2話 夜に見える影は。
「じゃ、月くんが来てくれたことを祝って乾杯!」
「「「乾杯!」」」
音頭をとったお父さんに合わせてグラスをつき合わせる。
「いやー、それにしても1ヶ月遅れるなんて災難だったなぁ。月くん」
黙々とお寿司を頬張っているとお父さんがそう言った。
「はい。僕も、聞かされた時は驚きました」
月はにこやかな笑みを浮かべて答える。私といる時とは大違い。いつもはまるで私を煽るような、からかうような目でみてくるのにさ。
「そうかそうか。今日はゆっくり休んで、明日に備えなさい。天、明日から学校だよな?」
「うん。そうだよ。月を職員室に案内するようにって言われてる」
私はお父さんに尋ねられて金曜日の先生の会話を思い出す。
「おーい、」
「まぁ。本当は私がついていけたらいいのだけど」
「お母さんは明日、おじいちゃんの所へ行くんでしょ。大丈夫だよ私に任せて! ……ゴホッゴホッ」
ドンと強く胸を叩きすぎたせいでむせる。お母さんが心配だわという目で私を見ていた。
夜、私は喉の乾きで目が覚め、水を飲もうと台所に向かう。
冷蔵庫からお茶を取り出しコップに注ぐ。
冷たいお茶が喉を潤す。
全て飲みきり、コップを流しにおく。
ふと、窓の方をむくと、ゆらっと動く影が窓の外に見えた。
一瞬、幽霊の類かと思ったけど、すぐに彼らには影が映らないことを思い出す。
……幽霊じゃないなら人?
サーっと全身から血の気が引いていく。
こんなことなら、幽霊の方が数百倍マシだった。まぁ、幽霊に恐怖を感じたことはそんなにないけど。
最近、神社のお賽銭を盗む人がいるって言う話も聞くし……。
もし泥棒だったら、大変だよね。
ええい!度胸だっ。
私は台所の下から懐中電灯を取り出し、途中の物置で木刀を回収する。
これでも、剣道と柔道を月のお父さんから習っていて、筋がいいと褒められたこともあるんだから。
玄関で丈夫な靴を履き、恐る恐る外へ出る。
右手に進み、先程の窓の前まで進む。
確か、影はこっちの方にあったはず……。
角から少し顔をのぞかせ、辺りを伺う 。
次の瞬間、私は拍子抜けした。
「月……?」
「えっ、天⁈ なんで」
驚いた様子で影の正体―――月が振り返る。
「その、外に影が見えて。気になってつい」
「つい。って」
「で、でも月でよかった〜。何してたの?」
ギュインと月の眉毛が上がりそうな気配がし、私は即座に話題を変える。
月は怒ると結構長い間怒るから、面倒くさい。
「ただ、月を見てただけだよ。ほら今日は満月だから」
呆れたようにそう言って月は空を指す。
そこには神々しく輝く、麗な丸い月があった。
「わ、ほんとだ。キレー」
「だろ」
周りには高い高層ビルや街頭がない境内だからそこその美しさが一際輝いている。
ふわりと風が吹き、体に張り付く熱気を取り払っていく。
「ああ。本当に今日の月はいい」
そう言って月は微笑む。心なしか月の目の色が紫色に見えた気がした。
しばらく、二人で月を見ていた。
「そろそろ戻ろうか。ほら、夏が近づいてきたとはいえど冷えてるしさ」
「そうだね。戻ろうか」
さっき感じた疑問に蓋をし、月と家に帰る。
給湯器と家のあいだに隠した木刀が月に見つからないように注意しながら。
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