異世界転生のモブ、魔王にとりつかれたので俺のことを魔王様と慕う配下を説得して勇者する~魔王の呪いが全身に回れば闇落ちらしいので、仕方なく人助けしてたら現代の勇者ともてはやされました~
第1話:転生した異世界は平和で、俺はモブだった。
異世界転生のモブ、魔王にとりつかれたので俺のことを魔王様と慕う配下を説得して勇者する~魔王の呪いが全身に回れば闇落ちらしいので、仕方なく人助けしてたら現代の勇者ともてはやされました~
すー
第1話:転生した異世界は平和で、俺はモブだった。
俺が異世界に転生してから20年。
世界を救うこともなく、チートで無双することなく、平穏に生きてきた。
とはいえ世界はそもそも滅亡の危機なんてことはなく、平和そのものなのだが。
とにかく俺は主人公なんかじゃ決してない。
完全無欠のモブとしてそこそこの生活を、それなりに楽しんでいた――
――はずだった。
「おはようございます、魔王様」
そんな俺の前にひざまずくのは、強者のオーラを放つ美しい女悪魔だった。
「君は一体何なんだ? 魔王……誰のことだ?」
「何をおっしゃいます。 あなた様こそが魔王様。 その指はめている指輪が何よりの証でございます」
女悪魔はどこからともなく現れた。
しかし原因は明白である。
俺の指につけられた黒い指輪、それは今日ダンジョンで手に入れたもの。 それをはめた瞬間、彼女が現れた。
「さあ世界征服を始めましょう」
女悪魔はそれが当たり前かのような表情で言って、ほほ笑むのであった。
――――
――
「……幻覚じゃなかった」
昨日の出来事が信じられなかった俺は、現実逃避するために眠った。
しかし目が覚めると俺の横に美しい女悪魔横たわり、すやすやと穏やかな寝息を立てていた。
「魔王ってなんだよ……これ外れないし」
指輪はまるで接着剤でくっつけたようにびくともしない。
ダンジョンで手に入れたアイテムは、安全を考えれば鑑定して安全を確認して使用するべきだ。
しかし鑑定というのはそれなりに金がかかるので、金欠の冒険者たちは使って効果を確かめる場合もある。
俺は異世界に転生したけど、チートもなく、現代知識で無双するアイディアも無かった。
農家の三男として生まれ、町で冒険者として働きながらその日暮らししているようなモブに鑑定する金はないのである。
「それにこのあざなんだよ」
指輪と接している皮膚が少しだけ黒く染まっていた。
「これが全身に回ったら闇落ちするとか……? はは、ありえないだろ」
この世界には魔王も勇者も、邪神も存在しない。
そんなのは昔話の伝説の話だ。
そんな世界で魔王だなんて未だに信じられない。
「そうだ! きっとこれは召喚の指輪なんだ! この女は召喚獣で、言っていることはただの設定! そういうプレイってことだろ! うん、きっとそうだ!」
魔王だの、世界だのそんなことにかまけている場合ではないのだ。
俺は今日も今日とて飯を食うために働かねば。
「さあ、今日も頑張ってダンジョン探索しますか!」
俺は目の前の女悪魔も、指輪も、あざのことも一旦全て忘れて、いつものようにダンジョンへ向かうのだった。
〇
この世界は大きな視点で見れば平和である。
しかし街中を歩けば小さな不幸はいくらでも転がっている。
路地裏に行けば孤児がいるし、しいたげられる奴隷がいることもある。
「おら! もう二度と悪さできねえようにしてやるよ、クソガキが!」
俺がダンジョンへ向かう道中、盗みを働いた子供へ男たちが数人で執拗に暴行する場面を見た。
気分はもちろんよくない。
可哀そうだ、やりすぎだと思う。
だけど俺が子供を助けることはない。
俺は冒険者といっても強くはない。
男たちは筋骨隆々で明らかに敵う相手には見えなかった。
こんな場面、主人公であれば助けるかもしれない。
しかし俺には強引に助ける力も、丸く収めるアイディアもない。 だから仕方ないことなんだと、俺には関係ないことなんだと、見ない振りをして通り過ぎる。
だけど俺は指の痛みに耐えきれず、立ち止まった。
「イテテ、なんだってんだよ……?!」
朝見た時よりもあざが僅かに広がっているように見えた。
それは現在進行形で、毒のようにじわじわと。
「それはカウントダウンでございます」
「うわあ! お前なんでここにいるんだよ?!」
指輪を剥がそうと悪戦苦闘していると、突然女悪魔が現れ俺は飛び上がるほど驚いた。
「この指輪と私は繋がっておりますから。 身支度を済ませて、朝食もいただいてきました」
「優雅な朝だな……ってそんなことはどうでもいい! カウントダウンってなんだ?! そもそもこのあざは何なのか知ってるのか?!」
「それは魔王様の呪いです」
「の、呪い?!」
「はい、かつてこの世界を滅ぼさんと残虐の限りを尽くした魔王様の魂の呪い。 あなた様の全身にあざが回ったその時、あなた様の心は魔王様に染まり、再びこの世を恐怖に陥れることでしょう」
「こわっ! つまり俺はこのままじゃ魔王になっちゃうってこと?!」
ヒロインも、ライバルもいない。 山も谷もない日々に、刺激が足りないと思ったことはあった。
しかし魔王に体を乗っ取られて、意に反してこの世界をめちゃくちゃにする――そんな刺激は断じて望んでいない。
「どうすればいいんだ?! どうすればこのあざはなくなるんだ?!」
「そのあざは何もせずとも広がっていきます。 加えて悪事を働くと広がる速度は速くなっていく」
「嘘だろ?! 俺の異世界物語は闇落ちエンドなの?!」
前世で強い後悔があって、何か成したいことがあったわけでもない。
それでもこのまま人生を終えるのは嫌だった。
「一つだけ方法があります」
女悪魔は目の前で殴られる子供を指さして言った。
「人を助け、感謝されることです――
――善行を積めばあざは少し薄くなり、一時的に呪いを弱めることができるのです」
子供を助ける、あの中に割り込めば俺が代わりに殴られるだけだ。
痛いのは嫌だ。
だけどこのあざが広がっていくのが本当だとしたら、もっと恐ろしい。
目の前の女悪魔が言っていることが本当かどうかは分からない。
――しかし本当だとしたら。
そんな感情が俺を突き動かした。
その感情の名は正義ではない。
「うおおおお、もうそれくらいにしとけやあああああ」
それを人は――ヤケクソという。
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