第18話 リンは売りません。

突然の領主様の 呼び出しにより 俺たちは領主の屋敷に 連行?された。


遠目から見えた 4階建ての大きい建物だ。


表を回り 裏口から案内された。


執務室に入ると 領主様と 隣に執政官かな? 別に2人 年配の男がいる。


騎士が「領主様 連れてまいりました。」 と俺たちを手でしめす。


隣の執政官が俺たちに向け こちらがマルセル領主様だ と伝える。


「商人のアデルです。」俺が答え リコたち3人はお辞儀をする。




執政官?が 「そちらに掛けろ。」と応接用のソファーを指す。


俺が長椅子の半ばに座ると 3人はソファーの後ろに立つ。


ん? そういうもんなのか? 


後ろの3人は使用人か? 領主が訪ね、3人に目を向ける。


「はい!ご主人様の奴隷でリンです。」 リンがにっこり答える。


領主がリンを見て固まった。 口が半開きだ。


知り合い?のはずはないな。 誰かに似ているのかな?


「使用人のリコです。」とリコが 「・・奴隷のサモン、大工です・・」サモンも答えたが


領主の目はリンで止まっている。 まだ、口が半開きのままだ。


これは!心を奪われた顔だ。呆けた顔だ。 




執政官が咳払いをして 領主を上座に座らせる 上座ってあるのか?


役職とかわからないが 3人の執政官も 長椅子に座る。


領主が リンたちに向って そなたたちも座れ・・ と言うと


隣の執政官が 「彼らは 奴隷ですぞ。」と横目で領主に言う。


俺は「彼らは そのままで大丈夫です。」と とりなしてみた。




執政官ににらまれながら 領主が


「おぬしが アダマンタイトの鉱石を発見したのか?」と聞く。


「はい。そうです」 俺が答えると 


「場所はどのあたりだ。」 真ん中の執政官が地図を 開きながら聞く。


俺は ダンジョン裏手の広大な荒れ地の 一番遠い側を指で示す。


山の麓だ。街からだとかなりの距離があるだろう。




「鉱石は 大きな岩の下に 目立たないように 置いてありました。」


と俺は ギルドと同じ 嘘をついた。


「うむ。そうだろうな。」 真ん中の執政官が うなずく。


「私は建設の執政官だが地質学者でもある。 あの辺りは深くまで石灰岩だ。


アダマンタイトがあったとしても 地上で見つかることはあるまい。」


地質学者は う~んと腕を組み 領主に 「一応 周囲は調査しますが


何度か調べた地域ですので アダマンタイトの鉱床が 見つかる可能性は


少ないでしょう。」 と伝える。


さらに領主にささやく。「残念ながら打開策にはならなそうですな。」




次に3人目の執政官が、俺に向い「私は司法官だ。万が一 領地内でアダマンタイトの鉱床が


見つかった場合は 領主様の持ち物となる。 勝手に採掘した場合は 死罪もある。


鉱床を見つけた場合 申し出れば 発見者には 採掘開始より5年間  


5%の取り分が認められる。 見つけた場合は必ず 申し出るように。」 と言う。


領主様以外は しっかりしてるな。


ダンジョンは領地内だが 誰もたどり着けないなら 問題ないか? ん~。




「うむ。」 領主はうなずく。 そして立ち上がり 俺に手招きする


端まで俺を引っ張り 小声で「ところで おぬしの奴隷だが どこで手に入れた?」


そっちの話か! 「この街の奴隷商店ですよ。」俺は言う。


「いくらで手に入れた。」 聞かれたので。 「金貨3枚です。」と答える。


「さ、さんまい?金貨3枚か! 私が金貨30枚出そう 譲らんか?」


「無理です。大切なので。」 俺が答えると 領主は悲しそうな顔をした。


「金貨100枚ではどうだ・・?」 さらに小声で聞いてくる。


  


金貨100枚 2000万円と言うことか。 この領主様は大丈夫なんだろうか? 


「すみません。無理です。 あのぉ・・領主様 金貨10枚くらいで 他にも奴隷が


沢山売っていました。似たような子が いるかもしれません。探してみてください。」


と俺が言うと 領主は 「うむ~ ダメか・・」と首を振る。


ダメな領主かもしれない。




領主館を出て 商人達との待ち合わせまでは 少し時間があるため


屋台の出したイスとテーブルに座り 飲み物を頼んだ。


サモンが リゾットのような料理に屋台を見ていた。


商人達と同席では そんなにたくさんは頼めないので 「少し食べておいても


いいよ。」と注文する。




「まいった。領主様がリンを 金貨100枚で譲ってくれって言ってたよ。」


と言うと。「聞こえてたわよ。丸聞こえよ。」 リコが言う。


リンが俺の横に来て「断ってくれてありがとうございます。」と抱き着く。


座ってる俺に抱き着くと・・・ これはこれで幸せだ。


金貨100枚と言われたときは さすがに心配だったらしい。


もちろん リンは売りません。




ただなぁ~ 気になるのは 法務官が言っていた アダマンタイトの鉱床を


領地内で 発見した場合の話だ。


何度も アダマンタイトを取引してたら 鉱床があると思われるのは


間違いない。 なんと説明できるか・・?


そうこう考えていると 約束の時間が迫ってきた。




指定されたお店に向うと 街で初めて見るような 高級そうなお店だった。


バチカンの教会を イタリアン料理の店にしたような 前世にもないような。


お店の真ん中にステージがあり ハープを中心とした静かな音楽が演奏されている。


お店の入り口で名前を言うと案内された。


商人達が先に座っていて 挨拶をすると 開けてある席に通される。


注文が心配で 俺の横にサモンを座らせ リン・リコの順で座る。




エミールさんとクリストフさんが他の商人たちを紹介してくれて


「ここのお店は このニコラの 経営だから 気にせず食べて下さい。」と


1人の商人を指す。 この人が このレストランのオーナーか。


なるほど 街での商人達の影響力は強力なのかもしれない。


俺は リコたち3人を紹介した。


腕の立ちそうな 冒険者ではないので みな以外そうな顔をしていた。




食事が出ると 以外に大皿料理だった。 この世界で初めて見る魚料理。


魚のムニエルや シュリンプ料理など 堪能できた。


リンは給仕の人と みんなに料理を取り分けている。性分なんだろうか?


周りの人も うれしそうなので ほおっておこう。


一通り食事も終わり 給仕の人も下がり 本題に入る。




エミールさんが 俺たちを手で指し示し「先日、アデルさんが 伝説のスコールオオカミを


譲って下さいました。そのままはく製にできるほど 無傷の状態で。」


エミールさんは 続けて 「そして今日は ほとんど入手できなくなったアダマンタイト鉱石を


譲ってくれました。 今では王都でも手に入らない貴重なものを いとも簡単に持ってくる


大魔法使いと ご縁ができたので 皆にも紹介したいと思いましてな。」


なんか芝居がかった 紹介だが、まあいいか・・




商人の一人が 「もちろん我々と ここだけの話ですが アダマンタイトの鉱床を


見つけられたのですか?」早速、聞いてくる。


「すみません。出所につきましては 事情があり お話しできません。」


その商人に 頭を下げ 間を開けて 俺は


「ただ、定期的に一定量をお譲りすることは可能です。」と言った。


商人達が 一斉に顔を向けた。


「もし 取引していただけるようでしたら 皆さんだけに お譲りすることもできます。」


商人達が おぉっ!とどよめく。 俺は続けて


「条件としては 私が出所だとは知れずに 値崩れしないように調整して


供給していただければ 問題ありません。」 俺は条件を伝える。


「うむ・・。値崩れを心配するほどの量を見込めるわけですな・・・」


商人の一人がすかさず理解した。さすが商人 話が速い。




「私は素人で 相場や需要がどれくらいあるのか 見当がつきません。


そこは皆さんに お任せして 取引させていただければ助かります。」


商人達がうなずき お互いに話し合う。


おれは 最後の懸案を 続けて説明する。「一つだけ懸念材料がありまして・・・


先ほど領主様に アダマンタイト鉱石のことで呼ばれ


出所を教えられないため 狩りの途中で拾ったことにしてしまいました。


その私が 毎月アダマンタイトを卸していると知れたら まずいことになるかなと


心配しています。」 つ付け加えると 


「そうでしたか それなら私共にお任せください。」 エミールさんが言う。




「ヴェルターと私は マルセル王子とは 同じ王都の学校で同級生でしたから


明日にでも行ってきて 商人の元帳を覗くなど とんでもないと 言ってきて


やりましょう。そうすれば気も咎めずに お取引していただけるでしょう。」


ヴェルターさん らしき人がうなずく。


マルセル領主は 国王の3男で 王都から赴任して ポラーネ領の領主に収まったらしい。


商人達も大商人の何代目かが多く 王都の学校を卒業している。


エミールさんたちに相談して よかった。




結局 月30kgを金貨30枚での取り決めとなった


30kgを前世に換算すると 月600万円か 悪くない。 


ていうか楽して暮らしていけそうだ。


最初は 月30kg 1年が8か月で 年間240kgも出して大丈夫かと思ったが


商人一人でも 30kgならもう収め先は決まっているとのことだ。


1~2年は 間違いなく取引できるだろう。


窓口はクリストフさんになり。 明日、最初の30kgを届ける約束をした。




帰り際にクリストフさんが 私は3日後に王都に帰ります。


よろしければ ご一緒に、王都に遊びに来られませんか ご案内しますよと言ってくれた。


馬車も用意してくれるそうだが 王都まで約220km 馬車で3日かかるそうだ。


7日後に王都に尋ねていきますと伝えると 承諾してくれた。




高級なレストランで 初めての料理を堪能した リンとリコは上機嫌だ。


テンションが高い。 サモンもたくさん食べて満足そうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転移魔法しか使えません。 @croud

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ