第2話:代償の力/吸血鬼の子供





「今日はこれくらいにしといてやる。 これに懲りたら二度と人様の事情に首を突っ込まないことだ、この偽善者クソ野郎がっ……ぺっぺっ!」


 子供のリンチを止めるべく割り込んだ俺だったが、ピンチで力が覚醒することもなくボコボコにされて終わった。


 体が痛い。

 そして惨めだ。


「大丈夫ですか~、魔王様?」

「……大丈夫に見えるかよ」


 しゃがんで俺を見下ろす女悪魔は、大して心配そうでもなく手を差し伸べた。


 俺は男に吐きかけられた臭い唾を拭いながら、よろよろと起き上がる。


「やっぱ下手に関わるもんじゃなかった……って子供は?」

「あなた様がボコられている間に逃げましたよ」


 人を助けるなんて、やっぱりろくなもんじゃない。


 物語で無くても、感謝の一言くらい告げるべきだろう。


「はぁぁぁぁぁぁあ……もう二度と助けねえからな!」


 俺は苛立ちのままに、今ここにいない子供に吐き捨てて家に帰ることにしたのであった。


「しかし目的は達成できたみたいですね」


 女悪魔に言われて、俺が指輪を付けている手を確認すると僅かに黒いあざが薄くなっているように思えた。


 それにじりじりと広がっていた浸食も止まったみたいだ。


「そうだった。 でも改めて思うよ」

「何を思うのです?」

「俺に主人公は向いてないや」


 日本で生きていた時、この世界に転生した時は物語のような主人公に憧れていた。


 しかし主人公というのはこういう理不尽に遭いながらも、めげずに助け続けた結果ヒロインと出会うのだろう。 俺たち消費者はその良い部分だけを見せられているに過ぎなかったのであった。


 異世界と言えど現実は厳しいものである。

 




「なあこの指輪って、魔王の呪いが込められている以外に何かないの?」


 落ち着いたところでふと思った。


 呪いの武器というのはデメリットが強すぎるため誰も使用しようとは思わない。 しかしデメリットに伴い威力が強力であったり、有用な効果が付いていることが通説である。


「魔王の呪いなんてバッドステータス受けるんだから、せめてチート能力の一つもないと割に合わないんだよ!」

「あります」


 女悪魔は自分を指さした。


「……? なに?」

「私のような魔族、モンスターに慕われ、そして配下にしたものを呼び出すことができます」

「ただの魔王じゃねえか!! 魔族に好かれるのも、モンスターに懐かれるのも嬉しくない!」


 そもそも俺の職業は冒険者であり、日々ダンジョンに潜りモンスターと戦っている。 モンスターに懐かれるとむしろ仕事に支障が出そうだ。


「というかお前は何なんだ? 初めからいたけど」

「私は所謂、初めのモンスターというやつです」

「某RPGゲームのような設定だな……まあ色々説明してくれてありがたくはあるけどさ」

「あとはあざが深くなればなるほど魔王様のお力を使えるようになるでしょう」

「おお! それだよそれ! そういうのが欲しかったんだ!」


 魔王の力が使えるなんてチートもいいとこだ。


「ただ力を使えば呪いが加速します!」

「ダメじゃん!!」


 強くなる代償に闇落ちなんて絶対嫌だ。


 たとえどんな美少女が困っていたとしても、世界が滅ぶとしても、そんな力を使おうなんて思えない。


「はあ、結局何のメリットもないじゃないか……」

「配下を集めて軍団を作れば良いのでは?」

「……俺は世界をどうこうするつもりなんてないから! 軍団なんて必要ない!」


 現状の冴えない俺のスペックは変わらないまま、呪いだけ受けるなんてふんだりけったりだ。


「はあ、これからどうしよう……って今まで通り生活しつつ空いた時間で困っている人を助けていくしかない、か」

「世界征服の時間がありませんね?」

「いやいや、しないから……そんなことしてる暇があったら俺はダンジョンでスライムでも倒すよ」


 そして次の日、俺はダンジョンに向かった。


 そろそろ金も尽きるので、今日こそはきっちり働かねばならない。


――ててて


「……足音?」


 宿を出てダンジョンに向かう道すがら、俺は誰かに後を付けられていることに気が付いた。


「気のせい、か……?」


――ててて


 俺が歩くと、後ろから小さな足音がする。


 曲がっても、


――ててて


 走っても、足音はついてくる。


「誰かに追われる理由なんてないはずだけど……よし!」


 俺は突然走り出した。 そして角を曲がって待ち構えた。


――てててててて


「誰だっ!」

「ひゃあ!」


 タイミングを計って飛び出すと、小さな影が驚いて尻もちをついた。


「白い子供……?」


 そこにいたのは真っ白な髪、そして貧相な服装をした子供だった。


「す、すすみません私」

「君は誰なんだ? そしてそうして俺を追っていた?」


 涙目になって焦る子供に尋ねると、その子は膝をついて決意の宿ったルビー色の瞳で俺を見上げた。


 このシーンに俺は、最近見覚えがあった気がする。


「私を魔王様の仲間にしてください!!」


 指輪をしたときに女悪魔が現れた時と完全に同じ構図である。


 しかしまさかこんなところで魔族と出会うとは予想していなかったので、俺は心底驚いた。


 白い髪に、赤い瞳、それは吸血鬼の特徴である。




 

 


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異世界転生のモブ、魔王にとりつかれたので俺のことを魔王様と慕う配下を説得して勇者する~魔王の呪いが全身に回れば闇落ちらしいので、仕方なく人助けしてたら現代の勇者ともてはやされました~ すー @K5511023

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