヤ:27700→32200

 フローラ:40500


(…………。その手で純全帯么九純チャン行かないの? 鳴いて純全帯么九純チャン三色同順さんしょくどうじゅんで5800作れるじゃん。ふぅんだ)


 鳴いてでも5800を作りに行くか、愚形待ちの立直にかけるか、ここには個人差がある。

 クラシックルールにおける供託1000点の重さ。

 愚形が多く、鳴いてでも形を捌いていきたい混全帯么九チャンタ系の牌姿ぱいし

 ツモって2600オールは偉いので、立直も一理あるが、七萬を積もれるかどうか不確定な立直なので、フローラからすればギリギリ立直に向かわない手である。


 もちろんフローラからすると、対面のピープスにも文句があった。


 悔しさゆえか、ピープスは手牌を開いていた。

 そのためフローラは、本来見なくてもよかった手順ミスを見つけてしまっていた。


 ピープスの牌姿ぱいし

 二三三四四八八 九九九 五四六


(…………。五萬チーのとき、四六萬じゃなくて三四萬で鳴けよ)


 当時のピープスの牌姿ぱいし

 二三三四四四六七八八九九3


 四六萬チー:二三三四四七八八九九 五四六

 三四萬チー:二三四四六七八八九九 五三四


 四六萬の嵌張カンチャンチーの利点は、①三萬ポンができる、②一萬ツモ時に一気通貫ができる、③六萬ツモ・八萬九萬ポン後の形が二五萬の両面リャンメンで「三四萬でチー」より強い、という三つ。

 三四萬の両面リャンメンチーの利点は、①三萬五萬ツモ・三萬五萬チー後の形が「四六萬でチー」より強い、という点。


 しかしよく見ると、五萬はリンシヤとモブがそれぞれ一枚ずつ切っており、自分で一枚二萬を持っており、結局二五萬の強さは亜両面リャンメンと大して変わらない。

 なので九萬ポン後の待ちの強さは、どちらもあまり変わらない。


 それに二三三四四の部分でポンしてしまうと、自分で一枚使いの辺張ペンチャン七萬待ちがほぼ確定してしまうため、「①三萬ポンができる」という利点はあまり意味をなさない。

 四萬ポンの時も「まさかこれで一四萬待ちはないだろう」という読みの盲点を誘い出せるという意味でも、一四萬待ちに取れる三四萬の両面リャンメンチーしたときの方が優秀である。


 となると四六萬の嵌張カンチャンチーの利点は、八萬ポンと、一萬ツモ時の一気通貫、の二つのみである。


 まだ山に残ってそうな三萬五萬を引いたり、上家のモブが切ってくれそうな三萬五萬チー後の好形こうけい変化を考えると、辺張ペンチャンの七萬のネックを解消したいという意味でもここは三四萬チーの方が手組として柔軟である。


「…………」


 勝負にあや・・が付くとはこのことだろうか。

 フローラは、上手く言葉に出来ない嫌な気持ちを胸中に芽生えさせていた。


 南三局、三本場――。


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