第3話 教師の夫
*閲覧注意*
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女神の審判。
「また、亡くなったみたいね」
「本当、怖すぎるわ……」
ママたちが子供を幼稚園に送ったあとで井戸端会議を始めている。
「誰が亡くなったんですか?」
「北部小学校の校長先生よ」
「え?まさか、原因は……」
「女神の審判が下ったんでしょう。本当怖いわよねぇ」
幼稚園の園庭で遊ぶ子供たちに視線を向けて、母親の一人が大きなため息をついた。
「……まさか、校長が……」
「本当に怖いわよ。これで3人目だったかしら?この地域だけで3人よ」
「教員不足もひどいみたいね。ある地域なんて回覧板で臨時教員募集の紙が流れてきたそうよ」
「だからさっさとオンライン授業が受けられるように、あの病気が流行したときにもっと普及させておけばよかったのよ」
「本当よね。どうせ、死んじゃった人たちが反対してたんでしょう?」
「それは流石に言いすぎじゃない?死人に口なしだから事実は分からないわ」
「まぁ、そうだけど……。でも、オンライン授業にしてくれたら安心できるのに。こう、次々と教師が亡くなっていくなんて安心して子供を学校に通わせられないわよ」
「そう?むしろ、女神の審判が下って、不適合者がいなくなるんだからどんどん良くなるんじゃない?」
その会話を聞きながら、母親の一人が、ぽんっと手を叩いた。
「そういえば、あなたの旦那さん、教師だったわよね?大丈夫なの?」
何を言っているのだ。
「大丈夫よ。いじめを助長する教師やいじめ対策を怠った教師が死ぬんでしょう?うちの主人は、とても熱心に指導しているもの。……はっきり言って、仕事熱心すぎて困るくらいよ。子供からの相談の電話を休みの日にも受けたり……。時には駆けつけたり」
「大変ね。家庭より仕事を優先したらそれも女神の審判で亡くなってしまうんじゃない?ほどほどにしないと……」
心配そうにママ友が首を傾げた。
「……まさか……!ああ、でも……。そうよね。別に私は平気でも、家庭より仕事を優先していると審判が下れば大変だもの」
それからママ友たちの心配する声をいくつも受け止め、教師の妻はじゃあと軽く会釈をして井戸端会議を後にした。
これで、きっと名誉は護られるわ。
……近々、夫は死ぬだろう。
亡くなれば「仕事熱心すぎたからだ」とママ友たちは思ってくれるに違いない。
そうでなければ、私は何も悪くないというのに、後ろ指をさされるだろう。
ぎりりと強く手を握り締める。
「生徒に性的な目を向けた教師は正義に反する」
1年以内に死ぬ。
この判断が下されてから、次々と教師が辞めていった。
恐ろしいことに、性的な目を子供たちに向けていた教師が非常に多かったのだ。死ぬよりはと、教師を辞める。
しかし辞めた教師は白い目で見られる。
そりゃそうだろう。子供に対していやらしい目を向けていたというだけで身の毛がよだつ。よもや手を出していたのではという疑いも生まれる。
早くに教師を辞めた者もいる。心を入れ替えれば死ぬことは無いと教師を続けた者もいる。しかし、審判が下り命を落とす者が後を絶たない。
特に、高校教師に集中していた。恐ろしいことに中学教師も、小学校教師も。
子供たちに人気のあの先生が!立派な著書もあるあの先生が!
次々とワイドショーに報じられ、人々はあることないこと噂し始める。
教師の妻というだけで「おたくの旦那さんは大丈夫なの?」と奇異な目を向けられることもあった。
うちは大丈夫。
私と結婚しているのだから。大人の女性が好きなのだ。浮気することはあっても、小学校の教え子に性的な目を向けることなんてあるはずがない。
そう、考えていたのに。
夫が頭を下げた。
「仕事をやめようと思う」
と。
理由を問いただしても、一向に口を開かない夫に告げた。
「あなたは、自分の子供に顔向けができるの?娘に、私は将来なんて説明をすればいいの?」
次の日、用意した紙に記入してもらった。
受取人が娘の名前になっている、生命保険の申込書だ。
「教師を辞めたいなら辞めればいい。自分の子供よりも、自分が大切だというなら。だけど、女神の審判では、子供より自分を優先したことによって、子供の人生が狂うと分かっていながらも自分のことを優先した場合は死ぬって知ってるわよね?よく考えてください。私は……」
子供の名誉を守るために嘘をつく。
嘘をついて人をだますこともよくない。
嘘の内容によっては、女神の審判が下り命を失うこともある。
「もし、嘘をついたことで死んでしまったとしても後悔はしない。あなたは仕事熱心すぎて、家庭よりも仕事を優先したために女神の審判が下ったと……嘘をつきとおします……」
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書いていて気持ちのいいものではない。
子供が犠牲になる出来事は心がえぐれる。
死審判の天秤 とまと @ftoma
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