0話 神と器はめぐり合う。中

 「もーいーかい!」


 雪が降り積もる広い境内に響いた幼い声。

 声の主、そらはしばらく耳をすまして、返事がないことを確認する。

 返事が聞こえないことを確認し、壁からはなれた。


「つき、どこかなぁ」


 サクサクと音を立てながら雪の上を危なっかしく駆け回る。

 社務所、鳥居の影、門の扉の後ろ、本殿の中。

 心当たりがあるところを片っ端から探していく。


「どこにもいない……」


 疲れたのかとうとう天は手水舎の下ですわりこんでしまった。


「あら、天ちゃん。そこにうずくまってどうしたんですか?」


 頭の上から穏やかな声が聞こえ、顔をあげる。

 そこには見知った初老の巫女がいた。


 ここでは寒いでしょう。という巫女の計らいで、天は社務所にいた。

 ホットココアを手渡され、飲む。

 家で作るよりも甘く、優しい味がした。


 ストーブで体がすっかり温まった天は自分がかくれんぼの途中だったことを思い出す。

 この巫女なら知ってるかもしれない。そう思い、天は巫女に尋ねることにした。


「つきみませんでしたか」

「月くんですか? いいえ、見てないですね」


 巫女は、美しい白髪の少年を思い出した。ここに朝、2人で来てから姿を見ていない。


「そうですか……」


 俯く天。心なしかアホ毛も下に垂れているきがする。


「月くんと何かされてるんですか?」

「えっとね、かくれんぼ!」


 無邪気な笑顔で答える天。その姿に巫女は目を細めながら


「それはいいですね。こちら以外にはどこを探されたんですか?」


 と聞く。


「えっとね、とりいと、もんと……」


 足をぷらぷらさせながら、楽しそうに天は教えた。

 ふと、巫女は天が言った中にあそこが含まれていないことに気が付いた。


「では、馬の象の裏はどうですか?あそこは大きいですから、もしかしたらいるかもしれませんよ」

「おうまさん?」

「はい。ほらお社の近くにある白い馬です」


 社務所の窓から境内の近くを指さす。


「あそこかぁ。さがしてくるね!」


 そこは思いつかなかったのか意外そうな声で天はつぶやく。


「行く前におまちください」


 そう巫女が声をかけると奥に消える。

 戻ってきた巫女の手にはマフラーが握られていた。


「これから更に冷えますから、こちらを巻いていってください」


 くるくると、天の首に赤いマフラーを巻く。


「行ってらっしゃいませ」

「いってきます! まふらー、ありがとうございました!」


 元気よく、天は社務所を出て行った。



「つきみっけ!」


 馬の後ろをそう言うながら覗く天。

 だがそこには月の姿はなかった。


「あれ、いない」


 キョロキョロを当たりを見回すが周りにあるのは天より何倍も背が高い木だけ。


「どこいっちゃったのかなぁ」


 次はどこを探そうかと考える。

 しばらくぼーっとしていると、どこからか声が聞こえた。


[天 、天]


 声が聞こえた方をむくとそこには可愛らしいうさぎの姿が。


「うさぎさん!」


 もふもふとしたうさぎに天は勢いよく駆け寄る。


「どうしてここにいるの?」


 普段見ることは無いであろう、うさぎの姿に天は興味津々。

 すると、うさぎがまるで着いてきて。とでも言うように雑木林のなかに消えてしまう。


「あ、まってー」


 天もそのうさぎを追いかけ雑木林の中に消えていった。

 雑木林は思いのほかすぐに途切れ、無数のの鳥居がずらりと並ぶ道が目の前に現れた。

 雪が降っているはずなのにその道は一切雪が積もってなかった。

 少し遠くを見やると、先程のうさぎがこちらを気にして待っている。


「うさぎさんいた!」


 天はうさぎに追いつき、持ち上げる。


[このまま、この道を進んで]


 うさぎは前足で鳥居の先を指す。

 不安そうに天はうさぎを見る


[大丈夫だから]


 安心させるようにうさぎは天に身を寄せる。


 天はうさぎの言う通り道を進んだ。

 しかし、どれだけ歩こうが景色が一切変わらない。

 前を見ても後ろを見ても赤い鳥居がさきが見えないほどに続いているだけだ。

 もう、天の体力は限界に近いはずだ。なのに天は不思議なことに一切疲れていなかった。


「うさぎさん……」

[大丈夫だ。じきに終わる]


 再び不安を感じたのか、天はうさぎをぎゅっとうさぎを抱きしめた。


(く、苦しい……)


 うさぎは苦しさを覚えながら、天へ先へ行くよう促した。


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