シンデレラだけど魔法使いを捕まえてみた。
ぷり
【短編】 シンデレラだけど魔法使いを捕まえてみた。
私は転生者だ。
そしてどうやらシンデレラの世界に転生したらしい。
よく知っているその物語の通り、継母やら姉達に嫌らがせを受けている。
非常に鬱憤がたまっているけれど、確か今日は舞踏会だ。
物語はここで終わってまた転生して別の世界にいけるのだろうか?
それとも死ぬまでこのまま奴隷生活なんだろうか?
いや、シンデレラだから多分、舞踏会に行く羽目になるんだろう。
でも、王子と結婚とかごめん被りたい。
……そして、その夜、魔法使いが私の前に現れた。コマンド?
▶ つかまえる!(ピッ)
※※※
「あの……どうしたら解放してくれますか」
目の前の黒ずくめの男はそう言った。
まさか魔法使える奴を、ロープでぐるぐる巻にして捕まえられるとは思わなかったんだけど、やってみるもんだね。
実は前世では変態ではないのだが、ロープで様々な縛り方を趣味で覚えたり、投げ縄したりとか、とにかくロープフェチでした。
そんな私にいわゆるファンタジー世界の後衛職である魔法使いを捕まえるなど造作もないことだった。
前世でロープが趣味で良かった。
てか、おばさんが来るかとおもったのに、若い男じゃないの。
「解放するつもりなら、そもそも捕まえることはない」
「あの、オレ、悪い魔法使いじゃないんですよ、今日だって強盗しようと入ったのではなく、お城で舞踏会があるので、あなたを綺麗にドレスアップして導こうと思って…」
「はっ……」
「!?」
男はビクッとした。
「信用できるとでも?」
私は男の顎を持ち上げて、男の顔をまじまじと見た。
黒くて長い前髪がサラリと流れて、紫色の瞳がのぞいた。
「ほう……。
なかなか美しい男じゃないか。
さっきからビクビクしているその態度もそそる。
私は、この男が気に入ってしまった」
「心の声が口からダダ漏れてますよ!? 怖い!! オレどうなるの!?」
「さて、どうしようかな……」
私は余ったロープをプラプラした。
「ヒッ」
私は、男が被っていたフードを外し、その美しい顔を拝む。
これは、向こうから飛び込んできたカモじゃないの。
この国の王子は以前見かけたことがある。
たしかに金髪碧眼の美しいヤツではあったが、私はこの男のほうが好みだ。
「だいたい、お城で舞踏会?王子に気に入られたら結婚?何そのザルいシステム。夢見る女をなめてんじゃないわよ」
「……はい?」
「王妃教育をしたわけでもない……女たちの集まり。……いや、貴族の子女も集まって入るでしょうけど。
とりあえずドレス靴馬車用意できる女が群がっている舞踏会で結婚相手を選ぶなんて、この国自体に頭賢くなる魔法をかけてやれば?
国王が考えたのか、側近が考えたのか、はたまた王子自体がそれを考えたのか……この企画考えたやつは国の行く末をちゃんと考えているの?」
「そんな事オレに言われてもな……あなた、政治に興味がお有りで? 王妃に向いていらっしゃるのでは?」
「ウルサイダマレ。あんな不自由そうなものになりたいものか。まあ、そんなわけだから私は舞踏会なんてものには興味ないのよ……だから結婚しよう」
「はい!?」
「結婚しよう。お前と私」
「なんで!?」
「私は真実の愛を見つけてしまったんだ」
「まず愛が発生してないんですけど!? 愛どこ!? だいたいオレ、あんたを幸せに導きに来ただけで、オレが結婚するってわけじゃないんだよ!?」
「私の幸せはお前と共にある。えっと名前なんだ」
「名前も知らないのに結婚するつもりだったの!?」
「いやもう、この家一秒だっていたくないし。連れて~逃げてよぉ~」
「何その年寄りが好きそうな歌!? てか、家を出たいならお城の舞踏会へ」
「却下。もう決めた、お前と結婚する」
「せめてオレの気持ち聞いて!?」
「……だめ、なの…?」
私はシンデレラだ。プラチナブロンドに青い瞳に白い肌。
溝鼠にのような格好であれ、灰被りであれ、その美しさは折り紙付きだろう。
私は前世で研究した私が可愛くみえる角度で、魔法使いの男に迫る。
これは前世の平凡な容姿の私でもそこそこイケテル角度だったはずだ。
ならば、シンデレラたる今、かなりの破壊力があるはずだ。
涙を出す練習も前世でやった。……わたしにとって目をうるませる事など、造作もないことよ……。
モテることはなかったけど……。
「え…、いや、その…」
効いている。これはいける。
「王子様なんて興味ないわ……、私、あなたが良い……優しそうだし…」
ポロリと涙をおとす。
今のは完璧なタイミングだったと思う。
見ると魔法使いの男は完全に私の術中にはまった顔をしている。
逃さん。
「えっと……。でもね、シンデレラ。騙されたと思って一度舞踏会行ってみない?
その、オレもあんたを舞踏会に連れて行くのが今請け負ってる仕事でさ。
仕事が完了しないと、給料も貰えないし……」
「給料」
「うん、運命ギルドってとこがあってさ。そこから依頼がくるんだよ」
「給料がでないのはよくない」
「わかってくれた!?」
「夫を無職にするわけにはいかない」
「まだ結婚してないよ!?」
「まだ……?」
「はっ」
「新婚旅行どこにしよっか……(はぁと)」
「ちが、いまのちがうから!!」
「まあまあ。とりあえず舞踏会には行ってあげようじゃないの」
「本当か!?」
「ただしパートナーはお前だ。お前もこい」
「えっ…だってお見合いパーティだよ!?シングルでいかないと!!」
「だって連れてかないとお前逃げるじゃん」
「……いや、にげない、よ?」
その顔はどうみても逃げるタイミングを見計らっているな。
私は、魔法が使えるようにロープを緩めた。
ただし、その代わりに別の部分を補強した。
ちょっと人には見せられない姿になったけど、見るの私だけだからいいか。
漫画だったら危なかった。
「何この姿!! 誰かに見られたらオムコにいけない!!」
魔法使いは泣いた。
「大丈夫、嫁はここにいる、安心しろ」
「オレにだって結婚の夢のひとつやふたつはあるんだよ!?」
「この首に繋がるロープ、なんだかわかる?……逃げようと少しでもおかしな真似をしたらお前の首と胴体はソーセージのように……」
「あんた、オレと結婚したいんだよね!? そのオレにどういう扱いしてるの!?」
「狙った獲物を逃がすくらいなら、殺す。それぐらいもう、惚れている」
「助けて!だれかたす」
私は、魔法使いの唇を奪った。
「……静かにしろよ。まあ、叫んだところでここは街から少し離れた一軒家だから、誰も助けにはこないがな」
「あ…あああああ…オレのファーストキスが……!!!」
少しうっとりした顔したくせに。
「おまえ…初めてだったのか…すまない…」
「あんたは、ちがうの!? だいたい謝るくらいなら最初からもっと他に方法あったでしょ!?」
「は、初めてだよ」
前世も含めて。
そう考えると急に恥ずかしくなってきた。
「やだ…私ったら、つい…」
赤面して頬を染める。
「キャラが違うよ!!」
「責任、取ってくださいね」
「それはオレのセリフだよ!?」
「わかった」
「あああああ!? しまった!?」
茶番はそれくらいにして、魔法使いは私をドレスアップした。
「じゃあ、ちょっくら行ってくる」
「……帰りたい、あの頃に帰りたい……」
魔法使いが涙を流して、さめざめと泣いている……。
可哀想に。あとで慰めよう。
※※※ ※※※
「……なんて美しい人なんだ」
踊りながら王子が私を褒めちぎってくる。
仕事だからしょうがないけど、はやくダーリンのもとへ帰りたい。
「あ、夜中の12時になる。帰らなきゃ」
残業はしたくない。
魔法とけるし。
バリーン!!
私はその場でガラスの靴を大理石の床に叩きつけて、粉々にし、走った。
ガラスの靴を置いていったら、探しに来るからな。
「あ、待ってくれないか……!」
階段を駆け下りる私を王子が追ってくる。
チッ。知ってたけどしつこいな!
ゴーンゴーン。
12時の鐘がなる。
私の姿がもとの灰被りに戻る。
「き……君その姿は」
「ビックリしたでしょう。魔法で綺麗なドレスを着ていただけよ。
これが本当の私。
ねえ、これは私仕事で仕方なかったのよ、許してよね」
「…………」
王子はあんぐりとして固まっている。
「さよなら、このあとも良い夜を」
動きやすい服装になった私は颯爽と駆けて逃げた。
※※※ ※※※
「帰ったぞ」
「亭主関白!?」
魔法使いはちゃんと待っていた。よーし良い子だ。
「……逃げるぞ」
「お城でなにかやらかしたの!?」
「なんもしてないわよ。ただ、万が一王子に気に入られたら追手がくるでしょ。これで解散よ」
私は魔法使いのロープを解いた。
「え……、全部ほどいた?」
「……悪かったわよ。ちょっと鬱憤がたまってたから八つ当たりしてた、だけよ」
夜の街を走り抜けていたら、頭が冷静になってきてしまった。
いくら不法侵入だったとはいえ、この魔法使いには悪いことをした。
鬱憤がたまりすぎて、酷い八つ当たりしてしまってたと思う。
シンデレラとして生きてきて、父親が再婚する前を除けば一番……たのしい時間だった。
「唇を奪って悪かったわ。でも、ちゃんと仕事はしてきたわよ。帰ったらちゃんとお給料もらいなさいよね」
「いや、でもあんたが幸せにならないと、完了した仕事としてレポートがだせなくて」
「大丈夫。今まで逃げる準備をしてきたのよ、これでもね。
あなたが今日来なくても逃げ出して、別の街で働いて自由に生きるつもりだったから…これから私は幸せになるのよ。
安心して、レポートに幸せになったって書くといいわ」
私は少ない荷物の入ったリュックと縄を背中に背負った。
「……縄はもっていくんだ」
ちょっとうんざりした顔をされた。まあ、仕方ないね!
「これないと生きていけないからね。……じゃあ、あなたも気をつけて帰るのよ」
「……いや、待ってくれ」
「なに? もう時間がないのよ。家族が帰ってくるから」
「いや、オレの家こない? け、結婚はしないけど、しばらくは置いてやるよ」
「……どうして急にそんな」
「あんたが舞踏会に行ってる間、オレも考えてたんだよ。幸せを押し付けたなって。
……だから、オレの助手としてしばらく働かないか?」
「あなた、ちょっとやさしすぎるんじゃない? だから私みたいなのにつけ込まれるのよ。
……ありがたいけど、私もう、暮らし方決めてるのよ。じゃあね」
私は窓から飛び降りて走った。
「え! ちょ、ちょっと……!!」
逃げるのは得意だ。
魔法使いなんて足遅そうだし。ちょろい。
さて、次の舞台へいくわよ!!
※※※ ※※※
数カ月後。
私はたどり着いた港町で、漁師をしていた。
「いやー、獲りたての魚旨い!! たまらんね!!」
「シンディ、お前が作ってくれた網は優秀だなあ!」
「シンディ、ホタテやけたぞ、くえくえ」
おっちゃんたちと、漁の後の酒盛りをする。未成年だから私はジュースだけど。
「まっかせてよ~。ロープの扱いが得意だから網とかあむのも得意なのよ~」
はあ、魚でお腹いっぱい。自作の網も褒められて嬉しい。
これって天職なのでは。
一度、城の従者が、なんとあの粉々にしたガラスの靴を修復して家まできたが、
私は、何気に過酷な漁師生活で足が少々たくましくなっており、靴は入らなかった。
さーせん。
……あの王子諦めてないのか。厄介な。
小さな一軒家の自宅に帰って、庭で魚を網で焼く。
しゃがんで、うちわでパタパタ。
いい匂い。幸せだ。
こういうのでいいんだよ。
そこへ、影がさした。
「ん?」
見上げるとそこに。
「見つけたぞ……シンデレラ」
――いつぞやの魔法使いが私を見下ろしていた。
ん? 以前、会った時となんか目つきが違う。
「ああ、いつぞやの……どうしたの?」
……どんくさくて巻くの簡単だったけど、魔法で私を探したのかな?
でもなんで?
「お給料でなかった?」
「違う、そうじゃない」
「魚、ちょうどいい感じ。食べる?」
私は串刺しした魚を差し出す。
「……いらない」
どうした?
怒っているようにも見える。
まあ、無理もないか。
怒っても仕方ない事を私は色々したものな。
「オレが鈍臭くてあんたを追えなかったとでも思うのか?人間界にいられる時間が切れただけだ。
……オレは普段、魔力界といって魔法使いたちが造って集まっている世界にいるんだ。こっちの世界に来るには滞在時間含めて許可がいる。……あんたに会うために、こうやってここに来た。前の話しの続きがしたい」
「助手なら断るよ。今、ここで漁師してて幸せなの。ほら、ちゃんと幸せだよ。
あなたの仕事はちゃんと完了してる」
「違う…結婚の話しだ」
「え、いや、あれは…ほんとごめん」
冷静になった後、とんでもない事をやらかしたと思っていたのだ。
「ごめんじゃ、すまない。
キスまでして、いなくなりやがって。
……あんたの印象が強烈過ぎて、忘れられなくなった」
そういうと、魔法使いは、差し出したほうの魚ではなく、私の手を取って、私の食べかけの魚を齧った。
「責任とって、結婚してもらうからな」
「えっ」
そう言った、魔法使いの顔は真っ赤だった。
――その日以降、魔法使いはちょくちょく私の仕事時間外に家にやってくるようになり、仕事も持ち込むようになり、だんだんと私の家を侵食していった。
「ひと部屋空いてるな。この部屋を使わせてもらう」
「え、ちょっと、勝手に!! そこは縄……んん」
空き部屋はたしかにあった。
様々なくくり方をした縄を飾って、自分だけの博物館を作ろうとしてた部屋がとられた!!
「縄……?(ビクッ)」
「いや……なん、でもないヨ。どうぞ使って……」
くそっ……!!
魔法使いは魔法を使って、ぽんぽん、と自分の家具を入れて部屋を作っていく。
「なにそれ便利!!」
「魔法ってのは便利なものだから」
「結婚しよう」
「元からそのつもりだ」
「はっ……いまのはミス!」
「間違いから始まる恋もある」
「あなたそんなにグイグイ来るタイプでしたっけ?」
「お前がオレを変えたんだ。あらかじめ伝えた通り、責任を取ることだな」
そして、まるでスミレのような美しい紫の瞳をキラキラ輝かせて、私の顔を覗き込むアメオ。
「うっ……! 顔が良い!! 死ぬ! 近寄るな!!」
私は後ずさった。
冷静になった私には、良い顔には免疫がない。
「フ……相変わらず心の声が漏れるやつだな。なるほど、オレの顔はお前に効くようだな。安心した」
「くそ……っ!」
責任を取れと言われた以上、私は何も言えず、このように、最初はしぶしぶ受け入れていた。
でも。
その後、王子にも所在がバレて、何度か結婚の打診をされたけれど、魔法使い――アメオが毅然として断った。
あの夜、か弱い魔法使いの青年だと思っていたけれど、彼は私を守ってくれる――頼りになる本当の旦那様になり、私は本当に彼が好きになってしまった。
それにしても再会してからは、あの夜と違って、立場が逆転してしまい、最終的に私のほうがいじれられる立場となってしまって、私はタジタジだ。くそ、魔法使い舐めてた!
「最初の威勢はどこへいったのやら」
「いや、その」
好きになってしまってからは、私はもうヤツには勝てなかった。
圧倒的敗北に私は苦渋を……いや、いつの間にかいじられるのを期待している自分がいる。
好きになったほうが負け、とはたまに聞くけれど、負けたと思っても心の中では悔しくもなく。
私は思ってもみなかった、幸せな日々を私は手に入れたのだった。
――そして。シンデレラという物語の一番の功労者は魔法使いなんだなぁ、と。
シンデレラを幸せにしてくれる存在なんだな、と、私は思うのだった。
おわり
シンデレラだけど魔法使いを捕まえてみた。 ぷり @maruhi1221
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