第8話
場所は変わり、探索者協会。
「緊急!緊急!大泉の上級ダンジョンが氾濫しました!繰り返します!」
「上級探索者以上の方は現場でモンスターの対処、住民の避難をお願いします!繰り返します!」
協会の対処は早かった。
探索者は皆ダンジョン端末というものを支給されこれを肌身離さず持っていることを義務付けられる。
そしてこれは緊急時、アラームが鳴るものでもあった。
どれだけ深い眠りでも目が覚めるほどの爆音で、探索者はモンパレのあるところに集まる。
「状況は!?モンパレはどこまで進んでいる!?」
「はっ!ただいままだ出現は……ってえ!?な…なに…これ……」
衛生やカメラが捉えたものはまだ何も出現していない……というかダンジョンの四方を壁が覆っているというものだった。
「なんだこれはあああ!?!?どうなっている!?」
「わ…わかりません!過去にこんなことは一度も…!」
モンスターパレードというのは台風や津波なんかと同じ災害の一種だ。
防ごうと思って防げるものではなく、毎回多大な犠牲を払って何日も探索者が戦って鎮圧するものだ。
特にモンパレ直後、ダンジョンから大量にモンスターが出現する時間は誰も手が出せない。
ただ例外を除けば…殲滅力の高い探索者、それこそ絶級以上の他種族なら可能かもしれないが、こちらの事情に手を貸してくれるような人たちではない。
「現地に状況のわかるやつはいないのか!?」
「専属探索者を向かわせます!」
「逐一状況を仕入れろ!」
「はい!」
しかし、協会に次入ってくる情報はモンパレの鎮圧時になるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それはとても悲痛な声だった。
壁の中から聞こえるのはモンスターの断末魔。
『ブーメラン』
その声で地面にある死体が浮く。
「いけ」
不壊の特性を持ったそれらは一直線に飛んでいき、モンスターどもをブッチブッチと潰していく。
「…戻ってくるからブーメラン…かな?」
想像していたブーメランと違って一直線に飛んでいってそのまま戻ってくる不思議なスキル。
(まぁ神様がくれたもんだし、考えんのやめよ。それより…上級ってこんな感じだっけ…?)
なんというかかなりの覚悟をして足止めだけでもできればと思っていただけに少々肩の荷が降りたというか…弱すぎるというか…。
出てくるモンスターは前世で見たことがないほど強力だがやはり…60000の魔力で扱うブーメランが強すぎた。
(ちょっと邪魔になってきたな…)
倒したモンスターが入り口に積もりすぎてまだまだいるはずの後続が出てこない。
『ブーメラン』
『大地の権能』
スキルを二重展開し壁の一つを少しだけ開ける。そして外にモンスターの死体を投げた。
「解除っと」
すぐさま穴も直してモンスターどもをぶっ殺す。そして溜まったら捨てる。
その繰り返し。
空を飛ぶモンスターは小石で撃ち落としスキルを使ってくる魔物は死体を盾にする。
「…すごい…これだけスキルを使っても魔力は全然減らないし大地の権能も便利すぎる…」
前世では防御や隠れるものとしてしか使えなかったこのスキル。
魔力量が多ければ多彩な使い方ができることがわかった。
「…良い練習台だぁ…!」
もうこいつらは脅威でもなんでもない。
そう思ってからは色々と試した。
ブーメランの戻ってくる秒数や込める魔力量で変わるスピード。
大地をどこまで細かく動かせるのか。
わかったことは繊細な動きをさせようとすればするほど魔力を消費するということ。
ただそれでも500〜1000しか使わない。
500体ほど殺した時だろうか。
急に周囲の気温が冷えた。
「…ん?」
冷えるスピードは速く、霜がもうできていた。
「強化しとくか」
魔力で全身を覆い、気温による身体障害を受けないようにする。
そして入口向けてモンスターを一体投げると…それは一瞬で凍った。
「おぉ…カッチコッチだ…もっかい行ってこい」
氷で覆われたモンスターを再度投げつける。
すると対抗するように大きな氷が数本飛んできた。
「大地の権能」
壁を即座に展開しそれを回避する。
そして氷の当たった壁は瞬時に凍っていった。
(なんだろう。なんででてこないんだ?他のモンスターはゴキブリみたいに湧いてくんのに)
前世でもこのようなモンスターの知識はなかった。
そもそもこの事件で氷を使うモンスターが現れた話など聞いていない。
もしかしたらぶっ殺しすぎてさらに下層のモンスターが出てきてしまったのかもしれないが…それでも超級には届かないはず。
考えられるとするならそれはダンジョンボスしかいない。
「……めっちゃチャンスじゃん」
ダンジョンはボスを殺せばモンスターパレードが起こらなくなる。
だから日本の初級、中級はあらかたボスが討伐されており、一般人はそこの付近に移住することが多い。
上級ともなるとかなり苦戦を強いられるため攻略されているのは指で数えられるぐらいしかない。
ここも攻略してしまえば、家族にダンジョンの脅威が行くことはなくなるだろう。
「大地の権能」
目前の大地を隆起させ、それを魔力で無理やり手の形にする。
そして伸びていく巨大な手はダンジョンに入り、何かを掴んだ。
「よぉし!」
釣りをする感じを少し楽しんでいたわけだが手が握っていたのはハズレだった。
「なんだ、オークロードかよ」
そのまま握りつぶし再度手を伸ばす。
(まだまだいるなぁ…もう脅威ではないしいっそ壁取っ払おうかなぁ…ちまちまめんどくさい…)
だが、壁を解除すれば多くの探索者にバレる。
それは後々面倒臭いから嫌なのだ。
「あっ、良いこと考えた」
モンパレが起きてもう30分ぐらいは経つ。
住民の避難も終わっているだろうしそれなら頭を取りに行っても大丈夫なんじゃねと。
まずは大地の権能で出現させた四方の壁を魔力で強化。
壊されないようにだいぶ多く注ぎ込み陸上のモンスターをここに閉じ込める。
あとは僕がダンジョン内に入れば良いだけ。
「魔力で強化して…よっしゃ!冒険にいくぞ!」
5歳が木の枝を持つかのように剣を手に取り、ダンジョンに入る姿は目を疑うものだろうがこれが現実だった。
「ふんふふーん♪」
これから王人の無双時代が始まる。
現代に逆行転生したけど神様から無理難題を押し付けられた件 モナリザの後頭部 @naohari25
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