第17話 世界はそんなに甘くないから
「ん、んふぅ……」
営みを終えた優美が、隣ですぅすぅ寝息を立てている。
日を跨ぎ六月となった。
六月と雖も夜はまだ仄かに肌寒い空気を揺蕩わせている。薄地のブランケットでは風邪を引きかねないので、少し厚めのブランケットを取り出してそちらを優美に被せておく。
「幸せそうな寝顔だな」
頬に手を添えると、優美はちょっぴり口をほころばせて、すりすり頬を擦りつけてくる。
……優美も寂しがり屋なのかもな。
この行動はきっと、恋しさから生じるものなんだろう。
「……ごめんな優美」
優美の望みに答えて、俺は優美の二回目を奪った。
一回目は乱暴に性欲を発散するクズ男。
二回目は隠れて別の女の子とも付き合っているクズ男。
俺が葉月と秘密裏に関係を築いていると知ったとき、優美はどうするだろうか。
叩く。罵る。泣き叫ぶ。
いずれにせよ、優美が失望し絶望することは間違いない。信頼するひとに裏切られたという現実は、確実に暴力よりも強い殺傷力を伴う。
俺が最終的に、優美を選ぼうが、葉月を選ぼうが、その瞬間から逃げることはできない。咎人は贖罪しなければならない。
それは、葉月の告白を聞き入れた時点で覚悟していたことだ。
「しんや、くん……」
むにゃむにゃと口を動かし、舌ったらずな口調で優美は俺の名前を口にする。
「……あぁ。俺はここにいるよ」
霞んだ視界のなかに映る優美を、俺はそっと抱き締める。
「これから優美だけの彼氏になれるよう努力するからさ、だから……こんな最低な俺でも側にいていいかな?」
「ん……んぅ、すぅすぅ……」
「……ちゃんと、優美だけを選ぶからさ。だから、今は…………なんて卑怯にもほどがあるよな」
俺の涙が優美の頬を叩くたびに、優美はくすぐったそうな笑みを浮かべる。
その可愛らしい笑顔が堪らなく苦しくて、俺は声を潜めて嗚咽を漏らしつづける。
俺は、優美だけの彼氏になろうと決めた。
けど、決めたからといって葉月との関係を今すぐ解消できるわけではない。葉月も俺の大切な彼女だから、どちらか片方を贔屓することはできない。
……なんて。
既に矛盾してるがこれが俺の正直な気持ちだ。
だから俺はどうしようもない。
優美も葉月も、どちらも幸せにすることができる世界ならよかったのに……
「……透子ちゃん」
俺はどうすればいいのかな。
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