4話 新入りの頭は真っ白。下《月》

「はぁ……」

 、濯見夜 月は壁にもたれかかり、ため息をついた。

 今いるのは、ほとんど人が来ることがない北校舎四階の屋上へ続く踊り場だ。

 クラスメイトからの視線と、質問から逃れるため、天とうずめちゃんのアドバイスを元に駆け込んだ。

 ブブとポケットに入れているスマホが震える。

 そこには、天からメッセージが入っていた


『今どこにいるの?』


 すかさず、返信した。別に心配をかけたくてここにいるわけではないし。


『北校舎四階の屋上に続く階段の踊り場』

『おけ』

『そういえば、弁当机の上に置きっぱなしだけどいる?』


 そこで俺は今が昼休みであることを思い出した。必死ですっかり忘れていた。


『持ってきてくれると助かる』

『わかった。うずめと今からそっち行く』


 ありがとう。と書かれたスタンプを押して、俺はまたため息をついた。


 ……疲れた。


 やっぱり、人前に立つのは苦手だ。

 頭が真っ白になって何を話しているかがわからなくなる。

 なんとか笑みだけは絶やさずに話すことが出来るすべは身に着けたため、周りから見れば全然そんなことはないように見えると思う。

 そう見えるなら、努力の甲斐があったというもの。

 正直、生まれながらにどちらかというと陽の属性を持っている天やうずめちゃんが少し羨ましい。

 しかし、そんな努力にも弊害があった。笑いながら会話してくれたというだけで自分に好意を持っていると勘違いした方々が、気付けば俺の目の前で争いはじめ修羅場になってしまうのだ。

 そのたびに巻き込まれていた天やうずめちゃんには少し申し訳ない。

 今日もそんなことが起きるだろうと覚悟しながら過ごしていた。

 だから余計気が張り、疲れてしまった。

 いっそのこと狐の面で顔でも隠せたらいいのに。



「月、いるー?」


 ふと、下から声が聞こえ思考が途切れる。

 大声で叫んだらここに逃げた意味がないだろ。と思いながら踊り場から顔をのぞかせる。

 その瞬間、うずめと目が合い、気づいてくれた。

 そのまま天とともに階段を上がってきた。


「お疲れー」

「おつー」

「……お疲れ様」

「ほい、これ」


 上がってくるなり階段に座り、天がお弁当を渡してくる。

 お礼を言って落とさないよう、慎重に受け取る。


「じゃあ食べようか」

「やったー、ようやく昼ごはんにありつける」


 そして当然のように二人も各々弁当を出して、膝の上に置いていた。


「は、食ってきたんじゃないの」


 その光景に俺は面食らってしまった。

 ここまで来るのにそれなりの時間がたっていたから、てっきり教室で食べてから来たのだと思っていたのだ。


「その時間があったら食べてたよ」

「月君の席なかなかやばかったね」

「ひぇっ」


 俺は何となく想像できる光景に身震いし、ぶんぶんと頭を振って忘れるように努める。


「それに、ここわかりにくすぎ」

「わかる。あたしらが言っておいてあれだけど、めっちゃ見つけるのに時間かかったー」

「マジか、ありがとう」


 遠い目をして言う二人に察しつつお礼を言う。


「いいってことよー」


 ひらひらと手を振って流してくれるうずめちゃん。

 やっぱり、二人は優しいな。


 天窓から差す温かい光に包まれながら俺たちは楽しく昼をとった。

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