第8話 最悪で最高の恋
「葉月、こっち向いて」
あの日、葉月は順風満帆な未来を捨てて俺を選んだ。俺の転校によって失われた青春を取り戻すことを選んだ。俺が諦めた初恋を葉月は諦めていなかった。
それほどまでに、葉月は俺のことを好いてくれていた。こんな俺を、葉月は離れていてもずっと想っててくれた。
それが堪らなくうれしくて、俺はやっぱりこの子が好きなんだって、どうしようもないくらいに好きなんだって自覚できたから、俺はあのときに決意した。
これからはこの子の想いに応えようって。
世界が否定する最悪の恋を、この子にとっては最高の恋にする努力をしようって。
「……」
口ずっぱく諭されるとでも思っているのか、葉月はなかなかこちらを向いてくれない。
「ほしいって言ったのは葉月だろ? ほら、早くしないと昼休み終わっちゃうぞ」
「え?」
やっとこっちを見てくれた。
「んんっ……!」
俺は葉月のくちびるを奪い、ぐるぐると口のなかを蹂躙する。
舌を。歯を。歯茎を。頬の裏を。荒れ狂うように葉月の口腔を犯したところで舌を引っ張りだし、舌先から唾液を垂らす。舌先から伸びる銀の糸はやがて葉月の舌先につながる。濡れそばった舌の表面をじれったく伝い、俺の唾液はゆっくりと葉月の喉の奥に向かっていく。淫靡な光景が、俺の官能を肥大させていく。
「んっ」
ごくんと喉を鳴らし、銀橋が分断される。
葉月は陶然とした笑みを湛えて言った。
「もっとちょーだい」
「俺も、もっとほしい」
お互いの身体に強くしがみつき、ここが学校なんてことはお構いなしに俺たちはいつも通りのキスをする。
「んぢゅるるるっ! んちゅぅ、あむぅ、れろれろ、んじゅる……じゅるじゅるうううぅぅぅ~!」
前言撤回。いつも以上に激しいキスだ。
「……へへっ、すっごいえっちな音」
「満足してる?」
「うんっ、大満足っ!」
弾けるような葉月の笑みを見て、俺の選択はまちがっていなかったんだとほっと胸を撫で下ろす。葉月が笑顔でいられるのなら、それが正しい選択だ。
「これからもっと幸せな気分にしてやるからな」
俺が舌を出せば、葉月が舌を絡めてずるずると吸い上げる。
葉月ががんばったのなら、次にがんばるのは俺だ。葉月の弱点である上顎を集中的に攻め、葉月が苦しげな息を漏らしたのならすぐに舌を抜き出して短く優しいキスの雨を顔中に降らせる。頬に、鼻先に、額に、耳たぶに、首筋に……
「あっ、だめっ、今耳の穴ぐりぐりされちゃ……ひゃんっ、あ、あぁあんっ!」
びくびくと身体を震わせるたびに、葉月は密着してやわらかな膨らみを押しつけてくる。豊満とは言い難いが、その緩やかな曲線は葉月の個性を強調しているようで、まるで葉月の分身みたいで。
「はぁはぁ……葉月」
堪らなく愛しさが込み上げてくる。
「んんっ~!」
カッターシャツ越しに軽く双丘を手のひらに収めると、葉月はひときわ大きな嬌声を上げた。
はぁはぁと荒い吐息を漏らす葉月。瞳は潤み、全身は汗ばみ、その艶姿が俺を獣に変貌させていく。気づけば、手のひらに込める力は強まっていた。
「んぁっ、んんっ、やっちゃ、あぁあっ、だ、だめ、声出ちゃ……んんっ!」
舌を突き刺し、くちびるをついばみ、口のなかを攪拌し、胸を揉みしだき……
絶対に超えてはいけない最後の一線だけは超えず、許される範囲で昂る情欲を葉月にぶつけ続ける。
「はぁはぁ……もっと、へへへ。もっとちゅーしてぇ、やっちゃ……んぐぅっ!」
貪るようにくちびるをついばむ。激しいキス、優しいキス。お互いのくちびるから滴り落ちる唾液が、顎を伝ってカッターシャツとズボンを湿らせていく。
教室に戻るまでに乾くだろうか。……なんて気にする必要はないか。俺たちに注目する生徒なんてほとんどいないのだから。
「あっ、あっ、んじゅる、んぁ、はぁはぁ……んちゅ、ちゅぷちゅぷ、んぁっ!」
俺の舌の動きが速まるにつれて、葉月の喘ぎ声は大きくなる。身体がびくんびくんと小刻みに震えている。
まもなく葉月は達する。制服越しに舌先で丘陵の頂上をちろちろと愛撫すると、葉月は激しく痙攣した。
……が、まだ小さな波だ。本命の波は来ていない。
「はぁはぁ、葉月、葉月っ……!」
「ん、んぁあっ、へ、へへ、やっちゃん、んんっ、すごい切なそうな顔してる。ん……やっちゃんも、はぁはぁ、きもちいい?」
「あぁ、最高に気持ちいいよ」
葉月は微笑んだ。
「よかった。じゃあ、いっしょにきもちよくなろ?」
葉月が俺の屹立した陰茎に恥部をぐぐっと押し当ててくる。
「ぁうっ……!」
愛液が布地の感触を溶かしているため、すりすりと軽く擦られるだけでも、危うく腰を抜かしそうになる。まるでそことそこを直接慰めあっているような感覚に脳が焼き切れそうになる。呼気が荒くなり、思考が溶け、快楽だけを求めはじめる。
「んっ……!」
気づけば、俺は腰を動かしていた。
「……はは、いいよ、好きに動かして」
ぐちょぐちょぐちょぐちょと、水っぽい音が絶えず教室に響き渡る。
「あ、あぁっ……」
爆発しそうになる。熱い塊がすぐそこにまで迫っている。
葉月とセックスしたことはない。
が、その寸前の行為にまでは一度だけ及んだことがある。
「んぅ、ふぁ、いいんだよやっちゃん、はぁはぁ、はーちゃん、いっしょがいいな? やっちゃんと、んんっ、イきたい、な?」
俺の両手に指を絡め、貪るようにキスをし、グラインドを加速させる葉月。
葉月のパンツの隙間からは、熱いしずくがぽたぽたと落ちている。
「あ、あぁっ、ら、らめっ、イっちゃう……あ、あぁあっ、あああっ!」
ぢゅるるるるぅ!
「っ……!」
とどめとばかりに、葉月が俺の舌を吸い上げてくる。
……まずい。視界が明滅してきた。
このままじゃ……
「あっ、あっ、あっ、んあああぁぁぁ~っっ!」
身体をびくんと弓なりに逸らし、大声をあげる葉月。
俺の腰の上で絶頂する葉月を見て――我慢の限界が訪れた。
「うっ……!」
俺は、学校で出してしまった。
「はぁはぁ……」
葉月は力なく俺の胸に倒れ込み、荒い吐息を絶えず漏らす。
そんな葉月の背中をゆっくり撫でて、気持ちを落ち着かせる手伝いをする。
「大丈夫? 苦しくない?」
「はぁ、はぁ……うん。だいじょぶ。パンツは大丈夫じゃないけど」
汗だくの顔に照れくさそう笑みを浮かべる葉月。
前髪は額にべったり張りつき、綺麗な肌には玉のような汗が浮かんでいた。
「ごめんね。やっちゃんもきもちよくしたかったんだけど」
「なってるよ」
「え?」
葉月はズボン越しに俺の局所に触れ、そのわだかまる熱と湿っぽさから俺の言葉に嘘はないと確信したらしい。
「よかったぁ~。はーちゃんだけきもちよくなったのかと思ったよ」
「俺はそれでも構わないよ」
葉月を背中から抱き締めて、小さな頭に顎を乗せる。
「葉月が幸せなら俺も幸せだよ。俺は葉月の笑顔のためならなんだってする」
「えへへ、やっちゃんはずるいなぁ。そんなこと言われたらもっとやっちゃんのこと好きになっちゃうよ~」
猫みたいに頬を擦りつけてくる。
「好きだよ葉月」
たいていの場合、葉月は頭を撫でるかキスするかで機嫌を直してくれる。こうやって対処療法みたく言うとますます動物っぽいが……人間って動物だっけ? キスの余韻で頭がバカになっている。思考がうまくまとまらない。
「んちゅ、うん、わたしすきだよやっちゃん。んむぅ、れろろ、だ~いすきっ」
そんな状態なのに葉月がちゅっちゅしてくるものだから、俺はますますバカになる。もう、葉月のことしか考えられない。……って既にそうだったか。
「昼休みまだ五分あるけど、どうする?」
野暮な問いかけかもしれないが、念のため確認しておく。
「しよ。もっとしよ。はーちゃん、やっちゃんともっとしたい」
どうやら俺より葉月の方が出来上がっているようだ。
目は据わり、顔は真っ赤に火照っている。カッターシャツは汗とか唾液とか色々なもので湿っていて、ブラジャーもうっすらと透けて見える。
間違いなく五分じゃ乾き切らない。授業に出席するのは無理そうだ。
「わかった。ちょっと待って」
スマホを取り出し、透子ちゃんにメッセージを送る。と同時に隣の教室からピコンと通知音が聞こえてきた。
「へっ。隣にひといるじゃん……」
葉月の顔がぎょっと引き攣る。
葉月を安心させるように、頭を撫でながら俺はいう。
「気にしなくて大丈夫だよ。俺たちのこと言いふらしたりしないから」
あ、まずい。
頭がバカになっているせいでポカをしてしまった。
「そっか。なら大丈夫だねっ」
けどそれは葉月も同じだから、揚げ足を取るような指摘はしてこない。
平和だ。対立がなくてすばらしい。
「じゃ、まずは弁当食べよっか。葉月もおなか空いてるんじゃない?」
「もうぺっこぺこ~。だからやっちゃん、たべさせて?」
「まったく、葉月は甘えん坊だなぁ」
葉月の前髪を持ち上げ、額に軽くくちづけする。
その後、俺と葉月は授業をサボって一時間ほどイチャついてから帰宅した。
そして、葉月の家でその倍以上の時間イチャついた。
○○○
「ねぇ、そのおかずなんで捨てるの?
「っ……!」
帰宅後、こっそり弁当箱を洗おうと台所に立つと、すぐ後ろに透子ちゃんが立っていて危うく腰を抜かしかけた。
「……黙秘権を行使します」
「そ。なら許す」
満足そうに微笑み、透子ちゃんは弾むような足取りで部屋に戻って行った。
「……葉月と昂りすぎて、弁当箱をひっくり返してダメにしたなんて言えないよな」
まぁ透子ちゃんは隣の教室にいたから、なんとなく勘づいてるんだろうけど。
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